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法務における交渉のやり方

今回は法務における交渉のやり方について説明していきます。

 

この文章を読むことで、「法務における交渉とは」「交渉の種類ややり方」について学ぶことができます。

 

法務における交渉とは

 

一般的に交渉とは、以下のようなものを言います。

 

1.相手と話し合いをして、ある一定の結論を導くこと

 

2.相手に関わること

 

例えばどのような状態であれ、相手と何らかの関係があるという状態は「交渉がある」、あるいは「交渉を持っている」と言われます。

 

これは上記の2の状態を指しています。

 

これに対して、法務における交渉とは「もともとは異なる見解に立った者同士が、合意したいと考えて譲歩しあいながら妥協点を見つけ出す行為」のことを言います。

 

上記の1の状態です。

 

そして1の状態の交渉は、何事であれ、誰であれ、可能であれば避けたいと思うことの一つでしょう。

 

例えば顧客からクレームがあり、会社としてはそのクレームを丸ごと飲むわけにはいかないというケースです。

 

顧客のクレームに対して譲歩すべきところは譲歩し、会社として主張しなければならないことは主張するという微妙な交渉は、あらかじめ着地点を見出していない限りなかなかスムーズには進まないものです。

 

しかも、クレームを言ってくる顧客は往々にして感情的になっている場合が多く、仮に会社としての着地点は見出していたとしても、それが顧客を納得させられるかということはやってみなければわかりません。

 

交渉がうまくいくかどうかはわからず、それだけに厄介な問題になりやすいと言えるのです。

 

しかし、上記のように結末がどうなるかわからないという交渉事は法務担当者にとって避けることができない業務です。

 

会社での交渉事は、法律がその交渉根拠となることが多いためです。

 

よって、法務担当者の腕の見せ所となる業務でもあります。

 

ここでは法務における交渉にはどのようなものがあり、どのように対処していくべきかを考えていきましょう。

 

【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君、S君、T君は、Z社の法務担当者として社内規則や契約書の見直しなどを行ってきました。

 

3人の頑張りのおかげで新たに立ち上げられた法務部門の認知度も上がり、今ではあらゆる法務に関する課題や問題が3人のもとに集まるようになっています。

 

そんなとき、開発部門出身のS君のもとへ開発部門の元同僚から以下のような相談が寄せられました。

 

「今回新たに契約したソフトウェアの開発委託契約について、委託先からの急な納期の前倒し依頼が多すぎる。委託先の状況も考慮してできるだけ対応しているが、あまりにも頻繁なのでこの頃は対応が難しくなっている。

 

そして営業は大事な顧客だから対応してくれとしか言わない。相手が大企業なのはわかるが、これなら別の会社から依頼されて断っている小さな案件に幅広く着手したほうがましだと思う。

 

売上には貢献したいが本来の納期は事前に決まっており、契約違反もいいところだ。せめてもう少し何とかならないものだろうか。」

 

S君はA君とT君に相談してみました。

 

すると、A君は言いました。

 

「確かに納期については受託側の我々にとっては常に頭の痛い問題だね。相手との関係もあるからノーとばかりは言えないし、かといって納期短縮には限界もある。他の会社の仕事を断ってまで対応するかどうかは難しいところだよね。

 

今後どうやって交渉するかを一度開発や営業も含めてみんなで話してみる必要があるかもしれないね。」

 

S君はそうですねと答えました。そして、各部署の担当者に声をかけ、一度話し合ってみようと思いました。

 

【解説】
例題にあるように、客先、特に得意先に対しての交渉は非常に難しいものです。

 

会社の売上も大事ですが、だからといってすべてにおいて相手の要望通りにしていたら、会社は破綻してしまいます。

 

よって、相手の対応にもよりますが、あまりにも理不尽であると考えられる場合は交渉するということも必要になってきます。

 

そして、会社間の交渉には前提があります。

 

その前提とは以下のようになっています。

 

交渉の前提

 

・2者以上の当事者がいる。

 

・当事者は異なる見解に立っているため、利害関係が対立している。

 

・当事者は、もし相手と合意できるものなら合意したいと考えている。

 

このような状況であることが、交渉が可能となる前提です。

 

例えば、海外の警察映画などで交渉人が犯人と交渉するというシーンがありますが、交渉が可能となっているのはストーリー的に上記の前提が成り立っているからです。

 

つまり、犯人に何らかの要求があり、その要求について何らかの譲歩が可能だから交渉は成立するのです。

 

犯人に何の要求もなく、相手がどう言おうと一切自分の行動が変わることがないという場合は、交渉は成立しません。

 

それは法務においても同じです。

 

もし例題の相手に納期について譲歩して合意しようという意思がなければ、交渉は成立しないのです。

 

しかしながら、通常はほとんどのケースにおいて交渉の余地は残されているものです。

 

会社は利益を追求しつつ、社会の中で様々な枠組みの間に成立しています。

 

交渉などしなくても自力で生き残っていけるような会社はこの世にはないと言え、常に交渉の余地はあるものなのです。

 

また、例題のような相手の場合は、現在行っていることは明らかに一方的な契約違反であり、ただの下請けいじめです。

 

よって、それが恒常的であったことが明るみに出ると、確実に社会的な信頼を落としてしまいます。

 

交渉することで相手の譲歩を導き出すことができるのです。

 

まず、法務における交渉とは、上記の前提を必要とするということを理解しましょう。

 

交渉の種類

 

交渉の際はまず、それが「どんな種類」の交渉なのかをよく見極める必要があります。

 

例えば以下のように考えてみましょう。

 

法務における交渉のやり方1

 

まず、交渉についてその相手と内容を考えます。

 

そして、その交渉相手と内容について重要度を考えます。

 

交渉相手の重要度が高く、交渉内容の重要度も高い場合が?です。

 

交渉相手の重要度が高く、交渉内容の重要度が低い場合が?です。

 

交渉相手の重要度が低く、交渉内容の重要度が高い場合が?です。

 

交渉相手の重要度が低く、交渉内容の重要度も低い場合が?です。

 

≪?のケース≫

 

?のケースが、最も重要な交渉です。

 

相手も内容も、重要だからです。

 

このようなケースで目指すべきは、相手と自社とがWIN-WINの関係になることです。

 

自社と相手にとって何が最も大切かを考え、自社で譲歩できることは最大限相手に譲歩しつつ、譲れないところは相手に譲歩してもらって互いに勝者になることです。

 

?のケースは自社だけではなく、相手のことも十分に理解しなければならないところに難しさがありますが、交渉の醍醐味を味わえるケースとも言えるでしょう。

 

≪?のケース≫

 

?のケースは、比較的シンプルです。

 

相手は重要であって内容は譲歩できるということであれば、ここでの解は「相手に合わせる」ということになります。

 

例えば、その手段はともかく、どうしても出世をしたいというケースです。

 

その場合はひたすら上司に従うのが正解となります。

 

上司の指示が自分の意見とは違ったとしても、それが重要でないのであれば上司に従って評価を上げようということです。

 

≪?のケース≫

 

?のケースも比較的シンプルです。

 

重要なのは相手よりも内容です。

 

例えば、自分の意見を曲げてまで出世はしたくはないというケースです。

 

その場合は上司と対立することになります。

 

自分が正しいと思うことを突き通し、それで評価が下がるのなら転職を考えるなどの代替案を実行するということです。

 

≪?のケース≫

 

?のケースは最もシンプルです。

 

相手も内容も重要ではありません。

 

ということは、上述した交渉の前提が成り立っていない可能性が高いと言えます。

 

このような場合は、「時間をかけない」ということが最も会社にとって重要でしょう。

 

つまり、「交渉しない」ということです。

 

なお、例題の場合は、交渉相手がZ社にソフトを委託している顧客であり、内容は納期の前倒しです。

 

相手、内容ともにZ社にとっての重要度は「高」です。

 

よって、?のケースに当てはまるということになります。

 

交渉のやり方

 

ではここで、交渉のやり方について考えてみましょう。

 

まず、上記の?から?のパターンをまとめてみます。

 

?:WIN-WINの関係を目指す

 

?:相手に従う

 

?:相手と対立する

 

?:交渉しない

 

こうして考えると、実は交渉のやり方を考えるべきは?と?の2つのケースであることがわかります。

 

?の場合はできるかぎり相手に従えば、それで終わりです。

 

?の場合は、そもそも交渉が成立しません。

 

よって、やり方については?と?の2つのケースだけを考えましょう。

 

≪?のケース≫

 

?のケースは、どうしたら両社がWIN-WINの関係になれるかを検討していきます。

 

考え方は様々ですが、以下のような流れで考えてみるとよいでしょう。

 

1.何が問題であるかについて、相手と合意を持つ。
 ↓
2.その問題について、自社と相手双方からの視点で原因を考える。
 ↓
3.問題の解決案を提示する。
 ↓
4.解決案を協議し、選択する。

 

例題のZ社のケースで考えてみます。

 

1.何が問題であるかについて、相手と合意を持つ。

 

まず、何が問題であるかについてですが、Z社が考えている問題点は「納期」です。

 

相手の納期の前倒しが大きな問題というわけです。

 

これに対して、相手はどう考えているかを確認する必要があります。

 

相手がZ社と同じように納期の前倒しを問題だと考えていなければ、相手は?、あるいは?の立場となります。

 

そうすると、?の交渉ができなくなるので、Z社はまずその問題と自社の重要性を相手に理解させる必要があります。

 

少なくとも今回の相手の対応は、契約違反です。

 

よって、契約に違反していることをそれとなく伝え、事態の重要性を理解してもらうように努めます。

 

もし相手がどんな相談にも応じずに、「契約違反はたいしたことではない」と考えている場合は、状況にもよりますがZ社も?から?、あるいは?の立場に変更する必要が生じてきます。

 

まずは相手にとっても納期の前倒しは重要な問題であり、かつ自社の存在は唯一無二のものであるということを理解してもらいましょう。

 

そして、?のケースであるという認識を持ってもらいましょう。

 

これがスタートです。

 

 

2.その問題について、自社と相手双方からの視点で原因を考える。

 

相手と自社がともに問題は?のケースであると認識できたら、その原因を考えます。

 

仮に自社がその原因を相手の「スケジュールを無視した勝手な変更」であると考えたとしても、相手にとっては原因は別のところにあるかもしれません。

 

例えば、「納品されたソフトウェアの組み込みに想定以上に時間がかかるため、組み込み作業の改善を図りつつ、ソフトウェアの納期を前倒しするようになった。」、あるいは「本来なら納期変更の必要はないが、検査部門で人員の異動があり、納期を早めるように急かされるようになった。」など、自社では想像していなかったことが原因の可能性もあります。

 

相手側の視点に立つことを忘れてしまうと、互いが互いの言い分だけを主張するようになり、WIN-WINの関係になることはできません。

 

一度冷静になって相手の話をよく聞き、どこに原因があるのかを相手目線で考えてみましょう。

 

 

3.問題の解決案を提示する。

 

原因が特定できたら今度は解決案の提示です。

 

上記の2つの例で考えてみましょう。

 

「納品されたソフトウェアの組み込みに想定以上に時間がかかるため、組み込み作業の改善を図りつつ、ソフトウェアの納期を前倒しするようになった。」

 

「本来なら納期変更の必要はないが、検査部門で人員の異動があり、納期を早めるように急かされるようになった。」

 

これらはいずれも相手の問題です。

 

ということは、現時点では自社の製品には問題がないこと、そして必要なことは以下の2点だということがわかります。

 

・相手の組み込み作業の改善

 

・相手の検査部門のスケジュールに対する理解

 

そうすると、解決案が浮かんできます。

 

まず、組み込み作業の改善については、自社に技術があるのであればその組み込みまで委託に含めてもらうように交渉する、自社に技術がない場合は作業が改善されるまではスケジュール変更時に特急料金を徴収できるように契約変更を求めるなどの案が考えられます。

 

また、検査部門のスケジュールに対する理解については、相手の開発担当者とともに自社の営業担当者が検査部門と打ち合わせの場を持ち、スケジュール決定までの経緯や変更による影響を理解してもらう、あるいはもし理解してもらえない場合は上記と同じく特急料金を徴収することを検査部門に伝えるなどの案が考えられます。

 

そして、解決案をブラッシュアップしていきます。

 

相手が簡単にOKということはまれですので、少しでも最善の解決案が導かれるように相手の意見を聞き、こちらの意見を理解してもらうよう心がけることが必要です。

 

 

4.解決案を協議し、選択する。

 

解決案を根気よく協議し、最終的にどの解決案にするのかを選択します。

 

当然のことながら、選択は両社が納得できるものでなければなりません。

 

最終的な解決案を相手にプレゼンする際は、以下のことを心がけましょう。

 

・相手の立場をできる限り尊重した内容・表現にする。

 

・自社が譲歩できるところはすべて譲歩したということを理解してもらう。

 

・他社との納期に関する取り決めについてを話し、参考にしてもらう。

 

・可能な限り責任者に選択してもらい、決定した内容が安易に変わらないようにする。

 

こちらが上記のことを心がけて対応することで、相手の対応も変わってきます。

 

WIN-WINになれるような最善の解決案を選択しましょう。

 

≪?のケース≫

 

?のケースを考えましょう。

 

このケースでは、相手との関係性はあまり重要ではありません。

 

よって重視すべきは、相手との今後の関係性よりも「今回に限った」交渉をいかに有利に進めるかということになります。

 

ここで必要となってくるのが、「代替案」です。

 

相手の対応や態度を見て、「もしだめならこうする」という代替案を考えておくことです。

 

交渉がこちらの思惑通りにいかないと考えられる場合は、その代替案を採用することを相手に匂わす、あるいは実際に行動に移すことで「相対的に得な選択」をするというものです。

 

例題のZ社が、Z社にとってさほど重要ではない顧客との間で同じような納期の問題が生じた場合について考えてみましょう。

 

この場合の代替案は、相手との契約を解除し、「別の会社から依頼されて断っている小さな案件に幅広く着手」するということになります。

 

相手の納期変更に対する解決案が受け入れられない場合は、その相手との契約を解除して別の案件を選ぶということを伝えるのです。

 

もしも相手がZ社を手放したくないと考えるのであれば、そのときは相手の譲歩を引き出せることになるでしょう。

 

譲歩が引き出せない場合は実際に契約を解除し、現在断っている小さな案件を受け入れればよいのです。

 

?の対立が避けられない交渉の場合は、「代替案」が大きな力を持つということを理解しましょう。

 

しかしながら、代替案はいつでもすぐに手に入れられるものではありません。日頃の業務で少しずつ見つけていくものです。

 

Z社の場合であれば、着手できない「小さな案件」についても断る際は慎重に丁重に断り、営業担当者などが相手にフォローを入れて今後も依頼してもらえる環境を作っておくなどの対策などが必要ということです。

 

まとめ

 

・法務における交渉とは、「もともとは異なる見解に立った者同士が、合意したいと考えて譲歩しあいながら妥協点を見つけ出す行為」のことである。

 

・交渉は、2者以上の当事者がおり、当事者は異なる見解に立っているために利害関係が対立していて、もし相手と合意できるものなら合意したいと考えている、ということを前提としている。

 

・交渉の際は、それがどんな種類の交渉なのかをよく見極める必要がある。

 

・交渉のやり方を考えるべきは、WIN-WINの関係を目指す場合と相手と対立する場合の2つの場合である。

 

・相手と対立する場合は、代替案が必要となる。

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