財務レバレッジとβ(ベータ) その3
【財務レバレッジとβの関係(法人税が存在する場合)】
次は法人税が存在する場合を考えてみます。
なお、法人税は35%で計算しています。
≪財務レバレッジが1の場合≫
まずは財務レバレッジが1の場合です。
この場合の収益は以下のように変化します。
そしてROAとROEは以下のようになります。
・円高
ROA = 9%
ROE = 5.85%
・円安
ROA = 12%
ROE = 7.8%
・不変
ROA = 10%
ROE = 6.5%
・景気の悪化
ROA = −5%
ROE = −10%
次に、財務レバレッジが2の場合を考えてみましょう。
≪財務レバレッジが2の場合≫
この場合の収益は以下のように変化します。
そしてROAとROEは以下のようになります。
・円高
ROA = 9%
ROE = 9.1%
・円安
ROA = 12%
ROE = 13%
・不変
ROA = 10%
ROE = 10.4%
・景気の悪化
ROA = −5%
ROE = −14%
これをまとめると、以下のようになります。
今回もROAはまったく同じですが、ROEは財務レバレッジが1の場合に比べ、大きく変化しています。
ここで、先ほど同様、変化しているROEのリスクを計算してみましょう。
・期待収益率
[財務レバレッジが1]
(5.85+7.8+6.5+(−10))÷4 ≒ 2.54
[財務レバレッジが2]
(9.1+13+10.4+(−14))÷4 ≒ 4.63
期待収益率は財務レバレッジが1が2.54%、財務レバレッジが2が4.63%です。
・偏差
[財務レバレッジが1]
円高 5.85−2.54 = 3.31
円安 7.8−2.54 = 5.26
普遍 6.5−2.54 = 3.96
景気の悪化 (−10)−2.54 = −12.54
[財務レバレッジが2]
円高 9.1−4.63 = 4.47
円安 13−4.63 = 8.37
普遍 10.4−4.63 = 5.77
景気の悪化 (−14)−4.63 = −18.63
・分散
[財務レバレッジが1]
(3.312+5.262+3.962+(−12.54)2)÷4 = (10.9561+27.6676+15.6816+157.2516)÷4 ≒ 52.89
[財務レバレッジが2]
(4.472+8.372+5.772+(−18.63)2)÷4 = (19.9809+70.0569+33.2929+347.0769)÷4 ≒ 117.60
分散は財務レバレッジが1が52.89、財務レバレッジが2が117.60です。
・標準偏差
[財務レバレッジが1]
√52.89 ≒ 7.27
[財務レバレッジが2]
√117.60 ≒ 10.84
標準偏差は財務レバレッジ1が7.27、財務レバレッジが2が10.84です。
つまり、財務レバレッジが2倍になっても、リスクは約1.5倍となっています。
今回は景気が悪化した場合、利益が赤字となるために期待収益率の低下を招き、通常以上にβを低減させています。
しかし、経営が黒字である場合でかつ法人税を考えた場合は、リスク、つまりβが高まる度合いは「1+(1−税率)×(負債÷株主資本)」分だけになります。
例えば財務レバレッジが1の場合は、「1+(1−0..35)×0 = 1」、財務レバレッジが2の場合は、「1+(1−0..35)×1 = 1.65」となります。
βは、1.65倍になり、法人税がない場合(2倍)に比べて、節税効果が発揮されているということです。
【財務レバレッジとβに関するまとめ】
財務レバレッジとβの関係は、以下のように考えることができます。
・財務レバレッジが高まると、支払利息を考慮しない場合のROAには影響を与えないが、支払利息を考慮するROEには大きな影響を与える。
・財務レバレッジが高まると、ROEのリスク、つまりβも高まる。
・法人税の存在がある場合、βには節税効果が働く。
・税引前利益が黒字の場合は、財務レバレッジのβへの影響は「1+(1−税率)×(負債÷株主資本)」として計算できる。
・法人税が存在する場合、税引前利益が赤字となる場合は、リターンが減少して期待収益率の低下を招くため、βは黒字の場合に比べて低減する。
財務レバレッジは資本の比率のため、特に、総資本が少ない中小企業などに与える影響は大きくなります。
そしてそれはβにも影響を与えるということを理解しておきましょう。
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