永続価値を理解する その1
【永続価値とは】
今まではある事業において、「期限を設定して」未来のキャッシュフローを現在価値に修正するということを学んできました。
しかし実際の会社経営は、原則としてゴーイングコンサーン(会社は永遠に継続していく)の考え方が基本です。
よって、基本的には会社経営や事業には期限がないと考えるのがファイナンスの考え方です。
会社は永続的に続くと考えるのです。
このために、会社の金利とも言える資本コストは複利で計算されます。
そして期限を設定せずに事業などの現在価値を考える考え方を、「永続価値」と呼びます。
永続価値とは、「永続的に一定のキャッシュフローを生む事業などの現在価値」のことです。
そして永続価値は、事業だけではなく以下のような場合にもその考え方を応用することができます。
・キャッシュフローが一定となる会社そのものの価値
・家賃収入が一定のマンションの価値
・金利が一定の債券の価値
永続価値は、その性質上様々なシーンで活用できるということです。
【永続価値の計算方法】
では実際に永続価値の計算方法を考えていきましょう。
永続価値はキャッシュフローが1年後から無限大(∞)に続いた場合の現在価値です。
よってまずは以下のように考えることができます。
なお、PV(Present Value)は現在価値(永続価値)、CFは一定のキャッシュフロー、rは割引率です。
(A式)
PV = (CF÷(1+r))+(CF÷(1+r)2)+(CF÷(1+r)3)+・・・・・・・・+(CF÷(1+r)∞)
A式はこれまで出てきた現在価値の計算式と同じですが、最後が無限大(∞)になっています。
よって、このままだと永遠に計算し続けなければいけないことになってしまいます。
そこで式を簡単にしてみましょう。
ここでは、A式に(1+r)をかけてみます。
(B式)
(1+r)PV = (1+r)(CF÷(1+r))+(1+r)(CF÷(1+r)2)+(1+r)(CF÷(1+r)3)+・・・・・・・・+(1+r)(CF÷(1+r∞))
↓
(1+r)PV = CF+(CF÷(1+r))+(CF÷(1+r)2)+・・・・・・・・+(1+r)(CF÷(1+r)∞)
そしてB式からA式を引いてみます。
(B式−A式)
(1+r)PV−PV = (CF+(CF÷(1+r))+(CF÷(1+r)2)+・・・・・・・・+(1+r)(CF÷(1+r)∞))−(CF÷(1+r))+(CF÷(1+r)2)+(CF÷(1+r)3)+・・・・・・・・+((CF÷(1+r)∞))
↓
rPV = CF
↓
PV = CF÷r
これで計算式がすっきりとしました。
つまり、現在価値(永続価値)はキャッシュフローを割引率で割ることで計算できるということです。
では実際に計算してみましょう。
ここでは2つのケースの永続価値を考えてみます。
1.毎年120万円のキャッシュフローが発生する事業の永続価値(資本コストは10%)
2.毎月10万円(年間120万円)の家賃収入があるマンションの永続価値(金利は5%)
1.の永続価値は、以下のようになります。
CF = 120、r = 0.1なので、
PV = 120÷0.1 =1200
この事業の永続価値は1200万円です。
また、2.の永続価値は、以下のようになります。
CF = 120(10×12)、r=0.05なので、
PV = 120÷0.05 = 2400
このマンションの永続価値は2400万円です。
なお、2についてはややわかりにくいですが、これは、2400万円を金利5%の金融市場(定期預金など)で運用した場合、永続的に毎年120万円のキャッシュフローが手に入るのと同じということです。
また1と2を比較するとわかるとおり、永続価値は発生するキャッシュフローが同じ場合は割引率が高いほうが永続価値は低く、割引率が低いほうが永続価値は高くなります。
関連ページ
- 運転資金を即日調達する方法「ファクタリング」とは?【Q&A付き】
- ファイナンスとは
- 「儲け」とは
- 財務諸表とファイナンス その1
- 財務諸表とファイナンス その2
- キャッシュフローを理解する その1
- キャッシュフローを理解する その2
- キャッシュフローを理解する その3
- 埋没コストと機会費用
- 企業経営とキャッシュフロー概念 その1
- 企業経営とキャッシュフロー概念 その2
- 現在価値を理解する その1
- 現在価値を理解する その2
- 現在価値の計算
- 永続価値を理解する その1
- 永続価値を理解する その2
- リースファクター(年金現価係数) その1
- リースファクター(年金現価係数) その2
- リスクを理解する その1
- リスクを理解する その2
- リスクとポートフォリオ その1
- リスクとポートフォリオ その2
- ファイナンスのための統計学基礎
- リスクとリターン その1
- リスクとリターン その2
- リスクとリターン その3
- ポートフォリオの拡張と最適ポートフォリオ
- CAPM(Capital Asset Pricing Model)とは
- β(ベータ)を理解する
- CAPMの公式と解明 その1
- CAPMの公式と解明 その2
- ファンダメンタル価値理論と砂上の楼閣理論
- 効率的市場仮説とランダムウォーク
- 資本コスト(WACC)を理解する その1
- 資本コスト(WACC)を理解する その2
- 資本コスト算定の注意点
- 財務レバレッジとβ(ベータ) その1
- 財務レバレッジとβ(ベータ) その2
- 財務レバレッジとβ(ベータ) その3
- バリュエーションを理解する
- NPV(Net Present Value:正味現在価値)
- NPVによる投資評価 その1
- NPVによる投資評価 その2
- NPVの注意点
- APV(Adjusted Present Value:調整現在価値)
- NPVとAPVの関係
- IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)
- EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)
- MVA(Market Value Added:市場付加価値)
- 回収期間(Payback)法と会計上の収益率 その1
- 回収期間(Payback)法と会計上の収益率 その2
- PI(Profitability Index:収益性指標)
- 負債を活用した場合のNPV
- 企業価値を理解する
- 株価の理論値を理解する その1
- 株価の理論値を理解する その2
- 連結決算が企業価値に与える影響
- 経営の多角化が企業価値に与える影響
- M&A(企業の合併・買収) その1
- M&A(企業の合併・買収) その2
- 財務政策を理解する
- 最適資本構成とMM理論 その1
- 最適資本構成とMM理論 その2
- 利益還元政策を理解する その1
- 利益還元政策を理解する その2
- 株主に報いるには
- オプションを理解する その1
- オプションを理解する その2
- プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その1
- プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その2
- プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その3
- ブラック-ショールズの公式
- リアルオプションを理解する
- 負債コストとオプションの関係
- 「格付け」を理解する
- 経営戦略とファイナンス その1
- 経営戦略とファイナンス その2
- コーポレートガバナンス(企業統治)を理解する その1
- コーポレートガバナンス(企業統治)を理解する その2
- 資金調達方法(負債と自己資本) その1
- 資金調達方法(負債と自己資本) その2
- 資金調達方法(負債と自己資本) その3
- 資金計画を考える
- IR(インベスター・リレーションズ)とは
- 証券化とは