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法務部門の仕事内容と業務プロセス

法務部門の仕事は多岐に渡っています。

 

大きくは紛争処理法務予防法務戦略法務に分類できますが、考え方によってはこれらの複数に属するものや分類しにくいものもあります。必ずしも画一的な流れを持つ仕事ではないということです。

 

よって、何となく漠然としている業務の雰囲気をつかむために、具体的な法務の仕事内容や業務プロセスはどのようなものかを考えてみましょう。

 

法務部門の仕事内容

 

【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社のM社長は、新たに立ち上げる法務部門の担当者を考える上で、まずは自らが法務担当者として動いてみようと考えました。

 

現在も契約などの最終決定権はM社長にありますが、M社長は主に決済だけを行い、実際の業務は社員それぞれが独立して行っているのが現状です。

 

規模によっては実際にはM社長はまったく関与せず、決裁権限を持つ部門の代表者が決裁しているケースも多々あります。

 

そこで、M社長は法務に関する実務はすべてM社長に集約し、一任するように社員に通達しました。

 

M社長はどの程度仕事が舞い込むのかまったく想像がついていませんでしたが、実際に通達してみると、そのときからM社長のもとに法務関係の業務が一気に流れ込んできました。

 

それはM社長の想像をはるかに超えるものでした。M社長はどこから手をつけていいかわからなくなってしまいました。

 

【解説】
特に新規事業への参入時や会社の成長期などは、法務部門の業務は非常に多忙になっていきます。新たな会社との契約や規模拡大による社内規定の見直しが必要となったりするためです。

 

そのようなときの法務の仕事は、以下のようなものになります。

 

法務部門の仕事内容と業務プロセス1

 

これらは、法令に関する判断が必要なほぼすべての業務ということができます。

 

法令の改定確認」のように法務部署が単独で行えるものもありますが、基本的には他部署とコミュニケーションを取ることによって成立する業務と言えます。

 

例えば「労務管理」は、人事部や総務部といった管理部署との折衝が必要となり、「訴訟・クレーム対応」は実際に訴訟やクレームを起こされた部署や担当者との折衝が必要となります。

 

そして「債権管理」や「株主対応」、「知的財産の管理」などを見ると、会社の資産に関する様々な仕事があることもわかります。

 

会社の資産の管理は家計とは異なって法令で制限されているものが多数あるため、法務部門の仕事となることが多いということです。

 

M社長の元に一気に仕事が流れ込んだことを考えると、Z社にはいかに法令に関係する業務が多かったかということがわかります。

 

そして、社員の中にはそれが法令に関係する案件かどうかがわからず、本来は法務案件でないものを持ち込んだり、法務案件であるものを持ち込まなかったりすることもあります。

 

法務担当者はそのような精査も行う必要があります。

 

法務部門の業務プロセス

 

では、業務プロセスを確認しましょう。

 

【例題】
M社長は新規契約の件数などがここまで大きくなっていたことに驚き、まずは優先順位をつけて業務に当たっていこうと考えました。

 

しかし、実際社員に聞いてみるとどれも「重要な案件です」という回答しかありません。

 

その上、各部門の代表者からは「社内規定の改定をお願いしたい」、「現時点では明確には定まっていない外部業者の決定方法について、法務の見地から考えた指針を作ってもらいたい」などの社内の規則に関する要望も上がってきました。

 

M社長は困ってしまいました。

 

よく考えると、各部門の業務担当者あるいはその部門の責任者にとっては、成績に関わるものはすべて重要案件ということになります。万が一の遅れなどを考えると、重要ではないとは言えないのです。

 

そして、社内の規則が充実しておらず、新事業などの際に拠り所となる判断基準がないのも確かです。

 

M社長はたまりにたまった案件を見てため息をつきながら、法務部門の担当者は、「全社的な立場に立って優先順位を決められる担当者でなければならない」ということを実感しました。

 

【解説】
M社長が優先順位を決めようとして社員に聞き取りを行ったように、法務案件を進めるまず第一のステップは「業務担当者に話を聞く」ということです。

 

そして一連の流れは以下のようになります。

 

法務部門の仕事内容と業務プロセス2

 

≪業務担当者(クライアント)とのやり取り≫

 

法務部門のほとんどの仕事は、原則として社内の担当者が「クライアント(依頼者)」です。

 

よって、すべてはそこから始まると言っても過言ではありません。依頼のあった業務担当者に対して、依頼内容に関する聞き取りを行います。

 

これまでに同じような案件で何度も依頼されている、あるいは法務担当者の熟知している業務であるといった場合は、聞き取りの必要がない場合もありますが、正確性を考えると原則として聞き取りを行うと考えたほうがよいでしょう。

 

聞き取りを行う際は、以下の点に気をつけます。

 

1.業務担当者は誰か?

 

2.アウトプットの期限はいつか?

 

3.案件の内容はどのようなものか?

 

4.取引先はどこか?

 

1.業務担当者(クライアント)は誰か?

 

まず、業務担当者についてです。

 

一般的には、権限を持たない一般の業務担当者が依頼してくる場合が大半と言えます。

 

しかし、場合によっては部長クラスの役職者が直接依頼をしてくる場合もあります。

 

このようなケースはその案件は「会社的に見て重要である可能性が高い」と言えます。

 

また、直接依頼してくるのは一般の担当者だとしても、進捗を役職者が確認してくる場合なども、重要度が高い案件と考えることができます。

 

2.アウトプットの期限はいつか?

 

次にアウトプットの期限です。

 

期限については、ただ単に担当者が見積る期限に従うのではなく、可能な限りその案件に関する正確なスケジュールを入手するようにします。

 

いつどこで、どのようなイベントがあるのかを具体的に知ることで、アウトプット後のフォローについても検討することができるためです。

 

3.案件の内容はどのようなものか?

 

そして案件の内容も大切です。

 

例えば契約書であればそれはどのような製品やサービスなのか、こちらは売り手なのか買い手なのか、商流(権利の流れ)や物流(商品の流れ)がどのようになっているのかについても確認します。

 

自社が置かれている状況により、力関係や今後の流れに影響を与えるためです。

 

4.取引先はどこか?

 

最後に取引先の確認です。

 

取引先が新規なのか既存顧客なのか、新規だとすると会社の信頼性や規模はどの程度なのかなどを確認します。

 

既存の取引先であればある程度のことが把握できているため問題は少ないと言えますが、新規の取引先はより注意が必要です。

 

≪優先順位の決定≫

 

M社長も悩んでしまいましたが、最も大切なのが取り掛かる案件の優先順位づけです。

 

優先順位は業務担当者とのやり取りを踏まえた上で、あくまでも全社的な見地から行います。

 

上述したように、部長クラスの役職者が依頼を持ち込むようなケースは重要度が高いために優先度は高くなる場合が多くなります。

 

しかし、一般担当者が持ち込むケースでも、例えばクレーム案件などの場合は初動が遅れることで会社のイメージを大きく損なってしまうケースも増えています。

 

このように、「それぞれの案件が会社にどのような影響を与えるか」を常に考えて優先順位を決めることが必要となります。

 

≪業務担当者との会議≫

 

持ち込まれる案件の内容によっては、聞き取りだけでは全容が把握できない場合も多く存在します。

 

また、そもそも複数の部署が関係しており、法務部門だけで決定することができないというケースもあります。

 

そのような場合には担当者を集めての会議が有効です。

 

会議が最も必要とされるケースは、製品やサービスの品質に関するクレーム対応などです。

 

その品質が法令に準拠しているかどうかを判断するためには、現場からの詳細な情報が必要となります。

 

また、品質だけではなく、現場で顧客にどのような対応を行ったかという情報が必要になることもあります。

 

そのような際は、担当者同士が直接顔を合わせて情報を共有しあうことが、最も正確な情報伝達と責任の所在の明確化につながります。

 

≪アウトプット≫

 

必要な情報が入手できると、次に必要なのがいよいよアウトプット作業です。

 

情報を精査して自社の不利にならないようにアウトプットを行います。

 

このとき、依頼者に対する成果物が「法令に準拠したミスのないもの」ということが最低条件です。

 

しかしそれだけではなく、依頼者にとってわかりやすいようにアウトプットを行う必要があります。

 

≪業務担当者の事後フォロー≫

 

法務の仕事は、アウトプットだけでは終わりません。

 

アウトプットした成果物に何らかの問題が発生するなどの可能性もあります。

 

よって、そのような場合にそなえて業務担当者に対して事後のフォローを行い、アウトプット後に問題が発生しないようにします。

 

ポイント

 

・法務の業務は、法令に関係するほぼすべての業務がその対象となる。

 

・法務の案件が放置される場合もあるため、その漏れに気をつける。

 

・法務担当者のクライアントは内部の業務担当者である。

 

・法務担当者は場合によっては会議を行って正確な情報を得る必要がある。

 

・法務の業務には明確な始まりや終わりがない場合もある。

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