製造物責任法(PL法)とリコール
今回は製造物責任法(PL法)とリコールについて説明していきます。
この文章を読むことで、「製造物責任とリコールの概要」「リコールの流れ」などについて学ぶことができます。
製造物責任とリコールの概要
製造物責任とは、製造物に欠陥があって消費者に何らかの損害があった場合、その責任は製造物の製造者にあるという考え方です。
詳しくは後述しますが、製造物責任は仮に製造者の過失が証明されなくても問われます。
そして、すでに販売してしまった製造物を回収し、修理や交換、返金などを行うのがリコールです。
リコールは「しなければ消費者の安全性が大きく脅かされるもの」に対して行われます。
リコールは実際に実行するとそのコストは膨大となり、かつ社会に大きく知れ渡ります。特に小さな規模の会社の場合は、その経営に致命的な影響を与える可能性があります。
会社としてどんなに細心の注意を払っていたとしても、事故を起こす可能性は0にはできません。
このため製造物責任法とリコールは、消費者に商品を売る場合には必ず必要となる知識です。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、後輩のS君、T君と不正について話をしていました。
A君は業績が好調な今だからこそ、Z社の法務担当として、全社員が不正を犯そうなどとは考えない会社としての土壌作りが必要だという話をしました。
T君はそうですね、とうなづいて続けました。
T君:
「営業部門にいた頃は、確かに外の担当者には絶対負けたくないと思って不正を犯したくなるときもありました。もちろんそんなことはしていないのですが、そのような意味では社内で競争意識が高まりすぎるのも考えものなのかもしれないですね。
他の社員との比較だけで評価が決まってしまったりすると、不正してでも成績をあげたいって考えてしまう担当者が出てきてしまうかもしれないですから。」
A君は確かにその通りだと思いました。
すると、S君が言いました。
S君:
「僕は開発出身ですが、最近の自動車のエアバッグ事故問題などを見ているとぞっとすることがあります。原因はよく知らないのですが、例えば利益を最優先して本来開発段階で必要な検証などのコストを削減してしまったりしたら、大変な問題を起こしてしまうことになるかもしれないんですよね。
不正だけではなく、事故についても絶対に起こさないという意識を一人一人が強く持って消費者に信頼される会社にならなければならないですね。今後事故対策についても調べて、それをどう社員に伝えていくかを考えたいと思います。」
A君は二人の話を聞いてもっともだと思いながら、二人の不正や事故に対する意識の高まりを嬉しく思いました。
【解説】
例題のS君やT君の話にあったように、会社には様々な部門があり、会社から求められる役割は部門ごとに異なります。
よって、各部門はそれぞれに自分の業務について不正や事故についての知識や理解を持ち、かつ会社としては一丸となってそれらを防止するという環境づくりを行う必要があります。
そして、事故は不正とは異なり、担当者がどんなに気をつけていても起きてしまう可能性があるものです。
なぜなら、事故が起こる原因は会社に過失があったからとは限らないからです。過失はなくとも、事故は起こり得るのです。
そういった事故の性質上、法律でも事故に対する会社の責任が明確に定められています。
製造物責任法(PL法)
製造物責任法はPL法(Product Liability:製造物責任)とも呼ばれ、上述した通り、製造物に欠陥があって消費者に何らかの損害があった場合、その責任は製造物の製造者にあるというものです。
一般には、損害賠償を請求する際は被害者が加害者の過失を証明する必要があります。
しかし、製造物の場合は、損害を受けた被害者が損害と過失の関係を立証するのは難しいと考えられます。
よって、製造物に何らかの欠陥があると考えられる場合は、その損害賠償を求めることができるとしたのが製造物責任法です。
具体的には、例えば一見すると明らかにお酒とわかる飲み物にあえて「これはお酒です」と記載されていることがあります。
これは、消費者が「お酒と書いていなかったからお酒を飲んでしまって損害を被った。製品に欠陥があったためだ」として、損害賠償を求めた場合にそれが認められる可能性があるためです。
また、電化製品などで冒頭に「警告」や「注意」というタイトルで誤った使用方法が延々と書かれている場合があります。
これらの注意書きも、製造者が予期していなかった使い方により、消費者に損害が出るのを防ぐためです。
例え会社が間違えるはずがないから表示をする必要はないと考えたとしても、消費者が表示の不備により損害を被ったと主張したら、それが認められる可能性があるのです。
よって、製造者は設計や製造上の欠陥はもちろんのこと、あらゆる事態を想定して、考えられる事態についての表示を行い、製品表示に欠陥や不備がない状態にしなくてはならないということです。
リコール
例題のS君が言っていた自動車のエアバッグ問題は、数千万台という規模のリコールに発展しました。
製品の供給量が多ければ多いほど、そのリコールの影響は多大なものになります。
しかし、もし本当に製品に「安全を害するおそれ」があれば、消費者基本法で定められている通り、回収や情報収集及び情報提供などを行わなければなりません。
国の指針では、リコールの目安として以下の内容を挙げています。
1.死亡、重篤、ないし不可逆的な被害の発生、もしくはそのおそれがある場合
・消費者に危険性を緊急に知らせ、使用の中止や廃棄を呼びかける。
・引き取り可能な製品については、製品の引き取りや交換を行う。
・引き取りが不可能な設置された製品については、事業者が訪問して緊急の点検・修理・部品交換を行う。
2.軽度、治癒可能な被害の発生、もしくはそのおそれがある場合
・消費者に危険性の程度や正しい使い方などについて情報提供する。
・流通・販売段階から対象品を収去し、必要に応じて点検・修理・部品交換を行う。
原則として、取り返しのつかない被害を出す可能性がある場合は緊急に使用中止を訴えた上で回収し、被害が比較的軽度と思われる場合は情報提供と流通の停止を行うということです。
しかし、1と2の区別は非常に難しいと言えます。
エアバッグ問題などはその重大性から1ということはわかりますが、明確に1と2を分類する境界線というものは存在しないのです。
会社が2だと判断しても、その後死亡事故が起きてしまう可能性も否定はできません。
万が一そうなってしまった場合、回収を行わなかった会社の責任は非常に重いものとなり、消費者もその会社の製品を買おうとはしなくなるでしょう。
このため、製品に問題があったと判明した場合は、可能な限り最悪なケースを想定して行動したほうがよいということになります。
特に食品などでは、製品の一部に異物が混入していることが発覚して大々的にリコールを行う場合があります。
これは異物の成分にもよりますが、一般には2に近いケースがほとんどです。
それでも回収に踏み切るのは、回収しないことによる経営リスクを避けようという会社の判断から来ていると考えられます。
それだけ製品の欠陥に対する消費者の信頼低下は著しいのです。
リコールの流れ
では、実際にリコールを行う際の流れはどのようになるでしょうか。
リコールを行う際は、まず「経営層による迅速な判断」からスタートします。
判明した問題は、リコールを行うほど大きな問題なのかどうかを経営のトップが判断するということです。
そのためには、情報が必要です。いかに早くて正確な情報を経営層が把握できるかがカギとなります。
そして、経営層によってリコールの決断がされたら、「情報提供」を行います。
自社のホームページや新聞告知などで速やかに消費者に情報を提供します。さらに、行政への連絡も行い、行政から消費者への情報提供も依頼します。
情報提供と同時に必要なことが、「社内の体制作り」です。
リコールに関する質問が押し寄せてくることが考えられますので、営業部門だけではなく、生産、開発部門などで専門知識を持つ社員を総動員して対策本部を設置します。
最後に、対策本部でリコールの方法や実施期間について決定します。
この際、新しく判明した情報などがあれば、それは全社で共有してあらゆる状況に備えましょう。
まとめ
・製造物責任法では、製造物に何らかの欠陥があると考えられる場合は、その損害賠償を求めることができるとされている。
・製品の製造者は、あらゆる事態を想定して考えられる事態について表示を行い、製品表示に欠陥や不備がない状態にしなくてはならない。
・リコールの目安として、取り返しのつかない被害を出す可能性がある場合は緊急に使用中止を訴えた上で回収し、被害が比較的軽度と思われる場合は情報提供と流通の停止を行う。
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