倒産制度の仕組み(民事再生、破産、解散、清算)
今回は倒産制度の仕組みについて説明していきます。
この文章を読むことで、「倒産の概要」「倒産後の手続き」について学ぶことができます。
経営破綻と倒産
時折、新聞などで「〇〇会社が経営破綻」などという記事を目にすることがあります。経営破綻とは、近年になってよく使用されるようになった言葉で、つまりは倒産と同義です。
ただ、経営破綻も倒産も、いずれも法律用語ではありませんので明確な定義があるわけではありません。基本的には、「資金繰りの悪化などで会社の経営が立ち行かなくなった状態」ということです。
そして、経営破綻や倒産という言葉はそれ自体が何らかの未来を示すものでもありません。必ずしも「倒産=会社の終了」というわけではないのです。
もちろん倒産して会社をたたむ会社もあります。
しかし、倒産後に再建し、上場を果たす会社もあります。
では、会社はどのように倒産し、具体的にどのような道を進むことになるのでしょうか。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、法務の仕事に対して充実感を持って仕事を行っています。
覚えなければいけないことはたくさんありますが、会社に関する法制度や仕組みを知ることが楽しく感じられるからです。
そんなA君は、これまでA君と同じように充実した気持ちで仕事をしていた友人に、最近元気がないことに気づきました。
友人はA君と同じように近年勢いがあり、成長著しいと言われているインターネット広告会社に勤め、法人営業を行っています。
どうやら会社で何かあったようでした。A君がどうしたのか尋ねてみると、友人は重い口を開き、ため息をつきながら答えました。
「最近なかなか新しい案件が取れないんだ。どうもうちの広告の課金システムが画期的なものではなくなっているんだと思う。うちみたいな会社は今本当に増えているから、何が起きるかわからないとは思っていたんだけど、顧客離れは想像以上なんだ。詳しいことはわからないんだけど、営業は大体苦労していると思う。まさか会社が倒産するとは思わないんだけど、何とかしないと給料に響くからなあ。というわけで、困っているところなんだ。」
A君は友人にねぎらいの言葉をかけながら、倒産という言葉に驚きました。
A君の働くZ社は、今は非常に順調に業績を伸ばしています。しかし、友人の会社のように今後何があるかわかりません。倒産などということは考えたくはないですが、友人の言う通り今は何が起こるかわからない世の中です。
「何かあったときには遅いのかもしれない。」とA君は思いました。
そして、会社はどのような状態になれば倒産するのか、倒産したら会社や自分たちはどのようになってしまうのかについて勉強しようと考え始めました。
【解説】
例題の友人が勤める会社のように、現在は業績が絶好調だった会社が数期の業績悪化で瞬時に経営破綻に陥ってしまうことも決して珍しくはありません。
特に無形の技術力などで勝負している会社は、その技術に独自性が薄れてしまうと途端に加熱競争に巻き込まれることとなり、大手の参入などによって業績が悪化するというケースが多くなります。
そして、倒産状態に至ることも決して稀ではないのです。
近年は景気が上向いているため、倒産する会社は減少していると言われています。
しかし、その陰でいわゆる「隠れ倒産」は実は増えているという指摘もあります。(隠れ倒産については後述します。)
では、そもそも倒産とはどのような状態を指すのでしょう。
倒産とは
倒産とは、主に以下の状態のことを言うことが多くなっています。
1.会社が必要な費用の支払いができない状態となり、事業が停止した。
2.銀行との取引ができなくなった。
3.1や2などの理由により、会社が裁判所に法律に基づく処理を依頼した。
まず、1の資金の枯渇による事業の停止です。
取引先などに対して支払いができなくなってしまった場合、当然のことながら会社の信用は落ちてしまい、その情報が伝わって取引をしてくれる会社はほとんどなくなってしまいます。
そして事業を継続することが難しい状態となります。
このような状態は、実質的な倒産とみなされます。
2の銀行との取引ができない状態とは、具体的には「手形の支払いが半年間で2回できなくなった」という状態です。
この場合も会社は資金繰りが一切できなくなることを意味しますので、実質的な倒産となります。
なお、手形とは「代金を後払いする」という約束をすることで、日常生活でいうクレジットカードでの購買と似たような信用取引のことです。
クレジットカードを使うと、今銀行にお金がなくても欲しい商品を購入することができます。
そして、後日そのクレジットカード会社からの請求額を工面すれば問題はありません。
しかし、請求額が支払えなければ、クレジットカードは使用できなくなり、場合によっては裁判所から支払いを命令されることとなります。
手形もこれと同じです。
その手形を支払うことができなければ、金融機関との取引はできなくなり、担保とした会社の資産は差し押さえられてしまいます。
そして最後の3は、会社が自分で再建することは不可能と判断し、裁判所による処理をお願いした状態です。
この3の状態は、自力再建を放棄しているので、完全に倒産と定義されます。
倒産後の手続き
会社が倒産状態になると、今度は会社をどんな方向にもっていくかということが問題となります。
そして、原則として倒産した会社の進む方向は2つしかありません。
それは、「会社を清算する(たたむ)」、あるいは「会社を再建する」の2つです。
その際、いずれの場合も「法的に整理する」か「私的に整理する」かについても決めなければなりません。
なお、「法的に整理する」とは、自力で整理することが不可能となり、裁判所の仲介を得ながら法律に基づいて整理していくことです。
「私的に整理する」とは、裁判所を通さず、自力で清算あるいは再建することです。
つまり、進むべき道は2つでも、その手段によって最終的に4つの道があることになります。
そして、この4つの道にはそれぞれいくつかの手段が用意されています。
1.会社を「清算」する場合の主な手段
1-1.私的に清算する
→ 通常清算、私的整理(任意整理)
1-2.法的に清算する
→ 特別清算、破産
2.会社を「再建」する場合の主な手段
2-1.私的に再建する
→ 私的整理(任意整理)
2-2.法的に再建する
→ 特定調停、民事再生、会社更生
では、それぞれの手続きについて、どのようなことが必要かを理解していきましょう。
1.会社を「清算」する場合の主な手段
1-1.私的に清算する
≪通常清算≫
通常清算は、一般には倒産とは言えない状態で会社を解散し、清算する場合の清算方法です。
例えば後継者がいない、あるいは今後の事業の見通しが立たないなどといった場合にとられる手法です。
会社の事業が好調の時に清算することは考えにくいため、基本的には、「倒産状態ではないが、やむを得ずに」会社を清算するということです。
そして、この「倒産状態ではないが、やむを得ずに」清算する状態が、上述した「隠れ倒産」です。
隠れ倒産は倒産の部類に含まれないため、倒産が減ったからと言って必ずしも全体的に会社の経営が上向いているとは限らないということです。
通常清算を行う際は、まずは会社を解散し、その後清算するという手続きを行います。
・会社の解散
会社法では、以下の7つのケースを「会社を解散する事由」としています。
1.定款で定めた存続期間の満了
2.定款で定めた解散の事由の発生
3.株主総会の決議
4.合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
5.破産手続開始の決定
6.解散を命ずる裁判
7.休眠会社で、事業を廃止していない旨の届出をすべき会社がそれをしないとき(みなし解散)
このうち、定款で存続期間や解散の事由などを定めていない場合、通常清算は3の株主総会の決議によって行われることが大半となります。
・会社の清算
会社が解散すると、清算手続きが行われます。
清算とは会社の財産を処分し、清算登記を行うことです。
会社を清算するのは清算人です。
通常は取締役が清算人となり、債権の取り立てや債務の弁済を行った後、残余財産を分配して最終的に清算の登記を行います。
通常清算を行う場合は、まずは債権者や従業員などにしっかりと説明を行い、株主総会の特別決議、解散や清算の登記などを抜かりなく行えば、比較的スムーズに会社を整理することができます。
≪私的整理(任意整理)≫
私的整理は任意整理とも呼ばれ、裁判所を介しない、すなわち法令とは関係なく任意で整理するという手段です。
大きな枠組みでとらえると、通常清算も私的整理の中に入ります。
しかし、ニュアンス的には通常清算は倒産状態にはない場合、私的整理は倒産状態にある場合と捉えられています。
そして、私的整理は清算する場合、再建する場合の両方で採用することができる手法です。
任意整理は倒産状態にありながらも会社のステークホルダー(利害関係者)全員に納得してもらった上で会社を清算、あるいは再建する手法で、どの会社もまずはこの手法で会社を整理できるかどうか、検討することとなります。
法的手段に頼らずに整理できる手法であるためです。
任意整理の特徴は以下のようになります。
・裁判所を介さないため、比較的早期に整理することが可能となる。
・整理費用が抑えられることが多い。
・債権者や従業員が多数の場合は、完全に自力で行うことは難しい。
・債権者への弁済を完全に公平に行うことは難しく、不平等になる恐れがある。
・全ステークホルダーの同意がなければ、法的な手法に移行せざるを得ない。
・法的手段によらないため、特に再建を考える場合は倒産状態が公になることなく一度整理することができる。
1-2.法的に清算する
通常清算、任意整理といった私的整理による清算が不可能な場合は、法的な清算に頼ることとなります。
≪特別清算≫
特別清算とは、会社に債務超過の疑いがあるなど、清算に支障をきたすと考えられる場合に取られる会社法によって規定された法的清算の手法です。
債権者や清算人が裁判所に申し立てることにより、裁判所によって特別清算の決定が行われます。
清算人は特別清算人という立場に変わり、裁判所の監督の下で債権者の同意を取って清算を進めます。
しかし、現実的には清算に支障をきたす状態で債権者の同意を取るのは難しいために、この手法で清算することは難しく、破産となるケースが大半です。
≪破産≫
破産は債務者が債務を返済することができないと判断された場合に、裁判所の介入の下でその財産を清算するという手法です。
破産法によって規定されています。
破産すると、その財産は裁判所が選任した破産管財人によって管理されることになるので、破産者は財産を自分で管理することができなくなります。
また、破産は「自己破産」という言葉があるように、会社だけではなく個人にも適用される手法です。
・破産の流れ
破産手続きの流れは以下の通りとなります。
破産の申し立てを行う。
↓
財産の保全処分が行われる。
↓
裁判所によって破産手続きの開始が決定され、破産管財人が選任される。
↓
破産管財人による破産者の財産の換金作業が進められ、債権者への配分を決める。
↓
債権者への配当が行われ、債権者の異議申し立てがなければ手続きは終了し、会社は清算される。
※破産した場合の財産配分
破産するとその財産は破産管財人によって配分されますが、その際、配分には優先順位があります。
【優先して配分される財産(財団債権)】
・破産管財人の報酬
・裁判の費用
・破産手続開始前に発生していた税金
・破産手続開始前の一定期間の従業員の給料
このため、債権者への配分はかなり少ないものとなります。
破産は上記のように様々な手続きを必要とすることから、会社を清算する場合の「最後の手段」となります。
2.会社を「再建」する場合の主な手段
2-1.私的に再建する
≪私的整理(任意整理)≫
1-1の私的整理と同様です。
2-2.法的に再建する
≪特定調停≫
特定調停とは、裁判所が会社と債権者との間に入って調停を行い、合意を図って会社が再建可能な状態となるように支援を行う制度です。
特定調停法によって規定されています。
特定調停は法的な手段ですが、最終的にはあくまでも債権者との合意が必要となります。
≪民事再生≫
民事再生とは、会社に1.破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがある場合、あるいは2.事業の継続に著しい支障を来すことなく債務を弁済することができない場合、に申立てを行って会社の再建を図る手法です。
民事再生法によって規定されています。
民事再生の申立ては原則として会社(再生債務者)が行いますが、1の場合は債権者が行うこともできます。
民事再生の大きな特徴は、以下の通りです。
・個人、法人問わずに申立てできる。
・会社の経営陣が財産管理を行いながら経営を続け、再建を図っていくことができる。
再生を希望する債務者が破産する前に裁判所が介入し、経営を再生しましょうというのが民事再生です。
・再生計画
民事再生で最も重要なのは、「再生計画」です。
再生計画とは、会社をどのように立て直すか、これまでの債務をどう返済していくかということを会社が考えて、裁判所に提出するものです。
この時点の再生計画は、再生計画案と呼ばれています。
この再生計画案を債権者が同意し、最終的に裁判所がその再生計画を認めることで、再生計画としての効力が生じます。
なお、「債権者が同意」とは、再生計画案について、議決権を持つ債権者の過半数かつ全体の議決権の半分以上の同意があることです。
・民事再生の流れ
民事再生手続きの流れは、以下の通りとなります。
民事再生の申立てを行う。(基本的には再生債務者である会社が行う。)
↓
財産の保全処分が行われ、監督委員が選任される。
↓
裁判所によって民事再生手続きの開始が決定される。
↓
債権者によって、会社に対する債権が提出される。
↓
会社で債権が吟味され、認否書が提出される。
↓
債権が合意される。
↓
会社が裁判所に再生計画案を提出する。
↓
債権者集会が開催される。
↓
再生計画案が決議される。
↓
裁判所によって再生計画が認可される。
↓
再生計画が実施される。
≪会社更生≫
会社更生は、民事再生に似た再建手法です。
会社更生法によって規定されています。
民事再生と会社更生には、以下の違いがあります。
会社更生はその手続きが厳格であるため、株式会社、中でも債権者を多数持つ大企業が採用することの多い手法です。
また、経営責任がある経営陣は退陣することとなるために、経営者が自ら再建したいと考える場合にも適しません。
債権者に対する拘束力が強いために、債権者の意向によって再生が停滞するということは少ないですが、その代わり柔軟性に欠けるため、再生に時間を要するケースが多くなります。
まとめ
・倒産とは主に、費用不足によって事業が停止した、銀行との取引が停止された、裁判所に法に基づく処理を依頼した、という状態を言う。
・倒産した場合、会社を清算するor再建するの2つの道があり、かつ私的に整理するor法的に整理するの2つの手法がある。
・清算する方法としては、私的には通常清算・任意整理、法的には特別清算、破産がある。
・再建する方法としては、私的には私的整理、法的には特定調停・民事再生・会社更生がある。
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