キャッシュフローを理解する その2
2.運転資本の増減を加減算する
運転資本にはいくつかの意味がありますが、ここでは「経営を行う際にはなくてはならない資本(資金)」という意味です。
そして運転資本は、一般的には以下の式で計算することができます。
運転資本 = (売上債権+棚卸資産)−支払債務
(売上債権+棚卸資産)は資産としては計上されますが現金収入はないもので、支払債務は負債として計上されますが、現金支出はないものです。
そしてこの差額がプラスであれば、本来あるはずの現金がないこととなり、その分の額の現金が必要ということになります。
そしてマイナスはその逆です。
ここでは2期分の貸借対照表から、運転資本の増減を確認します。
運転資本が増加していればその分のキャッシュは減少しており、減少していればその分のキャッシュは増加していることになります。
そして、「運転資本の増減額 = (売上債権の増減額+棚卸資産の増減額)−支払債務の増減額)」となりますので、ここでは運転資本の増減額は以下のようになります。
運転資本の増減額 = (売上債権の増減額(+10)+棚卸資産の増減額(0))−支払債務の増減額(+5) = 5
運転資本は5増加していますので、キャッシュフローは5減少していることになります。
3.一旦営業利益ベースに戻し、現金ベースの営業利益を算出する
ここまでで、「会計上の現金以外の収支」の整理が終わりました。
よって、現在は会計上の収支が現金をベースとしたものになっていることになります。
そして次は、その現金ベースの収支を営業利益まで戻します。
今は営業活動によるキャッシュフローを算出する作業なので、一度営業利益に立ち返る必要があるということです。
営業利益に戻るということは、特別損益と営業外収支の符号を逆にして、それを加減算していくということです。
計算自体は単純ですので、一つ一つ確認しながら作業を進めましょう。
そしてここまでの計算結果を、小計として一度合計します。
4.投資や財務活動以外の現金の動きを加減算する
最後に、投資や財務活動以外の現金の動きを加減算します。
営業外収支と特別損益の中で、投資に関するものは投資活動によるキャッシュフロー、財務に関するものは財務活動によるキャッシュフローで計算されます。
よってそれら以外での現金収支については、営業活動によるキャッシュフローに組み込みます。
法人税などもここに含まれます。
注意すべき点は、会計上の処理による現金の移動が伴わない営業外収支や特別損益は計算対象ではないということです。
あくまでも現金の移動を伴った営業外収支や特別損益だけを加減算しましょう。
これで営業活動によるキャッシュフローの計算は終了です。
1〜4をすべて計算したS社の営業活動によるキャッシュフローは、以下のようになります。
税引き前当期純利益 +8
減価償却費 +10
運転資本の増減額 −5
特別損失 0
特別利益 0
営業外費用 +7(数値を逆にする)
営業外収益 −5(数値を逆にする)
小計 +15
営業外収益 +5(投資・財務以外の現金による収入)
営業外費用 −7(投資・財務以外の現金による支出)
特別利益 0
特別損失 0
法人税など −3(投資・財務以外の現金による支出)
営業活動によるキャッシュフロー +10
キャッシュフローがプラスということは、営業活動(本業)により、現金が増加していることを意味しています。
原則として、本業ではキャッシュフローはプラスになる必要があります。
この数値がマイナスになると、「実際は儲けが出ていない」ということになり、投資や財務活動にも影響してくるからです。
よってファイナンスを考える上では、創業初期や多額な研究開発費が計上される場合などを除いては、「営業活動によるキャッシュフローはプラスが前提である」と考えておきましょう。
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