CAPMの公式と解明 その2
【CAPMの解明】
ここで、Mさんが導いた公式をもとに、以下のCAPMの正当性を解明してみましょう。
まず、CAPMが成立するための前提として、以下の条件が成立する必要があります。
・投資家は平等に株価に関する情報を得ることができる
・投資家は常に同じマーケットポートフォリオを持っている
・投資家の取引が、マーケットポートフォリオに影響を及ぼすことはない
(マーケットポートフォリオは常に一定である)
・投資家は常にリターンが最大になるように行動する
上記の前提がなければCAPMは成立しなくなりますので、注意が必要です。
ではCAPMの正当性をまずは図で確認しましょう。
Mさんが作った図を元に考えてみます。
ここで、CAPMはβが0のときはリスクフリーレートとなり、1のときはマーケットポートフォリオの期待収益率となっています。
そしてこの右上がりの直線は資本市場線に似ていますが、個別の株式で考えた場合は「証券市場線」と呼ばれます。
また、縦軸のマーケットポートフォリオとリスクフリーレートの差は「マーケットリスクプレミアム」と呼ばれ、この差がリスク資産に投資した際のプレミアムということになります。
そして原則として、CAPMではすべての会社の株式の期待収益率がこの証券市場線を通るとされています。
それを解明してみましょう。
例えば以下のように証券市場線からはずれたH社があったとします。
この場合、H社の株式はリスクに対するリターンの高い、魅力的な会社ということになります。
このため、この情報を持っており、かつリターンを最大にしたいと考える投資家はその会社の株式を購入することで、株価は上昇します。
すると、株価の上昇によってその購入代金が高くなることで期待収益率は相対的に低くなり、結果的にその株式の期待収益率は証券市場線に近づくこととなります。
このため、結果的に個別の株式の期待収益率は常に証券市場線上に位置するということになるのです。
これがCAPMという考え方です。
そして証券市場線は右上がりになっているため、当然のことながら個別の株式についてもリスクの高まりとともにリターンも高まることがわかります。
【CAPMからわかること】
ここで、CAPMからわかることをまとめてみましょう。
・個別の株式の期待収益率は、「リスクフリーレート+ β(ベータ)×(マーケットポートフォリオの期待収益率−リスクフリーレート)」で算出できる
・個別の株式の期待収益率は、常に証券市場線を通る
・証券市場線からはみ出した株式は、投資家の合理的な行動によって証券市場線に収れんされる
そして、このCAPMには限界もあると言われています。
それは主に以下の点です。
・CAPMの概念は、あくまでもマーケットポートフォリオとリスクフリー資産を使って仮定を積み上げたモデルである
・CAPMの根拠はβのみである
・マーケットポートフォリオの前提が何かが不明である
上記の3点を見てみると、CAPMも完全とは言えません。
しかし、実際に個別の株式のリスクとリターンの計算においてはやはり最も重要で、信頼がおける理論の一つです。
CAPMはその公式を覚えるだけではなく、考え方から入るとわかりやすくなります。
ぜひ復習して、その考え方を身に着けるようにしましょう。
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