プレミアムの算定(二項過程モデル、ヘッジレシオ、プット・コール・パリティ) その1
【プレミアムの算定】
デリバティブ商品の1つであるオプションには、「プレミアム(オプション価格)」が発生します。
プレミアムは取引の際に買い手が売り手に支払うもので、その時点では買い手の損失、売り手の利益となるものです。
ではプレミアムはどのように決定されるのでしょうか。
プレミアムの決定理論には代表的なものがいくつかありますが、ここでは「二項過程モデル」と呼ばれる方法で考えてみたいと思います。
【二項過程モデル(コールオプション)】
二項過程モデルとは、株価が上昇するか下落するかのどちらかしかないと仮定して、プレミアムを求める手法です。
そして他のファイナンス理論と同様、二項過程モデルでも一定の前提が必要となります。
ここでは以下の前提で考えていきます。
≪前提≫
・上場している会社の株式の現在の株価は200円である。
・上記の株式は、満期日には300円に上昇するか100円に下落するかどちらかである。
・満期日はちょうど1年後である。
・金利は2%/年である。
そして、ここでは「Aさんが行使価格200円でCさんからコールオプションを買う」という場合のプレミアムについて考えてみます。
≪Cさんのヘッジ取引≫
まず、Aさんにコールオプションを売るCさんは、コールの売りというリスクの大きな取引を行うこととなるので、損失を回避するために、ヘッジという取引を行います。
ヘッジとは、損失を回避するためにいわば「保険」をかけるような取引を行うことです。
Cさんは株価が300円、あるいは100円のどちらになっても損失を出さないようなヘッジ取引を行うのです。
そしてCさんはこのヘッジ取引をAさんから受け取るプレミアムと銀行からの借り入れで行い、ヘッジ取引の一環として現在の株価で株式を購入しておきます。
ここで、プレミアムをx円、Cさんが銀行から借り入れる金額をy円、Cさんが購入する株式の株数をz株とすると、Cさんが運用する金額は以下のようになります。
なお、ここではCさんの利益を0として考えています。
x+y−200z = 0 ・・・ (1)
リスクを最小にするために、プレミアムと銀行からの借り入れ金で、取引の対象株式を買っておくということです。
≪株価が300円に上昇した場合≫
では権利行使日に株価が300円に上昇した場合を考えてみましょう。
この場合、Aさんは当然権利を行使しますので、Cさんにはそれに応じる義務があります。
ここで、Cさんは、300円に上昇した株式を購入し、200円でAさんに売却します。
そして借り入れた金額に2%の金利をのせて銀行に返済します。
このときの株式の購入と銀行への返済資金は、上昇した株式の売却益を割り当てます。
すると、この場合の計算式は以下のようになります。
(上昇した株式の売却益)−(300円に上昇した株式)+(200円でAさんに売却した株式)−(利息を含む銀行への返済資金) = 0
300z−300+200−1.02y = 0 ・・・ (2)
≪株価が 100円に下落した場合≫
では権利行使日に株価が100円に下落した場合を考えてみましょう。
この場合、Aさんは権利を行使しませんので、Cさんは下落した株式の売却代金を銀行の返済資金に割り当てます。
下落した株式の売却益 = 利息を含む銀行への返済資金
100z = 1.02y ・・・ (3)
≪プレミアムを計算する≫
最後に、上記の(1)から(3)の計算式から、Cさんが損をしないようなプレミアムを計算しましょう。
まずは(2)と(3)から、zとyの値を計算します。
(2)より、
1.02y = 300z−100
これを(3)に代入します。
100z = 300z−100
200z = 100
z = 0.5
これでyの値も計算できます。
1.02y = 100×0.5 = 50
y ≒ 49.02
ではxとyの値を(1)の式に代入してx(プレミアム)を求めてみましょう。
x+49.02−200×0.5 = 0
x = −49.02+100 = 50.98
プレミアムは50.98円です。
Aさんは200円の株式に50.98円のプレミアムをつけ、250.98円支払えば、この株式のコールオプションを買えるということです。
以上が二項過程モデルでのコールオプションのプレミアムの計算方法です。
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