回収期間(Payback)法と会計上の収益率 その2
【回収期間(Payback)法】
回収期間(Payback)法とはその名の通り、投資した資本がどのくらいの期間で回収できたかを考える手法です。
先ほどの例の営業担当者が言うように、比較的相手に伝わりやすい考え方とも言えます。
例えば簡単な例で考えてみましょう。
・初期投資 1,000万円
・1年後のキャッシュフロー 500万円
・2年後のキャッシュフロー 500万円
この場合、投資額である1,000万円を500万円ずつ2年間で回収していることから、回収期間は「2年」ということになります。
ここで、これをNPVで考えてみましょう。
ここでは資本コストを5%と考えます。
NPV
= −1000+((500)÷(1+0.05))+((500)÷(1+0.05)2) ≒ −1,000+476.19+453.51
≒ −70.3
NPVはこの時点では約70万円のマイナスです。
回収期間法は現在価値を考慮しておらず、かつこの場合は回収後のキャッシュフローもわかりません。
よって「わかりやすい」という以外にはあまりメリットがないと言えます。
ただ、この現在価値を加味した割引回収期間法という手法もあります。
割引回収期間法では、現在価値を加味して回収期間を求めます。
上記の例で、3年後のキャッシュフローも500万円と考えてみましょう。
そして、初期投資額からそれぞれの年のNPVを引いていき、回収期間を考えてみます。
・初期投資額+1年後のCFのNPV
≒ −1000+476.19 ≒ −523.81(回収できず)
・初期投資額+1+2年後のCFのNPV
≒ −1000+476.19+453.51 ≒ −70.3(回収できず)
・初期投資額+1+2年+3年後のCFのNPV
≒ −1000+476.19+453.51+431.92 ≒ 361.62(回収済み)
ここでは、回収期間は3年になります。
回収するキャッシュフローを現在価値に変更することで、信憑性は高くなります。
しかし、やはりその後のキャッシュフローは明確ではありません。
仮に回収後のキャッシュフローも明確にし、NPVがプラスになると判断されたとしたら、例えばステークホルダーへの説明材料として回収期間を用いるのであれば整合性は取れます。
しかし、回収期間だけで意思決定を行うのは、やはり危険と言わざるを得ません。
ファイナンスの見地から言うと、回収期間法はあくまでも補助材料としてとらえるべきであると言えます。
なお、回収期間法に関する詳しい説明は、当サイトの「アカウンティング(会計)」の「戦略的意思決定6(ペイバック法)」でも解説していますので、そちらを参照してみてください。
【会計上の収益率】
会計上の収益率もその名の通り、「会計上の収益の平均」が投資金額をどの程度上回るかを考える手法です。
ここで、会計上の収益には営業利益や当期純利益などを使うことが一般的です。
そして投資金額は総投資額を使う場合もあれば、平均投資額を使う場合もあります。
平均投資額とは、事業の終了年度に投資資本はゼロになると考え、総投資額を2で割ってその平均を取るというものです。
減価償却などによって事業終了時に投資資本の価値はなくなると考え、その平均を取りましょうということです。
そしてここでは、利益は営業利益、投資額は平均投資額を使うことにします。
すると計算式は以下になります。
会計上の収益率 = 営業利益の平均÷平均投資額
では実際に以下のケースで計算してみましょう。
・事業期間 5年
・初期投資 1000万円
・1年後の営業利益 0万円
・2年後の営業利益 100万円
・3年後の営業利益 100万円
・4年後の営業利益 200万円
・5年後の営業利益 200万円
会計上の収益率 = ((0+100+100+200+200)÷5)÷(1000÷2) = 120÷500 = 24%
会計上の収益率は24%です。
しかし、この収益率だけを求めても投資を行うべきか否かの判断はできません。
よって会計上の収益率で考えるのに有効と思われるケースは、同じ条件で複数の候補がある場合などです。
そして会計上の収益率はキャッシュフローで考えていない、現在価値に割り引いていないなどの根本的な問題も抱えています。
やはりこちらもあくまでも目安として考える指標であると言えます。
回収期間法にしても会計上の収益率にしても、比較的簡易に行えるということは、やはり何らかの問題点を抱えていると考えられ、ファイナンス的に根拠を持って事業を定量化する手段としては説得力に欠けるものとなります。
その点に留意して使用するということが望ましい考え方と言えるでしょう。
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