現在価値の計算
【現在価値を計算してみよう】
現在価値は、未来に発生する収益や費用を現在の価値に修正した価値です。
そしてその考え方は複雑で、「複利」あるいは「資本コスト」を意識しなければならないと学びました。
ここでは与えられた資本コストを使用して、より詳細に現在価値の計算方法を学んでいきましょう。
【複数事業の現在価値を比較する】
ここでは投資のタイミングと得られるキャッシュフローがばらばらな事業を取り上げ、そのキャッシュフローの現在価値を比較してみることにしましょう。
まず、以下のような事業A〜Eがあります。
(なお、ここでは資本コストを10%と考えます。)
マイナスは投資でのキャッシュフローの変化、プラス(符号なし)は収益のキャッシュフローの変化です。
そして事業A〜Eはいずれも投資や収益のタイミングは異なりますが、最終的なキャッシュフローはすべて+60となっています。
よって、時間を無視したキャッシュフローは同じです。
しかしこれではどれを採択したらよいか、まったくわかりません。
よって、これらの事業のキャッシュフローの現在価値を求め、どの事業を採択すべきか考えてみましょう。
≪計算の考え方≫
この場合の現在価値の計算に関する考え方は以下の通りです。
まず、n年後の金銭価値を現在に割り引く方法は、以下です。
現在の金銭価値 = n年後の金銭価値÷(1+資本コスト)n
例えば2年後の金銭価値を現在に割り引くと、以下のようになります。
現在の金銭価値 = 2年後の金銭価値÷(1+資本コスト)2
よって、現在から4年後までのキャッシュフローの現在価値の合計は、現在のキャッシュフロー(CF)から4年後までのキャッシュフローの現在価値をすべて合計することで求めることができます。
現在の金銭価値 = (現在のCF)+((1年後のCF)÷(1+0.1))+((2年後のCF)÷(1+0.1)2)+((3年後のCF)÷(1+0.1)3)+((4年後のCF)÷(1+0.1)4)
今回は4年後までの合計ですが、これが10年の場合は上記の計算が10年後まで続くこととなります。
ではそれぞれのキャッシュフローの現在価値を計算してみましょう。
≪事業A≫
現在価値 = −100+(40÷(1+0.1))+(40÷(1+0.1)2)+(40÷(1+0.1)3)+(40÷(1+0.1)4) ≒ 26.79
≪事業B≫
現在価値 = 0+(-100÷(1+0.1))++(40÷(1+0.1)2)+(60÷(1+0.1)3)+(60÷(1+0.1)4) ≒ 28.21
≪事業C≫
現在価値 = 0+(0÷(1+0.1))+(-100÷(1+0.1)2)+(160÷(1+0.1)3)+(0÷(1+0.1)4) ≒ 37.57
≪事業D≫
現在価値 = 0+(0÷(1+0.1))+(-100÷(1+0.1)2)+(0÷(1+0.1)3)+(160÷(1+0.1)4) ≒ 26.64
≪事業E≫
現在価値 = −100+(160÷(1+0.1))+(0÷(1+0.1)2)+(0÷(1+0.1)3)+(0÷(1+0.1)4) ≒ 45.45
この結果、事業Eがも最も現在価値が高いことがわかりました。
現在価値を基準として考えると、投資の意思決定は根拠を持って迅速に行うことができるようになるということです。
また、今回の結果から以下のことがわかります。
・投資、収益ともに現在に近いほうが現在価値は大きくなる
・投資から収益までの期間が短いほうが現在価値は大きくなる
・収益は長期に分散するより、短期に得られたほうが現在価値は大きくなる
より近い未来に、一気に収益があがると考えられる事業が最も現在価値が大きいということです。
【計算上の注意点】
まず計算するうえで大切なことは、投資と収益のタイミングの把握です。
現在から考えて、発生するキャッシュフローが何年後にあたるのかを正確に判断することです。
今回は明確に現在、1年後、2年後などとしていますが、例えば投資と収益が出るタイミングが同じ期だとしても、投資が期初に行われ、収益が期末に出るとすると、その時点で収益は投資よりも1年後ということになります。
同じ年度でも割り引く期間は異なるという場合があるということです。
また、現在価値を求める際は計算が複雑になります。
表計算ソフトなどを使用すれば計算は正確にできますが、電卓で行う場合などはくれぐれも慎重に行い、ミスがないようにすることが大切です。
現在価値の計算は一度間違うと結果に大きな違いが出てくる場合があります。
合わせて注意しておきましょう。
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