ポーターの3つの基本戦略
今回はポーターの3つの基本戦略について説明していきます。
この文章を読むことで、企業が競争優位性を築くために重要な3つの基本戦略について学ぶことが出来ます。
ポーターの3つの基本戦略とは
マイケル・E・ポーターが提唱した3つの基本戦略は、どのようにして競争優位を築くかという観点から戦略立案を行います。
自社が属する業界内で持続可能な競争優位を構築するために3つの基本戦略を掲げました。
(1)コストリーダーシップ戦略
業界全体の幅広い顧客をターゲットとして、競合他社よりも安価に商品を販売、サービスの提供を実現することで競争優位を築こうとする戦略となります。
安価な商品、サービスの提供をを実現するためには低コストでのモノづくり、サービスづくりが重要となります。
(2)差別化戦略
業界全体の幅広い顧客をターゲットとして、競合企業とは異なる特徴を活かして差別化を実現することによって競争優位を構築しようとする戦略となります。
例えば、同業界内のコストリーダーシップ戦略を取る企業に対して、高品質な商品やサービスを高い価格で販売するなどの戦略となります。
(3)集中戦略
業界の特定市場、特定顧客にターゲットを絞り込んで、自社の経営資源を集中投下して競争優位を構築しようとする戦略となります。
経営資源を集中投下して、コスト集中戦略か差別化集中戦略を採用することになります。
コストリーダーシップは「同じ商品やサービスを提供するのなら、安く提供できるほうが競争優位を持つ」という考え方であり、差別化とは「多少価格が高くなったとしても、それ以上に価値があるものを提供できれば競争優位を持てる」という考え方となります。
コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略を実行する企業は、低コストの部分に競争優位性を求めます。
低コストを実現させるためには、規模の経済を働かせることや経験曲線効果の利用が挙げられます。
具体的には、他社に先駆けて先行投資し、初期段階では赤字になろうと安価な価格で市場へ商品を投入します。
そして、先行者の特権を活かしてマーケットシェアを高めます。
これによって規模の経済が働くと共に累積生産量も急速に増えていくため、経験曲線効果が働いてきます。
そして結果として、低コストとなっていき、競争優位性を確保することができます。
<例題>
コストリーダーシップ戦略の代表的な企業として、飲食業界の「サイゼリヤ」が挙げられます。
コストリーダーシップ戦略は業界全体の広い顧客をターゲットとし、他社のどこよりも低いコストを実現することに焦点が置かれています。
サイゼリヤは創業以来、徹底した低価格路線を歩み、事業を成長させてきました。サイゼリヤがどのような顧客をターゲットとし、イタリア料理を提供しているか考えてみてください。
<解説>
サイゼリヤは若年層、ファミリー層、さらには老年層をターゲットとし、イタリア料理を低価格で提供することを実施しています。
サイゼリヤの競争優位性について考えてみます。サイゼリヤでは、徹底した効率化とシステム化を行っています。
食料の素材を仕入れるのにも、福島県に100万坪の自社農場を保有し、収穫直後の野菜を迅速に輸送するコールドチェーンシステムを構築し、新鮮な野菜を店舗に配送できる仕組みを構築しています。
食料の素材の生産〜輸送〜料理〜消費に至るまでの様々な過程を効率化、システム化しています。
システム化することのメリットは、一連のバリューチェーン上のデータを数値化することで状況を見える化できる点にあります。
状況が見えることで管理を徹底することができ、効率化にもつなぐことができます。効率化を徹底した結果、低コスト化を実現しています。
このような環境下にあると、従業員の意識も高まり、日々の業務のカイゼンが進み、より品質が高く、より安く、より効率的なものへと進化していきます。
このような事業の仕組みがサイゼリヤの競争力の源泉となっています。
差別化戦略
差別化戦略を実行する企業は、競合企業と比べていかに差別化を図って顧客のニーズにこたえていくかといったところに競争優位の源泉を求めていきます。
他社との差別化を実現するためには、自社の経営資源を活用した事業の仕組み(事業システム)での差別化が必要となります。
具体的には商品やサービスの差別化、販売チャネルの差別化、プロモーションの差別化などが考えられ、これらが自社固有のもので模倣困難であるように具現化していくことが重要となります。
<例題>
差別化戦略の代表的な企業として、飲食業界の「モスバーガー」が挙げられます。
モスバーガーは業界高シェアNo.1である「マクドナルド」と同様の戦略をとっても競争優位を築くことはできないため、差別化戦略を選択しています。
高めの価格帯を設定し、その分、品質の向上で差別化を図っています。バブル崩壊以降のデフレ期間、マクドナルドはハンバーガー80円、チーズバーガー100円などと極端な値下げを行いました(コストリーダーシップ戦略)。
しかし、モスバーガーは一貫して価格帯を維持してマクドナルドとは一線を画していました。モスバーガーがどのような強みを持ち、マクドナルドとの差別化を図ったのかを考えてみてください。
<解説>
モスバーガーの強みは、高品質(高価格帯)であることです。
これによって、マクドナルドとの差別化を明確にしています。
高品質を訴求している中で、どのような工夫をしているのかを見ていきます。
立地戦略については基本的に駅前など、マクドナルドが出店しているようなところは避けて出店しています。
健康志向や食材については、有機野菜や国産素材を活用し、品質へのこだわりを追及しています。
また、作り置きすることなく、注文を受けてから作る方式を取り、作り立てを提供している点も大きな差別化となっています。
集中戦略
集中戦略を実行する企業は、有限である経営資源を分散させることなく、特定市場(顧客)のターゲットに経営資源を集中し、低コストまたは差別化によって当該市場(顧客)において競争優位を築いていきます。
<例題>
集中戦略の代表的な企業として、自動車業界の「スズキ」が挙げられます。
スズキは自動車業界の軽自動車市場に的を絞り、経営資源を集中してきました。
2006年まで軽自動車の分野で、34年間連続国内No1の実績を残していること、日産自動車に対してOEM供給をしていることからこの市場において競争優位性を確立していると言えます。
スズキが集中戦略をとっている背景として、自動車業界全体の中では規模感が小さいことが挙げられます。
売上高などの指標を見ても、トヨタ、日産、ホンダと比べると弱者の位置づけとなります。そのような企業にとって、集中戦略は有効な戦略となります。
それでは、スズキは集中戦略をとっていく上でどのような強みを持っているかを考えてみてください。
<解説>
スズキが保有している競争優位性は、軽自動車分野でシェアNo.1という点になります。
高級車や中型車には事業領域を伸ばさず、軽自動車の研究、開発、生産、販売に特化して経営資源を集中投下できていることが強みと言えます。
その結果、軽自動車を購入する消費者にとって、ブランドイメージを浸透させることができており、他社との差別化に繋がっています。
また、集中戦略は事業領域のみならず、販売地域も選択と集中を行っています。
スズキは競合企業に先駆けて海外進出の一環でインドに進出しており、現在ではインド国内で高いシェアを獲得しています。
まとめ
企業が戦略を策定する際には3つの戦略(コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略)の中から選択することになります。
自社が活用できる経営資源や業界内での立ち位置を考慮して戦略を選択することが重要となります。
基本的には業界のリーダーはコストリーダーシップ戦略を取ることが多く、リーダー以外の企業は差別化戦略や集中戦略をとって競争優位性を確保していくことが多くなります。
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