品質クレーム紛争の解決
今回は品質クレーム紛争の解決について説明していきます。
この文章を読むことで、品質に関するクレーム問題についての対応を学ぶことができます。
品質に関するクレーム問題
会社はできる限り他社や顧客と争うことは避けたいと考えます。
争うことで時間やコストがかかり、相手との今後の関係にも亀裂が入ったり、あらぬ噂が流れたりすることがあるためです。
しかし、納品した商品の品質に関して相手からクレームがあった場合、こちらに全面的な非があればそれを認めなければなりませんが、こちらに非がない、あるいはお互いに非があると考える場合は、まず話し合い、それでも意見が一致しなければ争い事もやむを得ないという判断になることがあります。
品質に問題はないのに問題があるという結論を出されるのは、今後の会社経営に大きな影響を与えるため、会社としてはその状態を放置するあるいは安易に認めるわけにはいかないのです。
このような理由から、品質に関するクレーム問題は、状況によっては想像以上に大きな問題になる可能性があり、しっかりとした対応が必要となります。
ここでは主に売り手の目線から、会社としてどのように対応するべきかを考えてみましょう。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社のM社長は、法務担当者として採用を考えているUさんから、以下の相談を受けました。
Uさん:
「実は数日前に取引先から品質に関するクレームがありまして、社内調査が必要な状況となりました。私としては御社への入社を早急にかつ前向きに検討したいのですが、こちらの問題もすぐに手放すわけにはいきません。解決までしばらく時間をいただけませんでしょうか。」
M社長:
「もちろん大丈夫です。こちらの件はそちらが解決してから検討してください。待っておりますので、落ち着かれましたらご連絡をいただけるとありがたいです。」
Uさん:
「承知いたしました。ではこちらが落ち着き次第、早々にご連絡させていただきます。お気遣いいただきありがとうございます。」
Uさんはこの会社での業務はこれが最後かもしれないと考えながら、クレーム問題に着手しました。
品質クレームの問題で必要なことは、まず「相手の主張に関する事実確認」です。
そして、判明した事実について「様々な角度から賠償について検討すること」が必要となります。
Uさんは営業担当者から、「取引先は強気で訴訟も辞さないと言っている」という報告を受けました。
Uさんはもし退社することになっても、今回の件だけはしっかりと最後までやり遂げようと考えました。
そして、取引先の主張の事実確認に取り掛かりました。
【解説】
例題で、Uさんがまず相手の主張に関する事実確認に取り掛かったように、品質クレームに関する売り手、買い手が行うべきことや考えることは、以下のようになります。
≪売り手≫
・クレームに関する相手の主張および事実関係の確認と分析
・自社の責任を会社として認めるべきものかどうかの検討と確認
・実際に相手に損害が発生している場合、予想請求額と支払う賠償額の精査
≪買い手≫
・発生した損害に対する相手への損害賠償請求
・原因究明と再発防止の要求
・相手の対応を見て、今後取引を継続するかどうか検討
このように、売り手は「事実確認」が真っ先に必要なことと考えます。売り手にどのような損害が、どのような理由により発生したのかを明確にしたいと考えるためです。
これに対して、買い手はその損害を賠償させることを真っ先に考えます。
ただし、当然のことながら売り手はその損害賠償をどの程度自社で行うべきなのかが明確にならない以上、損害賠償について簡単に応じるわけにはいきません。
また、仮に賠償責任が発生したとしても、できる限り最小限に抑えようと考えます。
よって、両社に意識の違いが生まれてくることとなります。
このようなケースは程度の差はあれ、会社が事業を行う以上は必ず経験するといってよいことでしょう。
このような真っ向から利害が対立するという問題は極力回避しなければならないのは当然なのですが、法務担当者としては、万が一の場合に備えて解決策を学ぶことも大変重要なことです。
品質クレーム紛争の解決
では、売り手と買い手、双方の立場から解決策を考えてみましょう。
売り手と買い手はお互いに相手に求めるものが異なります。
このため、お互いが納得する形にするためには、物事を一つひとつ進めるのではなく、ある程度同時並行的に進める必要が出てきます。
一つひとつ進めるとどちらかが常に相手に対して不満を持つことになり、物事が円滑に進まなくなったり、買い手側の感情が高ぶって話がますます大きくなる可能性が出てくるためです。
例えば、売り手が損害賠償について話をしながら事実関係の確認を行っていくというような形を取ると、買い手も売り手に協力してくれるようになります。
そして、仮に損害賠償について話をしている過程で買い手が事実関係を誤って売り手に伝えていたということがわかれば、それを理由として損害賠償よりも事実関係の精査に注力することができるようになります。
また、解決すべき具体的な問題としては、以下のようになります。
事実関係の精査
上述したとおり、やはりまず必要なことは「事実関係を精査すること」です。
買い手に実際にどのような損害が起きたのかを具体的に把握することです。
例えば、製品の設計に不備があって本来の目的を果たせなかった、あるいはサービス内容が約束されたものと明らかに異なっていたという場合は、ほぼ全面的に売り手はその責任を認めなければいけません。
しかし、本来の製品の使用方法とは異なる方法で使用して損害が出た、あるいは状況によってサービスを提供できないことがあるとあらかじめ周知されていた場合などは、売り手に責任はない、もしくは双方に責任があるということになります。
事実の状況によって責任の所在は変わってくるということです。
事実確認では、売り手がいかに買い手から迅速に「本当の事実」を引き出せるかどうかがカギとなります。
買い手はもしかしたら自身のミスを承知しながらも、それを知らせずにいるかもしれませんし、契約書に書かれた条項を把握していないかもしれません。
よって、相手が主張する状況について可能な限り証拠を提示してもらいながら、冷静に「何が起きたのか、本当の事実は何なのか」ということを把握するように努めます。
法律上の責任の有無
事実関係をもとに行うべきは、「法律上の責任の有無について確認すること」です。
これは契約を結んでいる取引の場合は、契約書を確認することが主な作業となります。
契約書上に明記されている内容はある意味絶対と言えますので、しっかりと確認します。
よくありがちなのが、契約書の内容が売り手と買い手の解釈の違いによって異なったものとなっているということです。
このようなことのないように、契約書を結ぶ段階でよく審査する必要があります。予防法務に力を入れるということです。
しかし、実際に解釈が異なってしまった場合はもう仕方がありません。
その場合はお互いによく話し合い、解釈を近づけていく必要があります。
そして、契約を結んでいない売買については契約書という書面は存在しないので、買い手が訴える損害の内容が法律上売り手に責任があるかどうかを判断します。
取扱説明書の内容や商品の注意事項などをよく確認して、買い手が訴える賠償が妥当かどうかを考えるということです。
しかし、契約を結んでいない場合はその判断が非常に難しくなることもありますので、弁護士などに確認するのも有効な方法です。
法律の知識が不足している場合は、慌てて判断すると本来は法的な責任がないのに多額の損害賠償に応じてしまったということにもなりかねません。
もちろん、心情的に判断を変更するということも場合によっては必要ですが、まずはあくまでも法律を根拠とした判断を行い、その上で状況に応じた対応を取ることが大切になります。
賠償内容
事実関係や法律上の責任が確認できたら、今度は「賠償内容」について検討を行います。
買い手は当然その損害に対する賠償を要求しますが、売り手は賠償すべきかどうかを慎重に検討する必要があります。
法律上の瑕疵担保責任などが発生している場合は、当然賠償しなければいけません。
しかし、その責任が解釈によって判断が異なる、いわゆる「グレー」な状態である場合は、様々な状況を勘案し、売り手と買い手が冷静に交渉しながら賠償内容を決めていきます。
また、売り手だけではなく買い手にも非があるというような場合にも、その賠償内容は変わってきます。
一時的な感情に流されるのではなく、わからなくなればここでも弁護士などに相談して、その内容を確定させていきます。
賠償金額
売り手、買い手の間で賠償内容まで合意できたら、最終的に「賠償金額」を決定します。
例えば、賠償内容が売り手が対象製品の交換作業を行うことだけだとしたら、売り手から買い手への金銭の賠償というのは発生しません。
しかし、通常は買い手はそれ以上の損害を受けていることを主張する場合が大半です。買い手はその損害の収拾に時間やコストをかけることが多いためです。
もし、イベントでの物販に際してその納品物に欠陥があった場合、そのイベント期間中に計画していた物販での売上が丸々なくなってしまいます。
たとえイベント終了後に欠陥品を交換したとしても、そのイベントでの機会損失を埋めることはできません。
その場合は、その機会損失分の賠償を求められる場合もあります。
あるいは損害から発生する信用低下などの経営リスクも賠償対象と考える場合もあります。よって、買い手はその損害に見合った賠償を行う必要があります。
ここでも最も重要なのは、「売り手と買い手による交渉」です。
無事に賠償金額を決定するためには、法律に照らしてそれぞれの言い分を双方が理解しつつ、うまく着地点を見つけることが必要です。
しかし、売り手も買い手も必死ですので、場合によってはどちらかが訴訟というアクションを起こすことも考えられます。
よって、両社ともにそのような場合に備えた対応が必要です。
品質クレームの紛争処理は、交渉術をうまく使いながら事実関係を見極めることがまず第一歩になります。
そして、その後はいかに両社が冷静に、根拠のある話し合いができるかということになります。
話し合いは、どのように決着させるかによってその後の会社の評判が変わることもよくあります。
特に、近年は小さなことと思ってもネットなどで話題となってしまい、結果的にマスメディアで取り上げられてしまうことも少なくはありません。
中には誠意のない対応をしてしまったことで、一時的には得をしても、その後大きな損失が待っていることもあります。
できる限り売り手と買い手が納得のいく合意ができるように努め、その後も円滑に経営を進めていけるように努めましょう。
まとめ
・品質クレーム紛争では、売り手は事実確認が必要なこととなり、買い手はその損害を賠償させることが必要なこととなるので、その利害関係は対立することになる。
・品質クレーム紛争で解決すべき具体的な問題は、事実関係の精査、法律上の責任の有無、賠償内容、賠償金額である。
・事実確認では、売り手がいかに買い手から迅速に「本当の事実」を引き出せるかどうかがカギとなる。
・法律上の責任の有無については、弁護士などに確認するのも有効な方法である。
・賠償内容は、売り手だけではなく買い手にも非があるというような場合にはその内容が変わってくる。
・賠償金額を決定する際は、両社が冷静に根拠のある話し合いを行うようにし、売り手と買い手が納得のいく合意ができるように努めることが大切である。
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