IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)
【IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)とは】
IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)とは、WACCを使って事業投資などの可否を考える、ある意味NPVの仲間とも言える手法です。
具体的には、NPVがゼロになる場合の資本コストを計算し(これを内部収益率と呼びます。)、これがWACCを上回ればその事業には経済的価値があると認めるという意思決定方法です。
IRRは、以下のように求めます。
(現在のFCF)+((1年後のFCF)÷(1+r))+((2年後のFCF)÷(1+r)2)+・・・・+((n年後のFCF)÷(1+n)2) = 0
ここで、FCFはフリーキャッシュフロー、nは事業経過年数です。
そしてrが内部収益率です。
NPVを求める際はここに資本コスト(WACC)が入りましたが、IRRではこれを内部収益率として、このrがWACCを上回るか下回るかを見るということです。
ただし、後述するようにIRRにも注意しなければならないポイントがあります。
よって、そのポイントを正しく理解しておくことが必要となります。
【IRRの計算方法】
ではIRRについて、わかりやすくするために実際に計算してみましょう。
ここでは以下の例で考えてみます。
≪例1≫
・事業期間 5年(残存価値は考えない)
・投資費用(今期) 2億円
・FCF 1年後から5000万円/年
・WACC 6%
この場合、計算方法は以下になります。
(単位は百万円で計算しています。)
−200+(50÷(1+r))+(50÷(1+r)2)+(50÷(1+r)3)+(50÷(1+r)4)+(50÷(1+r)5)+ = 0
この場合のrの値、つまりIRRを求めるということです。
なお、計算は表計算ソフトなどを使用しなければ非常に煩雑になり、ミスが多くなりますので注意が必要です。
ここでは、r(IRR)は以下となります。
r(IRR) ≒ 7.93
WACCが6%に対してIRRは7.93%なので、事業に着手するという意思決定ができることになります。
【IRRの注意点】
では次にIRRの注意点を具体的に考えてみましょう。
最大の注意点は、IRRは内部収益率という、「率」だけが判断材料になるということです。
ここで先ほど計算した例とは別の事業計画のIRRを計算してみます。
≪例2≫
・事業期間 5年(残存価値は考えない)
・初期投資 2,000万円
・FCF 1年後から55万円/年
・WACC 6%
このようなケースを考えましょう。
このような場合のIRRは、以下となります。
−20+(5.5÷(1+r))+(5.5÷(1+r)2)+(5.5÷(1+r)3)+(5.5÷(1+r)4)+(5.5÷(1+r)5)+ = 0
r(IRR) ≒ 11.65%
IRRは11.65%です。
IRRで比較すると、「例1<例2」となり、もし単純にどちらかを選ぶ必要があるとすると、その意思決定は「例2の事業に着手する」ということになります。
しかしここで、WACCを使ったNPVも計算してみましょう。
≪例1≫
NPV = −200+(50÷(1+0.06))+(50÷(1+0.06)2)+(50÷(1+0.06)3)+(50÷(1+0.06)4)+(50÷(1+0.06)5)
≒ −200+47.17+44.50+41.98+39.60+37.36 ≒ 10.62
≪例2≫
NPV = −20+(5.5÷(1+0.06))+(5.5÷(1+0.06)2)+(5.5÷(1+0.06)3)+(5.5÷(1+0.06)4)+(5.5÷(1+0.06)5)
≒ −20+5.19+4.89+4.62+4.36+4.11 ≒ 3.17
例1の事業のNPVは10.62、例2の事業のNPVは3.17です。
NPVで考えると、今度は例1の事業に着手すべきとなるのです。
このことは、以下のことを意味しています。
「IRRは収益「率」で考えるため、投資の規模については考慮していない」
よって、IRRは投資予算に一定の制約があり、同規模の複数案件から事業を選択する場合などについて有効な手法ということになります。
なお、詳細は省略しますが、IRRは例えば各年度のFCFがプラスとマイナスを繰り返す場合などは収益率が出ない、あるいは複数出るというケースもあります。
IRRで意思決定を行う場合は、上記の特性を踏まえた上で活用するようにしましょう。
関連ページ
- 運転資金を即日調達する方法「ファクタリング」とは?【Q&A付き】
- 財務諸表とファイナンス その1
- 財務諸表とファイナンス その2
- 資金計画を考える
- ファンダメンタル価値理論と砂上の楼閣理論
- 資金調達方法(負債と自己資本) その1
- 資金調達方法(負債と自己資本) その2
- 資金調達方法(負債と自己資本) その3
- NPVによる投資評価 その1
- NPVによる投資評価 その2
- IR(インベスター・リレーションズ)とは
- IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)
- リースファクター(年金現価係数) その1
- リースファクター(年金現価係数) その2
- 負債を活用した場合のNPV
- M&A(企業の合併・買収) その1
- M&A(企業の合併・買収) その2
- 企業経営とキャッシュフロー概念 その1
- 企業経営とキャッシュフロー概念 その2
- MVA(Market Value Added:市場付加価値)
- NPVの注意点
- 資本コスト算定の注意点
- NPVとAPVの関係
- NPV(Net Present Value:正味現在価値)
- CAPMの公式と解明 その1
- CAPMの公式と解明 その2
- 最適資本構成とMM理論 その1
- 最適資本構成とMM理論 その2
- オプションを理解する その1
- オプションを理解する その2
- 永続価値を理解する その1
- 永続価値を理解する その2
- PI(Profitability Index:収益性指標)
- ポートフォリオの拡張と最適ポートフォリオ
- プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その1
- プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その2
- プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その3
- 現在価値を理解する その1
- 現在価値を理解する その2
- 現在価値の計算
- 利益還元政策を理解する その1
- 利益還元政策を理解する その2
- 「格付け」を理解する
- リアルオプションを理解する
- リスクとリターン その1
- リスクとリターン その2
- リスクとリターン その3
- リスクを理解する その1
- リスクを理解する その2
- リスクとポートフォリオ その1
- リスクとポートフォリオ その2
- 証券化とは
- ファイナンスのための統計学基礎
- 経営戦略とファイナンス その1
- 経営戦略とファイナンス その2
- 埋没コストと機会費用
- 株価の理論値を理解する その1
- 株価の理論値を理解する その2
- バリュエーションを理解する
- 資本コスト(WACC)を理解する その1
- 資本コスト(WACC)を理解する その2
- ブラック-ショールズの公式
- 回収期間(Payback)法と会計上の収益率 その1
- 回収期間(Payback)法と会計上の収益率 その2
- 株主に報いるには
- ファイナンスとは
- 「儲け」とは
- APV(Adjusted Present Value:調整現在価値)
- β(ベータ)を理解する
- CAPM(Capital Asset Pricing Model)とは
- キャッシュフローを理解する その1
- キャッシュフローを理解する その2
- キャッシュフローを理解する その3
- 連結決算が企業価値に与える影響
- コーポレートガバナンス(企業統治)を理解する その1
- コーポレートガバナンス(企業統治)を理解する その2
- 企業価値を理解する
- 負債コストとオプションの関係
- 経営の多角化が企業価値に与える影響
- 効率的市場仮説とランダムウォーク
- EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)
- 財務レバレッジとβ(ベータ) その1
- 財務レバレッジとβ(ベータ) その2
- 財務レバレッジとβ(ベータ) その3
- 財務政策を理解する