市場分析
市場規模と成長性を把握する
市場分析は、需要の動向、供給の動向、市場競争力の動向を適切に判断するために行います。
客観的なデータから調査したい市場の魅力、自社のポジショニングを把握します。市場分析を行う上で必要なことは、市場の”規模”と”成長性”を捉えることです。
”規模”は金額で示されることが多く、「市場規模=平均単価×市場に流通する数量」となります。そのため、「平均単価」と「市場に流通する数量」を調査することになります。
”成長性”は、こちらも「平均単価」と「市場に流通する数量」の伸び率を分析することになります。
ここまで数値を捉えることができれば、おおよそ市場が「立ち上がり段階」、「成長段階」、「成熟段階」、「衰退段階」といった具合でライフサイクルのどの段階にあるのかの当たりをつけることができます。
【化粧品メーカーA社】
化粧品メーカーのA社が具体的に市場分析を行い、事業戦略を策定するストーリーを紹介します。
はじめにA社の概要になります。A社は化粧水を主力商品とするメーカーで、数年前まで市場シェアが1位の企業でしたが、経営環境の変化に対応することができず、2位に後退しています。加えて、3位の競合企業がM&Aによって事業規模を拡大しながらA社を猛追しています。
A社が属する市場規模を確認します。
市場規模は約8,000憶円程度であり、近年は減少傾向にあります。
流通数量は微増していますが、単価の下落によって市場規模が減少傾向にあると言えます。
化粧品市場は、OEM(Original Equipment Manufacturer)生産が盛んにおこなわれているため、化粧品の企画、販売のみに特化した企業が出現するなど、新規参入のプレイヤーや異業種での実績をベースに参入してくるメーカーも多く、群雄割拠の状態となっています。
そのため、A社にとっては、これまでの地位が安泰というわけではなく、競争優位性を確保するための事業戦略が必要不可欠となっています。
市場の構造を把握する際、市場全体を捉えた分析も重要ですが、一概にひとまとめで捉えることは得策ではありません。同市場において、多種の製品を多数の消費者が購入していますので、単価や流通数量をセグメント分解して考える必要があります。
セグメントの分け方は、サービス属性や顧客属性といった考え方で分類することもできます。
しかし、多くの場合、サービス属性別の分類となっています。化粧品の化粧水市場においては、製品の価格帯によって大きく市場動向が異なっていることが見えてきます。
例えば、単価1,000円程度の低価格帯製品は市場規模で見ていると変動はありませんが、実態は、流通数量は増加し、単価は下落していることがわかります。
中価格帯製品は、単価は横ばいで変わらないが、数量が大幅に減少しており、市場規模は縮小傾向にあります。
一方、単価5,000円程度の高価格帯製品は、単価・流通数量ともに増加しており、市場規模が拡大傾向にあります。
さらに単価が10,000円を超える超高価格帯製品は法人が対象となっており、単価が微減、数量は大幅減少となっており、市場規模は縮小しています。
【解説】
例示した化粧品市場においては、流通数量は微増しているが、単価の下落によって市場規模が減少傾向にあり、約8,000憶円程度で推移していると言えます。
これは市場のライフサイクルでいうと、成熟期の傾向であると言えます。
成熟期においては、製品は市場に行き渡っており、競争優位を確立しても市場占有率を伸ばすことが難しい状況となっています。
顧客にファンになっていただき、顧客に対して価値を提供していく中で安定した収益を上げていくことが求められます。
このように市場分析を行い、市場のライフサイクルを見極めた上で取るべき戦略を考案していくことが肝要です。
まとめ
市場の規模を概算で算出する際には、市場をセグメントに分解し、市場セグメント別に規模と流通数量を考えます。
このような分析を行うポイントは、仮説思考で行うことです。仮説がなければ調査内容がブレてしまい、無駄に多大な労力を使ってしまいます。
例えば、化粧水市場において、低単価の流通数量が増加しているのは、付加価値製品に対する消費者のニーズが変動しているからではないか。
といったことを予め想定して分析することが重要です。仮説を持って調査、分析を進めないと何を調べるのかが決まりません。
仮説は市場分析のみならず、他の分析全てで必要な考え方となります。
初めは仮説思考が難しく感じられると思われますが、徐々に慣れていくよう心がけてください。
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