経営を学ぶ-経営学・MBA・起業・ネットビジネス・リアルビジネスなど

経営を学ぶ~経営学・MBA・起業~

NPVの注意点

【NPVの注意点】
これまで、NPVは将来予想される事業の経済的価値を数字として定量的に把握できるため、意思決定の根拠になるということを学んできました。

 

しかし、非常に重宝されるNPVも、すべての面において完璧というわけではありません。

 

ここではNPVを使用するにあたっての注意点を2つ挙げてみましょう。

 

 

【注意点1:資本コスト(WACC)の前提に制約がある】
注意点の1つ目は、NPVで計算した現在価値には、その資本コストの前提に一定の制約があるということです。

 

まず、NPVで使う資本コストはWACC(加重平均資本コスト)を用いています。

 

資本構成によってWACCが変化してしまうことは「資本コスト算定の注意点」でも触れましたが、負債と株主資本の割合をどうするかによって、WACCは変化します。

 

このことは将来資本構成が都度変化する場合などの、使い勝手の悪さを示しています。

 

NPVを計算する際は、「計算時」のWACCが未来にも続いていくという前提となっているためです。

 

WACCを用いるということは、「資本構成は常に一定である」と考えているということになるため、場合によっては資本構成を現在の資本構成ではなく、自社で今後目指していく「理想としている」資本構成でWACCを考えることもあります。

 

しかしいずれにしても、将来の資本構成を「完全に」資本コストに反映することはできません。

 

仮に負債の増減を計画時に完全に把握していたとしても、NPVを計算する際にはそれを資本コストに落とし込むことが難しいのです。

 

また、株主資本の時価も上場企業の株価の推移を見てもわかるとおり、常に一定ではありません。

 

このような株価の動きも資本構成を変動させる要因になりますが、現実問題としてその推移を予測してWACCを考慮することはまず不可能です。

 

よって、特に資本構成が大きく変化する事業に関する事業評価には、APVという指標が用いられることもあります。
(APVについては後述します。)

 

まずはNPVには、「資本コストが常に一定である」という制約があるということを覚えておきましょう。

 

 

【注意点2:NPVがマイナスだと事業に着手するという意思決定ができない】
注意点の2つ目は、NPVがマイナスの場合の意思決定です。

 

NPVがマイナスになれば、当然のことながらその事業は「利益を生み出さない」ということとなり、着手しないという意思決定がなされます。

 

しかし、特に変化の激しい現代社会では、将来的に伸びると考えられる事業には早い段階で積極的に参入しなければ、その後の競争に打ち勝てないという状況になっています。

 

例えばソフトウェアなどは、今はスマートフォンへの対応が必須となっており、スマートフォンへの対応が遅れた会社はほぼ例外なく苦境に立たされているといっても過言ではありません。

 

しかしスマートフォンのソフトウェアの需要が伸びると予想し、NPVがプラスになると計算できてから開発に着手しても、その時はすでに他社が乱立してパイの意奪い合いになってしまうといった現象が現実に起きているのです。

 

つまり、「現時点ではNPVがマイナスでも、場合によっては将来性のある事業には着手する。」という意思決定も必要となっているということです。

 

このような場合は、例えば「経営方針に沿う形で定性的な情報も盛り込んだ上で最終的な意思決定を行う。」、あるいは「リアルオプションなどの考え方を採用して、意思決定が流動的になるような対策を検討する。」などの必要が生まれてきます。
(経営方針とファイナンスの関係やリアルオプションについては後述します。)

 

NPVはキャッシュフローや現在価値、資本コストといった数字を根拠に未来を判断できますが、これらの数字はあくまでも予想であり、その範囲を超えてはいません。

 

そしてその予想が少し変更されただけで、NPVが大きく変化することもあります。

 

NPVは決して「完全なものではない」という認識を持ち、あくまでも理論上の数値であると考えることも、会社を円滑に経営していくためは必要なことと言えるでしょう。

関連ページ

運転資金を即日調達する方法「ファクタリング」とは?【Q&A付き】
ファイナンスとは
「儲け」とは
財務諸表とファイナンス その1
財務諸表とファイナンス その2
キャッシュフローを理解する その1
キャッシュフローを理解する その2
キャッシュフローを理解する その3
埋没コストと機会費用
企業経営とキャッシュフロー概念 その1
企業経営とキャッシュフロー概念 その2
現在価値を理解する その1
現在価値を理解する その2
現在価値の計算
永続価値を理解する その1
永続価値を理解する その2
リースファクター(年金現価係数) その1
リースファクター(年金現価係数) その2
リスクを理解する その1
リスクを理解する その2
リスクとポートフォリオ その1
リスクとポートフォリオ その2
ファイナンスのための統計学基礎
リスクとリターン その1
リスクとリターン その2
リスクとリターン その3
ポートフォリオの拡張と最適ポートフォリオ
CAPM(Capital Asset Pricing Model)とは
β(ベータ)を理解する
CAPMの公式と解明 その1
CAPMの公式と解明 その2
ファンダメンタル価値理論と砂上の楼閣理論
効率的市場仮説とランダムウォーク
資本コスト(WACC)を理解する その1
資本コスト(WACC)を理解する その2
資本コスト算定の注意点
財務レバレッジとβ(ベータ) その1
財務レバレッジとβ(ベータ) その2
財務レバレッジとβ(ベータ) その3
バリュエーションを理解する
NPV(Net Present Value:正味現在価値)
NPVによる投資評価 その1
NPVによる投資評価 その2
NPVの注意点
APV(Adjusted Present Value:調整現在価値)
NPVとAPVの関係
IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)
EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)
MVA(Market Value Added:市場付加価値)
回収期間(Payback)法と会計上の収益率 その1
回収期間(Payback)法と会計上の収益率 その2
PI(Profitability Index:収益性指標)
負債を活用した場合のNPV
企業価値を理解する
株価の理論値を理解する その1
株価の理論値を理解する その2
連結決算が企業価値に与える影響
経営の多角化が企業価値に与える影響
M&A(企業の合併・買収) その1
M&A(企業の合併・買収) その2
財務政策を理解する
最適資本構成とMM理論 その1
最適資本構成とMM理論 その2
利益還元政策を理解する その1
利益還元政策を理解する その2
株主に報いるには
オプションを理解する その1
オプションを理解する その2
プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その1
プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その2
プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その3
ブラック-ショールズの公式
リアルオプションを理解する
負債コストとオプションの関係
「格付け」を理解する
経営戦略とファイナンス その1
経営戦略とファイナンス その2
コーポレートガバナンス(企業統治)を理解する その1
コーポレートガバナンス(企業統治)を理解する その2
資金調達方法(負債と自己資本) その1
資金調達方法(負債と自己資本) その2
資金調達方法(負債と自己資本) その3
資金計画を考える
IR(インベスター・リレーションズ)とは
証券化とは

HOME
HOME メルマガ登録 プロフィール お問い合わせ