ファンダメンタル価値理論と砂上の楼閣理論
【ファンダメンタル価値理論と砂上の楼閣理論】
個別の株式のリスクを定量化する理論には、CAPM(資本資産評価モデル)がありました。
しかし株価という意味においては、CAPMに対する反論もあり、様々な考え方が存在しています。
よってここでは株価がどのように形成されるかについての伝統的な2つの考え方を理解し、株価形成には様々な理論があることを理解しておきましょう。
【ファンダメンタル価値理論】
まず、最も有名とも言える理論が、ファンダメンタル価値理論と呼ばれるものです。
ファンダメンタルとは、会社の売上高や利益、財務状態などの根本的な姿ということです。
そしてこの理論では、会社のファンダメンタルを理解することで、原則として企業価値は「推定できるもの」と考えます。
会社が将来出す配当や稼ぎ出すキャッシュフローを予想することなどによってその企業価値は推定でき、その理論価値よりも株価が安ければ買い、高ければ売ればよいという考え方です。
例えば、常に成長すると考えられる会社の株式は、「今買って持ち続ける」ことで最大のリターンを得ることができ、逆に成長しないと考えられる会社の株式は、「買わない」ことでリスクを回避できると考えるのです。
ただ、この理論にも無理があります。
まず会社の成長率を正確に予測できるという根拠はなく、仮に著名なアナリストがその成長に太鼓判を押したとしても、特に変化の激しい現在ではそれが的中する可能性は年々低下していると言えます。
また、近年では会社の業務の複雑化によるミスの多発やSNSの普及などによって、良いイメージだけではなく悪いイメージもすぐに広まってしまい、本来成長性の高い会社でもそれを維持することが困難になっているという指摘もあります。
理論的には正しいと思えるファンダメンタル価値理論ですが、このように考えていくと絶対とは言えないということです。
【砂上の楼閣理論】
砂上の楼閣理論とは、株式の価値は「砂上の楼閣」のようなものだと考えることです。
楼閣とは、複数階ある立派な建築物のことを言います。
そして砂上の楼閣とは、砂の上に楼閣を作る、つまり立派なのは最初の見かけだけで土台が砂なので崩れやすく長続きしないことを言います。
株価は、このように楼閣を砂の上に建てるように決まるということです。
この理論では細かくは様々な見解がありますが、株価は見かけ、つまり心理的な側面で決まる傾向が強いということを主張しています。
ファンダメンタル価値理論のような「本来の株価」というものは原則として存在しないと考えるのです。
最も有名な考え方は、イギリスの著名なマクロ経済学者であるケインズが「雇用・利子および貨幣の一般理論」の中で例えとして述べた「株式投資は美人投票と似ている」としたものです。
ここで言う美人投票では、投票者は100人の女性の中から誰が美人かを考えて6人に投票します。
ただこの美人投票では、商品が与えられるのは投票された女性ではなく、最も投票の多かった女性に平均的に投票した投票者です。
そうすると、投票者は他の投票者がどの女性に平均的に投票するかを考えて投票することになります。
ここで問題になるのが、「何が平均的か」ということです。
投票者それぞれが「何が平均的か」と考えます。
そうするとそれはだんだん高次元の心理戦になり、結局美人とは思えない人に投票する場合もあるということです。
そしてこの投票者と投資家は似ているというのです。
どの株の株価が上昇するかということを考えるには、投資家がどの株を買うかということを予想することだということになります。
そうするとそこにはファンダメンタルな要素は薄れ、株価の推移を表すチャートや経済環境などによって買われるだろうと思われる株を買い、実際に買われて株価が上昇したときに売り、利益を出そうとします。
これは例えば「バブル」が起きた現象を説明する根拠にはなり得ます。
常識的な価格とは思えない株価が発生するのは、このような群衆心理が高次元化して異常なまでに買われ、そして一気に崩壊するということです。
そして群集心理が高次元化する一歩前に株式を購入した投資家が利益をあげることができるということになります。
ただ、この理論は上述したバブルなどは説明できそうに思えますが、実際には「群集心理が高次元化する一歩前に株式を購入する」という手法があるわけではありません。
例えば株価のチャートなどで売買するテクニカルと呼ばれる売買手法も、もしチャートによる買いサインのようなものがあれば誰もがそのサインによって買うこととなり、もはや買いサインではなくなってしまいます。
砂上の楼閣理論は、現実を反映している考え方とは言えますが、実際の手法が確立しているわけではないということです。
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