キャッシュフローを理解する その3
≪投資活動によるキャッシュフロー≫
次に投資活動によるキャッシュフローを考えます。
投資活動によるキャッシュフローの変動は、例えば有形固定資産や投資その他の資産の購入や売却によって発生します。
S社の場合は有形固定資産は100のままで変化がありませんので、購入も売却も行われていないことがわかります。
一方で投資その他の資産は5から0に減少しています。
資産が減少しているということは、その資産が売却されたということになり、売却による現金収入があったことを意味しています。
また、簿価で売却されなかった場合は、その差額が特別利益あるいは特別損失として計上されますが、ここではそれらは発生していないため、簿価で売却されたと考えられます。
つまり、簿価である5で売却されたということです。
よって、S社の投資活動によるキャッシュフローは以下のようになります。
投資その他の資産売却による収入 +5
投資活動によるキャッシュフロー +5
≪財務活動によるキャッシュフロー≫
最後が財務活動によるキャッシュフローです。
財務活動とは、資金の借り入れや返済、配当金の分配などのことを言います。
例えば資金を借り入れた場合は、借り入れた分の現金が増加し、返済した場合はその分の現金が減少します。
S社の場合は短期借入金に変更はなく、長期借入金が5減少しています。
また、株主資本が5増加していますが、これは当期純利益がそのまま資本に繰り入れられたものと判断できます。
当期純利益は、貸借対照表上の株主資本に組み込まれ、これが積み重なっていくと、会社の資本および資産も大きくなっていくということです。
また、仮に配当などで株主への還元があった場合、この株主資本は減少します。
今回は減少していないことから、配当はなかったと判断できます。
よって、S社の財務活動によるキャッシュフローは以下のようになります。
長期借入金の返済による支出 −5
投資活動によるキャッシュフロー −5
よって、最終的なキャッシュフローは、「営業活動によるキャッシュフロー(+10)+投資活動によるキャッシュフロー(+5)+財務活動によるキャッシュフロー(−5) = +10」となります。
当期純利益が5であるのに対し、実際の現金は10増加しているということです。
そしてこの現金の増減とその内訳が、ファイナンスを考える際には大切なのです。
会社の現金がどの程度増減しているかで、例えば新規投資に関しての借り入れの必要性などが分かれるためです。
また、会社に内部留保(これまでの利益の蓄積)があったとしても、それが現金以外の資産になっていれば、現在叫ばれている従業員の賃金アップを行うことは難しくなります。
極端に言うと、ファイナンスを考えるということは、まずはキャッシュフローの把握から始まるといっても過言ではないのです。
なお、会計の基本知識やキャッシュフローの計算方法などに関する詳しい説明は、当サイトの「アカウンティング(会計)」の項でも解説していますので、そちらを参照してみてください。
【キャッシュフロー計算のコツ】
キャッシュフローは、実際に行おうとするとその計算は非常に複雑になります。
様々な活動のキャッシュフローを判断するには、膨大な時間とスキル、そして判断力が必要となるためです。
また、キャッシュフローは営業活動だけではなく、投資や財務に関しても考慮せねばならず、特に投資や財務によるキャッシュフローは、年ごとに変化額が大きくなりがちなため、単年度だけ計算しても意思決定が正確にはできない場合があるためです。
よって、新事業を行うかどうかなどの意思決定は、「事業を行った場合のキャッシュフロー」と「事業を行わない場合のキャッシュフロー」を比較することが大変有効となります。
比較的簡単にそれぞれのキャッシュフローを計算することができ、意思決定を迅速に行うことができるためです。
しかしこの場合も、現在価値などの考え方を使って計算を複数年度にわたって行う必要があります。
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