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法定労働時間と変形労働時間

今回は法定労働時間と変形労働時間について説明していきます。

 

この文章を読むことで、「法定労働時間の概要」「変形労働時間の概要と適用要件」について学ぶことができます。

 

労働時間の流動化

 

会社は通常、フレックスを採用している場合などを除き、原則として始業時間や終業時間が決まっています。

 

しかし、業種によっては月によって、あるいは週や日によって忙しさが異なる場合もあり、そのような場合はその時の忙しさによって労働時間を変えることが、会社にとっては合理的と考えることができます。

 

閑散期と繁忙期がはっきりしているにもかかわらず常に勤務時間が同じだと、閑散期には人員が余り、繁忙期には人員不足となってアルバイトなどで対応せざるを得ず、余計な人件費がかかってしまうためです。

 

よって、そんな閑散期と繁忙期がはっきりしている会社に例外的に認められるのが、変形労働時間制という制度です。

 

【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、先日開発部署の社員が「最近はうちもブラックだよなあ。」と嘆いていたことを、社員の名前は伏せてM社長に話してみました。

 

A君は内心M社長に怒られるのではないかと心配でしたが、M社長は何も言わず、A君の話を聞いていました。そしてこう言いました。

 

「確かに我が社の急成長にともなって、開発部署の社員にしわ寄せが行っていることはわかっているよ。

 

そしてそれは開発だけではなくて営業も同じだ。多忙な時期は客先でのプレゼンや発注処理に追われているからね。実際に各部署からもそういう声は上がっているし、対策を考えないといけないと思っているよ。」

 

そして、M社長はA君にこうも言いました。

 

「君はどう思う?この現状は、会社の今後を考えると確かに大きな問題になる可能性があると思う。

 

成長期の会社は、特にある一部の社員の能力に頼る傾向があって、その社員に負荷がかかりすぎて退職を招き、経営が失速するという話はよくあるからね。

 

特に、我が社はまだ会社としての組織体系やコンプライアンスが完全に整っているとは言えないこれからの会社だ。成長は歓迎すべきだけど、私はもしかしたらこの成長があだになる可能性すらあると思っているよ。」

 

A君は少し前に聞いた「友人の会社経営がうまくいっていない」という話を思い出し、少し考えてこう答えました。

 

「確かに仰る通りだと思います。ではまず、それぞれの部署や社員の労働時間の傾向を改めて見直すというのはどうでしょう。

 

我が社のアプリの受注は特定のある時期に集中しています。そのような繁忙期と労働時間の傾向を踏まえて、例えば変形労働時間を採用し、労働時間にメリハリをつけるのも一つの手なのではないかと思います。」

 

M社長はしばらく考えて、答えました。

 

「変形労働時間制か。なるほど、それも一つの手かもしれない。

 

では変形労働時間制についてそれはどのような手続きが必要なのか、あるいは我が社ではどのように採用するべきか、考えてくれないか?」

 

A君は「わかりました。」と答えました。

 

A君は社長が組織の現状を把握していることに安堵感を覚え、会社にとっても社員にとっても、そして顧客にとっても満足ができる労働時間システムを見つけたいと思いました。

 

【解説】
会社では、ある時期にある特定部署に負荷がかかることがどうしても避けられない状況になることがあります。そのために、負荷が大きい部署の社員には賃金などで報いるということが一般的に行われています。

 

しかし、それだけでは負荷が大きい社員のモチベーション維持が難しくなったり、賃金に差をつけることで社内の他部署の社員が不公平感を感じることもあります。

 

そんな場合に一つの対策となるのが、変形労働時間制という労働時間の流動化です。

 

業種・職種によってその効果は異なりますが、労働時間を法令にのっとった形で流動的にすることは、社員のモチベーションを高めて会社を効率的に経営する一つの手法です。

 

法定労働時間とは

 

わが国では労働基準法により、「法定労働時間」が決まっています。

 

法定労働時間とは、休憩時間を除いた「1日8時間、週40時間」の労働のことです。

 

会社は従業員をこの法定労働時間を超えて働かせることはできません。

 

例えば、就業規則あるいは労働契約で「始業時間8時、就業時間18時、休憩時間1時間」とあった場合、労働時間は9時間になっているため、この時点ですでに労働基準法違反となります。

 

よって雇用の大前提として、まずは法定労働時間は1日8時間、週40時間であることを覚えておきましょう。

 

なお、労働基準法では休日についても「毎週少なくとも一回の休日」、あるいは「四週間を通じ四日以上の休日」を与えることを義務付けています。

 

変形労働時間制とは

 

例えば小売業を営むA社では、何らかの理由で月末に特に客が多くなり、忙しくなるとします。

 

A社の場合、法定労働時間をそのまま採用して労働時間を毎週40時間で均等にするよりも、客の少ない月初は40時間よりも少なく、客の多い月末は40時間よりも多くしたほうが、会社にとっても客にとっても合理的であると言えます。

 

また、ケーキを作っているB社の売上は、季節性が高く11月から2月に年間売上の1/2が集中するとします。

 

B社の場合は、最も忙しい11月から2月に労働時間を多くして人員をフルに確保し、その他の月を少なくしたほうが合理的です。

 

そして、観光地でお土産の販売を行うC社は、週末や祝日などに観光客が増加し、平日の数倍の売上があります。

 

C社の場合は、週末や祝日に労働時間を多くし、その他の日を少なくしたほうが合理的です。

 

このようなA社やB社、C社の場合は「変形労働時間制」を採用することで労働時間を効率化することが可能となります。

 

 

変形労働時間制とは、労働時間を1日で考えるのではなく、ある一定期間の中で平均して法定労働時間に収まっていればよいという制度です。

 

A社の場合は週によって忙しさが変わるので1か月単位の変形労働時間制が適しており、B社の場合は月によって忙しさが変わるので1年単位の変形労働時間制が、C社の場合は日によって忙しさが変わるので1週間単位の非定型的変形労働時間制が適していることとなります。

 

なお、1週間単位の場合の「非定型的」とは、1か月及び1年単位の変形労働時間制の繁忙期がある程度決まっているのに対し、1週間単位の場合は流動的であり、定型的な労働時間とするのが難しいことから、このような表現となっています。

 

1か月単位の変形労働時間制

 

1か月単位の変形労働時間制とは、1か月間の労働時間の平均が1週間の労働時間40時間を超えなければ、特定の日、あるいは特定の週に法定労働時間を超える労働を認めるという制度です。

 

上記のA社の場合は月末に繁忙期となります。

 

よって月末は労働時間を増やし、月初などに労働時間を軽減することができるのです。

 

例えば、以下のように労働時間を定めることができます。

 

1週 34時間
2週 38時間
3週 42時間
4週 46時間
合計 160時間
平均 40時間

 

この場合、1週と2週に法定労働時間をそれぞれ6時間、2時間と減らすことで、3週と4週に2時間、6時間と増加させることが可能となります。

 

合計は4週で160時間ですので、平均すると40時間にも収まっています。

 

これが1か月単位の変形労働時間制です。

 

【要件】

 

1か月単位の変形労働時間制を採用する場合、「労使協定または就業規則その他これに準ずるもの」によって以下のことを定めなければなりません。

 

・変形期間(1か月以内)とその起算日

 

・対象となる労働者の範囲

 

・変形期間における各日および各週の労働時間

 

・就業規則による場合は、各日の始業および終業時間

 

・労使協定による場合は、その有効期間

 

そして労使協定で採用された場合、あるいは就業規則を改定した場合、いずれも労働基準監督署への届出が必要です。

 

なお、「その他これに準ずるもの」とは、就業規則の作成義務がない会社(従業員が常時10人未満の会社)が作成する就業規則と同じような効果を持つ文書を言います。

 

そして、その文書は就業規則ではないため届出の必要はありませんが、労働者に周知徹底する必要があります。

 

1年単位の変形労働時間制

 

1年単位の変形労働時間制とは、1年間の労働時間の平均が1週間の労働時間40時間を超えなければ、特定の日、あるいは特定の週に法定労働時間を超える労働を認めるという制度です。

 

上記のB社の場合は11月から2月、特に12月と1月は繁忙期となります。

 

よって、11月から2月は労働時間を増やし、その他の月に労働時間を軽減することができるのです。

 

例えば、以下のように労働時間を定めることができます。

 

1月 48時間/週 × 4
2月 44時間/週 × 4
3月 40時間/週 × 4
4月 40時間/週 × 4
5月 34時間/週 × 4
6月 34時間/週 × 4
7月 34時間/週 × 4
8月 34時間/週 × 4
9月 40時間/週 × 4
10月 40時間/週 × 4
11月 44時間/週 × 4
12月 48時間/週 × 4
合計 1920時間/年
平均 40時間/週

 

※簡略にするために、ひと月は4週、28日と仮定しています。

 

この場合、5月から8月に法定労働時間を週6時間減らすことで、11月と2月に週4時間、12月と1月に週8時間増加させることが可能となります。

 

合計は年間(簡略化して48週)で1920時間ですので、週40時間にも収まっています。

 

これが1年単位の変形労働時間制です。

 

【要件】

 

1年単位の変形労働時間制を採用する場合、「労使協定」によって以下のことを定める必要があります。(就業規則だけで採用することは認められていません。)

 

・対象期間(1か月以上1年以内)とその起算日

 

・対象となる労働者の範囲

 

・特定期間

 

・労働日および労働日ごとの労働時間

 

・労使協定の有効期間

 

そしてその労使協定は、労働基準監督署への届出が必要です。

 

「特定期間」とは、対象期間の中で特に業務が忙しくなる期間のことです。上記のB社の場合は、12月から1月が特定期間にあたります。

 

特定期間の長さには特に制限はありませんが、対象期間の相当部分を特定期間とする(特定期間を長く取る)ことは、法の趣旨に反すると考えられるため、認められません。

 

また、「労働日および労働日ごとの労働時間」については、対象期間の全期間について定めなければなりません。

 

ただし、対象期間を1か月以上の期間に区分した場合は、以下を定めればよいこととなっています。

 

1.最初の期間の労働日と労働時間

 

2.最初の期間を除く各期間の労働日数と総労働時間

 

仮に、上記のB社の起算日が1月1日で、1か月の期間で区分したとすると、定めるべき内容は以下のようになります。

 

・1月1日〜1月末(最初の期間) 労働日と労働時間を定める。

 

・2月1日〜2月末 労働日数と総労働時間を定める。

 

・以降の期間、労働日数と総労働時間を定める。

 

ただし、最初の期間を除く各期間の労働日と労働時間は、その期間が始まる30日前までに決定しなければなりません。

 

例えば、2月1日〜2月末の労働日と労働時間は、1/2までに定めなければいけないことになります。

 

年間労働日数の限度

 

1年単位の変形労働時間制では、年間労働日数に限度があります。

 

年間労働日数の限度は、対象期間が1年間の場合は280日です。これを超える日数を労働させることはできません。

 

なお、対象期間が1年間ではない場合、例えば200日間の場合の労働日数の限度は以下のようになります。

 

280×200(対象期間の日数)÷365(1年間の日数)=153.42日≒153日

 

連続労働日数の限度

 

1年単位の変形労働時間制では、連続労働日数にも限度があります。

 

連続労働日数とは、休日を挟まずに連続して労働させることのできる日数です。連続労働日数は6日です。

 

しかし、特定期間(B社の場合は12月と1月)に関しては、「1週間に1日休日が確保できる日数」とされています。

 

よって、例えば最初の週に日曜日を休日とし、次の週に土曜日を休日とすることで、最大12日間連続で労働させることが可能となります。

 

法定労働時間と変形労働時間1

 

1日及び1週間の労働日数の限度

 

1年単位の変形労働時間制では、1日及び1週間の労働日数にも限度があります。

 

1日の限度は10時間、1週間の限度は52時間です。

 

さらに、対象期間が3か月を超える場合は、以下のような制限があります。

 

1.対象期間中に週48時間を超える場合は、3を超えて連続してはならない。

 

2.対象期間を3か月に区分した時、週48時間を超える労働時間を設定した初日の数が3を超えてはならない。

 

ここでいう「3」とは、週の数です。

 

わかりにくいですが、図にすると以下のようになります。

 

※簡略にするために、ひと月は4週、28日と仮定しています。

 

・1についてOKのケースとNGのケース

 

法定労働時間と変形労働時間2

 

・2についてOKのケースとNGのケース

 

法定労働時間と変形労働時間3

 

なお、パターン3と4の「初日」とは、週の最初の日という意味です。

 

パターン4では週の最初の日が3か月の中に入ってしまっているために、NGとなっています。

 

1週間単位の非定型的変形労働時間制

 

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、1週間の労働時間が40時間を超えなければ、特定の日に法定労働時間を超える労働を認めるという制度です。

 

上記のC社の場合は週末と祝日が忙しくなります。

 

よって週末と祝日は労働時間を増やし、その他の日に労働時間を軽減することができるのです。

 

【要件】

 

まず1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用できる会社は、以下に限られます。

 

「小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業で、常時使用する労働者の数が30人未満である会社」

 

週の中でも日によって忙しさに大きなばらつきがあり、かつ小規模な会社に限定されています。

 

そして労使協定によって1週間の所定労働時間(40時間以内)を定める必要があります。

 

労働基準監督署への届出も必要です。

 

かつ会社は、その1週間が始まる前に書面によって1週間の労働時間を労働者に通知しなければなりません。

 

まとめ

 

・法定労働時間は1日8時間、週40時間とされており、原則としてこれを超えて労働させてはならない。

 

・休日については、労働基準法で毎週少なくとも一回の休日、あるいは四週間を通じ四日以上の休日を与えることが義務付けられている。

 

・通常の場合と異なり、時期によって忙しさが異なる業種や職種の場合は、1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の変形労働時間制を採用することができる。

 

・1か月単位の変形労働時間制は、労使協定または就業規則その他これに準ずるものによって、変形期間(1か月以内)とその起算日、対象となる労働者の範囲、変形期間における各日および各週の労働時間、就業規則による場合は、各日の始業および終業時間、労使協定による場合は、その有効期間を定めなければならない。

 

・1年単位の変形労働時間制は、労使協定によって、対象期間(1か月以上1年以内)とその起算日、対象となる労働者の範囲、特定期間、労働日および労働日ごとの労働時間、労使協定の有効期間を定めなければならない。

 

・1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用できる会社は、小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業で、常時使用する労働者の数が30人未満である会社に限られる。

 

・1週間単位の非定型的変形労働時間制は、労使協定によって1週間の所定労働時間(40時間以内)を定める必要がある。

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