経営戦略とファイナンス その2
≪様々な可能性に対する対応≫
経営戦略のフレームワークなどを使って根拠を持って予測を立て、オプションの考え方を使って様々な場合の対応を具体的に想定したとしても、やはり変わらないのが、「将来のことは誰にもわからない」ということです。
これはどのような素晴らしい、根拠のある計画を立てたとしても、未来永劫変わらない事実です。
よって、数値計画を立てる際に必ずと言っていいほど会社内外から出てくる意見が、「本当に予測通りになるのか?」というものです。
そしてそのような意見には、予測が仮に悪いほうに外れた場合、しかもそれがいわゆる「想定外」のことだったらどうするのか?というような保守的なものが多いと言えます。
このような意見は、いわゆるリスク管理という観点からは必要なようにも思えます。
しかし、リスクの本来の意味はその「可能性」ではなく、「σ」、いわゆる標準偏差です。
標準偏差の値が大きければ不確実性が高いということになり、リスクが高いこととなります。
そして「想定外に悪い状況」が発生する可能性を考えるということは、本来は「「想定外に良い状況」も考えなければいけないことになります。
なぜなら、リスクは正規分布するものだからです。
よって、そのような考えられる定性的な「可能性」は、良い悪いを平等に考えなければならないと言えます。
問題はその標準偏差の大きさにあるのです。
例えば業績が好調な場合はこの標準偏差を許容しがちになり、不調な場合はできるだけ標準偏差が小さい事業を行おうとしがちになります。
これはリスクを許容できるか否かということを考えると当然の判断です。
しかし、このリスクの許容度については、様々な状況を勘案し、決定することが必要です。
いくら事業が好調であっても、ひたすらにリスクを取ってしまえばそれが足を引っ張ることにもなりかねず、逆に不調の際にひたすらリスク許容度を下げてしまうと、業績の好転は難しくなる可能性が高くなります。
よって必要なものは、そのバランスです。
最終的な意思決定をどのようにバランスを取りながら行っていくかということです。
そしてここで重要になるのがコーポレート・ガバナンス、いわゆる企業統治です。
経営に関する意思決定が適切かどうかを判断する機能です。
(コーポレート・ガバナンスについては後述します。)
会社が事業を行うには、当然様々な可能性を考えなければなりませんが、それはあくまでもバランスが考慮されたものであり、一方的な意見だけで行われてはならないということです。
【経営戦略とファイナンスのバランス】
あらゆる可能性をバランスよく考慮することは、経営全般において非常に大切なことです。
例えばファイナンス上はNPVがプラスとなり、企業価値を定量的に高める可能性の高い事業だったとしても、それが経営戦略と合致していなければ、会社のブランドイメージを損ねる、あるいは従業員の士気を低下させるなどのマイナスの可能性があります。
ファイナンスで定量的に事業の正当性を検討することは、今後の経営を視覚化するために大変重要なことですが、その際も常に「定性的な企業価値とバランスが取れているか?」ということを確認する必要があります。
どちらかの観点だけから意思決定を行った場合、社内外の関係者や顧客などから「なぜ?」という疑問が生まれ、経営に一貫性がない、場当たり的に経営を行っているなどの印象を与えることとなります。
会社が一丸となって経営戦略とファイナンスのバランスを取って経営を行っていくことが必要と言えるでしょう。
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