資金調達方法(負債と自己資本) その1
【資金調達方法(負債と自己資本)】
ここからは、ファイナンスを考えるとどうしても必要となる、資金の調達方法について学んでいきましょう。
資金調達を行う際は、以下のような順番で調達方法を決定していく必要があります。
資金調達に関する現状分析を行う
↓
資金提供者が確保できるかどうか、検討する
↓
資金調達方法を決定する
↓
資金を調達し、管理する
資金調達は、ファイナンスだけではなく、経営全般の根幹をなすものです。
それぞれについて、順を追って理解していきましょう。
【資金調達に関する現状分析を行う】
まず資金調達を考える上で必要なことは、自社の財務の現状分析です。
現状分析で考えるべきことは、主に以下についてです。
1.資金の使い道
まず必要なことは、調達した資金を何に使うかということを整理するということです。
例えば設備投資を行うのか、運転資金に使うのかなどによって、適する調達先は異なってきます。
調達先をしっかりと選定するために、まずは資金が「なぜ必要なのか」ということを明確にする必要があります。
2.資金額
次に資金額です。
資金がどの程度必要かということです。
資金額を決定するには、何といっても経営戦略がまとまってることが必要です。
経営戦略が明確になっていなければ、「なぜこれだけの資金が必要なのか」ということを調達先に合理的に説明できなくなるためです。
おおまかな資金額を計算しただけでは、貸し手は資金を提供してくれません。
具体的な根拠を持って資金額を決定することが必要です。
3.調達期間
次に調達期間です。
必要となる資金はすぐに返済できる類のものか、あるいは長期に渡って必要かということです。
例えば研究開発費などで長期に渡って資金が必要な場合、負債で資金を調達しようとすると、利息の返済が経営を圧迫する可能性があります。
そのような場合は、自己資本を増やすことを検討するなど、長期的に最も経営効率がよくなる調達方法を考えなければなりません。
調達期間を考えることはその後の経営に大きな影響を与えることであるため、非常に大切になります。
4.調達コスト
忘れてはならないのは、調達に関するコストです。
調達に関するコストも、調達方法によって大きく変わります。
これまで学習してきた通り、株主資本コストは負債コストよりも大きくなります。
かつ負債利息は費用計上されるために節税効果を持つのに対して、株主資本コストは節税効果がありません。
また、例えば株式や社債を発行するには、発行費用もかかります。
忘れがちではありますが、資金調達にかかるコストを考えることも、その後の経営を考える上で非常に大切になります。
5. 経営権
そして最後に考えるべきは経営権です。
経営権とは、会社を経営する権利です。
これまで学習してきたとおり、会社は「利益を拡大していく = 株主のリターンを高める」ということが大事な使命のうちの一つです。
よって、経営者は株主が納得する経営を行わなければなりません。
そして中小企業は株主が経営者であることが多いため、経営者の判断は自動的に株主の判断ということになりますが、例えば増資をして第三者が株主となった場合、その取得割合によってはその第三者が経営に関する大きな影響力を持つこととなります。
よって自己資本による資金調達を考える際は、この経営権がどうなるかについてよく検討しなければなりません。
なお、負債で調達する場合でも、例えば銀行からの借り入れを行ったとして、経営に難があると判断された場合などは、銀行の意見を聞いたり、場合によっては銀行から経営陣を招いたりするなどの対処が必要になる場合があります。
このような点にも注意が必要です。
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