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埋没コストと機会費用

【埋没コストと機会費用】
ファイナンスを考える際、埋没コスト(サンクコスト)機会費用という考え方を知ると、その意思決定を効率的かつスピーディーに行うことが可能です。

 

そしてこの埋没コスト(サンクコスト)と機会費用は、経営だけではなく、私たちの日常生活でも使える考え方です。

 

 

【埋没コスト(サンクコスト)】
埋没コスト(サンクコスト)とは、文字通り「埋没したコスト」です。

 

埋没したコストとは、すなわち過去のコスト、もう戻ってはこないコストです。

 

よく使われる例が、公共事業です。

 

例えば市が市営住宅の建設を考えたとします。

 

市が行ったアンケート調査では、市民の約半数が「市営住宅があれば入居したい」と回答したため、市は需要は十分と見て市営住宅の建設を決めました。

 

市営住宅の建設には5億円が必要なため、市はこれを予算化して住宅建設に着手し、工事が始まりました。

 

工事は進み、2億円が建設費用として使われた段階で、市が市営住宅の入居者を募ったところ、なんとほとんど申し込みがなく、ここで初めて完成しても今後の家賃収入が見込めないことがわかりました。

 

よって市は改めて市営住宅の建設についての意思決定をせまられることとなりました。

 

このようなケースです。

 

一般に、このようなケースでは、「建設を継続する」という選択が行われることが多くなります。

 

なぜなら、すでに建設は着手され、5億円の予算のうちの2億円はすでに使用されています。

 

しかもこの費用のすべては税金です。

 

よって「税金を無駄にした」という批判を恐れて結局工事は続行され、市営住宅は入居者がほぼいないまま、予算を回収できずにさらに維持費用だけがかかっていくということになるのです。

 

そしてこのすでに使われた2億円が「埋没コスト」です。

 

もしファイナンス面から意思決定を行うのであれば、入居者がいないと判明した段階で建設は中止にするべきです。

 

なぜなら、建設を進めるとさらに3億円を費やさねばならず、しかもその後の維持費用もかかります。

 

これに対して、中止すれば少なくとも3億円の支出は抑えられ、かつ市営住宅を維持する必要もありません。

 

家賃収入はほぼ見込めないと判明していますので、仮に将来的な家賃収入を1億円と仮定したとしても、建設続行時、建設中止時のそれぞれのキャッシュフローは以下になります。

 

 

建設続行を決めた場合のその後のキャッシュフロー = 1億円−3億円−その後の維持費用 = −2億−その後の維持費用

 

建設中止を決めた場合のその後のキャッシュフロー = 0

 

明らかに建設を中止したほうがキャッシュフローは好転することがわかります。

 

埋没コストがもったいない、あるいは税金を無駄にしたという批判を逃れたいという定性的な判断あるいは心情が、その後の意思決定を邪魔してしまうのです。

 

もちろん建設を中止した場合は上記の批判は免れないでしょう。

 

しかし、ファイナンス的な、定量的な考え方では、即刻中止という判断を行うべきということになります。

 

そして、例えばアンケート調査の手法を見直すために予算の一部を使う、あるいは予算化が必要にもかかわらず予算化できていない事業に配分するなどといった方向性の見直しが必要なのです。

 

なお、ここではアンケート調査も埋没コストです。

 

もちろん市営住宅の建設はアンケート調査があって初めて決定されたものであり、そのような意味ではアンケート調査も建設費用と捉える考え方もあります。

 

しかし,一般的にはアンケート調査はそれが一つのプロジェクトであり、市営住宅の建設とは別であると考えます。

 

アンケート調査費用は、マンションの建設を検討する時点ですでに支払われており、建設を行っても行わなくても戻ってくることはないからです。

 

また、埋没コストを日常生活で考えた場合、例えばサッカーの試合観戦などがあります。

 

例えば好きなチームの試合のチケットを買って見に行き、好きなチームが明らかに劣勢で、前半ですでに敗北が確実な状況だとします。

 

この時、観戦している人は勝利を願って試合を最後まで応援する、あるいは試合を見るのをやめるかを決めることができます。

 

定性的な判断では、どれくらい好きかにもよりますが、チームの勝利を信じて最後まで見るという判断が一般的かもしれません。

 

しかし、ファイナンス的に考えると、明らかに劣勢の場合は後半を見ないでその時間を有意義に過ごすことが正解となります。

 

チケット代は試合を見ても見なくても帰ってこない埋没コストです。

 

よって埋没コストのことを忘れ、後半戦の45分間をどのように使うことが自分にとって有効かという意思決定を行うのが正解なのです。

 

もし低い確率の勝利を信じて後半の45分を過ごし、かつ負けたとすると心理的にも良い気持ちになりません。

 

しかし、その時間をより自分の好きなことや労働などに使うと、健康的に過ごせる、あるいは労働の対価を得ることができます。

 

ただ、もちろん最後に大逆転したなどということがあれば、試合を見たほうがよかったということになるかもしれません。

 

そしてそれは確率論の問題です。

 

ファイナンスは定量的に考えることですので、確率の高い方を選択するのが正解であるということになります。

 

 

【機会費用】
次に機会費用について考えてみましょう。

 

機会費用とは、ある事業を行う際にもし他の選択肢があった場合、その選択肢も考慮して意思決定を行うということです。

 

具体的には、選択肢の中から選択を行う場合、選択しなかった事業に比べてどの程度のキャッシュフローを得られるかを計算することによって最終的に意思決定を行うということです。

 

例えば、ある会社の総務部にはパソコンが1台しかなく、そのパソコンはベテラン社員の机に置かれているとします。

 

そして計算を行う際は、ベテラン社員は表計算ソフトを使えないために電卓で計算しており、その計算には20分かかります。

 

一方、若手社員は表計算ソフトが使えるにも関わらず、パソコンがないためにこちらも電卓で計算しています。

 

しかし若手社員は電卓に慣れていないため、その計算には30分かかります。

 

よって、この時点では2人合わせた計算時間は50分です。

 

しかし、パソコンを若手社員の机に置いた場合を考えてみます。

 

ベテラン社員はもともとパソコンを使わないので、計算にかかる時間は20分です。

 

しかし若手社員は表計算ソフトが使えるようになったため、計算は10分で終わりました。

 

2人合わせた計算時間は30分です。

 

パソコンをベテラン社員と若手社員どちらの机に置くかを考えた場合、ベテラン社員の前に置いたときの50分と若手社員の前に置いた時の30分を比較してみましょう。

 

若手社員の前に置いたときにかかる時間−ベテラン社員の前に置いたときにかかる時間 = −20分

 

時間が20分短縮されており、これが機会費用です。

 

この機会費用を時間にした場合は短い、金額にした場合は高いものを採用するということです。

 

また、こちらも日常生活に応用することができます。

 

埋没コストでも出てきたサッカーの試合で考えてみましょう。

 

後半戦に明らかに劣勢の試合を見続けても得られる対価は、0です。

 

これに対して後半戦を見る代わりにアルバイトに行けば、その分の賃金を得られます。

 

これが機会費用です。

 

埋没コストと機会費用という考え方は当たり前と思う場合もありますが、実際の経営においては上記の市営住宅の建設のように、様々な要素が絡み合い、最適な意思決定ができない場合も多くなります。

 

最適な意思決定を行うには、ファイナンス的な考え方が不可欠であると言えるでしょう。

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