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負債を活用した場合のNPV

【負債を活用した場合のNPV】
負債を活用した場合のNPVについて考えるにあたって、まず以下の例を見てみましょう。

 

 

≪例≫
自動車部品製造会社であるS社に勤めるMさんは、これまで事業に関するファイナンスの考え方について学んできました。

 

そしてその過程でDCF法を使ったNPV、IRR、PIやAPVなどを学び、簡易的で説明などの際に用いると便利なわかりやすい回収期間(Payback)法や会計上の収益率などについても学びました。

 

そしてMさんはその利点や欠点などを考えると、総合的に優れた評価方法はNPVやAPVであるということを感じました。

 

しかしNPVとAPVを考えた時、「負債」についてはまだ理解が深まっていないような気がしました。

 

NPVは資本構成が一定であり、APVは資本構成が変わると考えられる場合に適していることはわかったのですが、その場合に使用するフリーキャッシュフローは、NOPAT(税引前営業利益)を使用しています。

 

そしてNOPATには負債利息が含まれていません。

 

APVはもともと負債がないという前提でNPVを求め、そこから負債による節税効果を足すことで求めるため、負債の存在を確認できます。

 

しかしNPVでは負債の存在がいまいちわかりにくいのです。

 

MさんはNPVを求める際にも本当にNOPATを使用してよいかがわからなくなり、ファイナンスに詳しい同僚のNさんに聞いてみることにしました。

 

するとNさんはこう言いました。

 

「確かにNPVで使うNOPATは負債を使うという前提にはなっていないよ。無借金で事業を行った際の税引後利益がNOPATだからね。」

 

ここまではMさんにも理解できます。

 

「ただ、NPVでは分母で使うNOPATから求めるフリーキャッシュフローではなく、分母のWACC(加重平均資本コスト)にそれが加味されているということだよ。この問題はNPVとAPVを考える復習にもなるから、もう一度考えてみよう。」

 

そして以下のような説明をしてくれました。

 

 

【NPVでNOPATを使う理由】
例にある通り、NPVを計算する際のフリーキャッシュフローはその母体がNOPATであり、負債についての支払いは加味されていません。

 

しかし、それを補うのがWACC(加重平均資本コスト)です。

 

NPVとAPVの違いから、具体的に負債の扱いを考えてみましょう。

 

まず、APVを計算する際の流れはMさんも理解している通り、負債がない場合のNPVを計算し、その後に節税効果を計算します。

 

これに対して、NPVを計算する際の流れは、負債がない場合のFCFをWACCで割り引いて現在価値を計算するだけです。

 

しかし、ここで考えなければならないのは、APVがその割引率にアンレバードβを使ったCAPMから株主資本コストを求めるのに対し、NPVではWACCを算出する際に節税効果を加味した負債コストと資本構成を加味したレバードβを使ったCAPMから株主資本コストを求め、それを加重平均しているということです。

 

つまり、資本構成に変化がないという前提では、APVはまずFCFの割引率に株主資本コストを計算し、負債の節税効果は負債コストを使うという、複数回の計算を行っているのに対して、NPVはWACCで「一気に」計算しているということです。

 

ここにNPVとAPVの負債に対する明確なスタンスの違いがあります。

 

よって、負債を使ったときに割引率をWACCにしたNPVを計算しても正確な数値が導けないのではないか?という考えは、杞憂であるということになります。

 

そしてこのことが、NPVが負債を抱えた場合の財務リスクに合わせてWACCが変化することで、安全性も考慮した経済的価値評価を行えることにつながることになるのです。

 

逆に言うと、APV単体では安全性についての考慮がされていないということになります。

 

なお、ここでいう安全性とは、負債が増えて財務レバレッジが高まることによる倒産リスクなどを指します。

 

ここでは、NPVは負債を活用した場合でも計算時のWACCが変化することで対応できるという「安全性への理論的な担保」を持ち合わせているということを改めて確認しておきましょう。

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