4世代のイノベーションモデル
今回は4世代のイノベーションモデルについて説明していきます。
今回の文章を読むことで、イノベーションモデルの変遷や各イノベーションモデルの概要について学ぶことができます。
イノベーションモデルの変遷
本稿ではイノベーションモデルの考え方をご紹介します。
イノベーションモデルとは、イノベーション創出の過程を概念化したものになります。
イノベーションには様々な考え方や定義があります。
「売れる製品を開発すること」がイノベーションと捉える定義もあれば、「売れるだけでは認められず、社会的に大きな影響を及ぼして初めてイノベーションと認められる」といった考え方もあります。
北陸先端科学技術大学院大学の特任教授であった亀岡秋男氏によると、イノベーションモデルは4世代の変遷があります。
第1世代:リニアモデル
製品自体のイノベーションになります。
研究・開発が主な対象となります。
基本的な考え方として、「研究」⇒「開発」⇒「製造」⇒「販売」という流れが定義されており、このイノベーションモデルは前のステップが次のステップに直接的に影響を及ぼすプロセスを前提とすることから「リニアイノベーション」と呼びます。
このモデルの特徴は、既存市場により市場ニーズが明確なため、経営層から「このような製品を市場に投入する」といったような指示があり、組織の中で効率的にイノベーションが創出されるように設計されています。
第2世代:クラインモデル
第二世代として、ノンリニアなイノベーションモデルが考えられました。
本モデルではイノベーションの出発点は「市場発見」にあると定義しています。
顧客や市場を分析してニーズを発見し、そこからイノベーションへ派生します。営業要員からのフィードバックを製品開発に活かします。
この第2世代の考え方は、プロダクトアウト志向を脱却し、マーケットインの志向に変わっています。
第3世代:仮説検証モデル
第三世代は、市場での実験を重要と捉えた仮説検証モデルが挙げられます。
このモデルは、顧客や市場を分析するだけではなく、実際に市場で実験し、そこから得られる情報やノウハウをベースにイノベーションを創出していくことになります。
市場に迅速に製品を投入し、その反応を見ながら改良を加えていきます。
この考え方には、早期に市場投入することのリスクやコストがかかるなどのマイナス面もありますが、先行者利益が大きい市場では有効な手段とされています。
第4世代:インタラクティブモデル
昨今注目されているのがインタラクティブモデルになります。
利用者や顧客が積極的に製品やサービスの開発に参画し、ヒット商品を産み出すような事例もあります。
利用者もはっきりと認識できていないニーズを協創的な取り組みの中で掘り起こすため、プロセスは曖昧であり、双方の意思疎通が非常に重要となります。
仮説検証モデルの事例:セブン&アイ
データを活用した仮説検証モデルの事例を紹介します。
セブン&アイでは缶コーヒーの売上が低迷していました。その理由として、別のヒット商品である入れたてコーヒー「セブンカフェ」の影響があると考えていました。
しかし、nanacoカードなどから収集したデータを調査した結果、缶コーヒーとセブンカフェでは、客層が明らかに異なっており、缶コーヒーの売上低迷はセブンカフェが原因でないということがデータから検証されました。
またアンケート調査などから、缶コーヒー購入の決め手は、ブランド力が必要であることが仮説立案されました。
その仮説を市場で検証するため、セブン&アイは国内飲料メーカー大手サントリー食品インターナショナルと共同で、プライベートブランド(PB)缶コーヒーの商品開発を行いました。
こうして開発されたPB缶コーヒー「ワールドセブンブレンドオリジナル」を迅速に市場に投入した結果、販売後月間500万本の売れ筋商品となりました。
これは結果として仮説が立証されたと言えます。
【解説】
仮説検証を行うには、データ量も重要ですが、データから仮説を立案して、市場で検証を行って次の商品開発にフィードバックする仮説検証サイクルを迅速に回していくことが重要と言えます。
実際、データ量のみであれば、セブン&アイよりもローソンの方がカード会員(Ponta会員)が多く、データも十分にあったと言えます。
まとめ
顧客ニーズが多様化している昨今、顧客市場との対話を通じて今後の取るべきアクションを決めていくプロセスが重要となります。
つまり、本稿で紹介した第3・第4世代のイノベーションモデルで掲げられている創発的なモデルが重要であると言えます。
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