外部環境分析(PEST分析と5Forces分析)
今回は、外部環境分析について説明しています。
この文章を読むことで、外部環境分析の概要と主要な方法としてPEST分析、5Forces分析について学ぶことが出来ます。
外部環境分析
外部環境とは、自社を取り巻く外部の環境を意味しています。
自社以外の外部要因となるため、自社ではコントロール不可能であり、与えられた条件として経営戦略立案や意思決定を行う必要があります。
外部環境を分析するためには、自社にとって「機会」となる要因と「脅威」となる要因について考えながら分析を進めることが大切です。
経営戦略の立案は自社の事業を継続させるためにあります。
そのためには、自社の経営資源を成長分野へ集中投下することが鉄則であり、そのような成長業界・成長市場を見極めることが重要となります。
一方、将来的に市場の縮小や競合企業との過当競争によって自社の成長や継続性が見出せなくなる可能性もあります。
そのような場合は、事業撤退といった戦略を立案する必要があります。
企業の事業の方向性は、自社を取り巻く環境によって大きく影響を受けます。
とりわけ、コントロール不可能な外部環境の変化を把握し、コントロール可能な内部環境をその変化に適応させていくことが重要となります。
主な分析方法として、PEST分析と5Forces分析が用いられます。
PEST分析
マクロ環境を分析する際、PEST分析というフレームワークを用いることが一般的です。
PEST分析とは、Politics(政治)、Economics(経済)、Society(社会)、Technology(技術)といった4つの視点から自社が属する業界に与える影響の要因を見出し、今後の動きを掴みます。
<PEST分析の例:Politics>
政府の政権交代や方針転換、法改正、規制の強化や緩和などが含まれます。
例えば、人材派遣法が施行された際には、従来は事務職という形で採用していた企業が派遣社員に切り替えるということが起こりました。
これは、雇用主である企業と被雇用者に大きな変化をもたらしました。
企業側は、派遣社員を雇うことで適材適所にスキルを持った人材の補充が可能となりました。
また、コスト面においても社会保険の支出は派遣先企業の負担となるため雇用側には発生しないためにコスト削減となります。
一方、被雇用者側は1つの企業に縛られることなく、柔軟な働き方が可能となりました。最も大きな影響は派遣会社という新たな事業体が創出されたことです。
<PEST分析の例:Economics>
経済的環境要因として挙げられるものは、景気、経済成長率、雇用情勢、株価、金利、為替などです。
これらは政治の結果で変動することもありますが、経済的環境要因として見ることが多いです。
具体例として、為替を取り上げます。
為替の変動は海外との取引がある企業には大きな問題となります。日本企業で輸入を行う場合は、円高・ドル安となれば、同じ金額でより多くの製品を輸入することが可能となります。
1,000万円の予算があり、1$=200円であれば5万$分の製品を輸入することが可能であり、円高となって進み1$=100円となれば10万$分の製品を輸入することができるようになります。
輸出業者の場合は反対に円安・ドル高となることでメリットを享受することができます。
多くの企業においては、このような為替変動のリスクを減少させるためにオプションなどで為替変動に大きな影響を受けないようにしています。
<PEST分析の例:Society>
社会的環境要因には、人口動態、文化、教育制度、ライフスタイルなどの変化が含まれます。
例えば、少子高齢化社会などは現在の日本が抱える大きな課題の一つであり、環境変化だと言えます。
そのような中で、具体例として近年創出されてきたビジネスとして”終活ビジネス”が挙げられます。高齢者をターゲットとしたビジネスであり、最期に備えて葬儀や墓を自身で手配しておくためのアドバイスからサービス提供までを行っています。
<PEST分析の例:Technology>
技術的視点で大きな環境変化として、インターネットの普及が挙げられます。
インターネットという新技術によって、Amazonや楽天といったEC(Electronic Commerce)事業を行う企業がインターネットを介して直接消費者と商品の売買を行うようになりました。
これによって、従来、メーカーと小売や消費者を結んでいた卸業界にとっては大きな環境変化となっています。
また、近年ではインターネットとスマートフォンの普及によって、消費者のライフスタイルや働き方などを大きく変える革新的なビジネスが創出され始めています。
5Forces分析
5Forces分析は、特定の業界を分析するためのフレームワークです。
当該業界において競争環境を作るのには5つの要因があるとマイケル・E・ポーターが提唱しています。
5Forcesとはこちらの5つの要因のことです。
?「既存競合者同士の敵対関係」
競合企業が多い環境下においては、業界内でコスト、品質、納期などの差別化が強化されていくため、激しい競争環境となります。
?「新規参入の脅威」
参入障壁の高さによって脅威が決まります。
参入障壁が高い場合には、業界内の競争は緩やかになりますが、参入障壁が低い場合には競争が激しくなります。
新規参入の増加は、業界の活性化を図る側面と業界内の潜在的な利益を圧迫する側面を持っています。
この脅威が大きければ、既存の企業は新たな競合記号の参入を阻止するために値下げを行ったり、設備投資によって大量生産を行ったりします。
?「代替製品・代替サービスの脅威」
既存製品やサービスとは異なる製品やサービスでありながら、既存製品/サービスと同等以上の価値を消費者に提供する際にもたらされる脅威となります。
既存の業界製品とは全く違う形やアプローチで、業界製品やサービスと同じもしくは類似した機能を提供します。
過去の事例では、レコードに対するCDの台頭、フィルムカメラに対するデジタルカメラ、そしてデジタルカメラに対するスマートフォンの登場などがあります。
?「買い手の交渉力」
買い手は同品質なら低価格で、同価格なら高品質な製品を購入しようと考えます。
従って、価格と品質は買い手の購入量や情報量などによって変化します。
一般的に独占的な製品やサービス(例えば、電力やガスの供給を受ける買い手)であればバイヤーの交渉力は弱まりますが、家電製品や日用品などのコモディティ製品であればバイヤーのスイッチングコストが低いために交渉力が強くなります。
?「サプライヤーの支配力」
サプライヤーは業界内の企業に対して、最も高い価格で供給したいと考えているため、サプライヤーと企業の間には必然的に力関係が発生し業界構造に影響を与えています。
部品供給などのサプライヤーの力が強い場合、他社よりも高い価格の設定、提供するサービスの質の制限、業界内の企業にコストを転嫁するなどして、サプライヤーがさらなる価値を獲得し、業界内の潜在的な利益を圧迫します。サプライヤーの数自体が少ない場合や当該業界にサプライヤーの売上が依存していない場合はサプライヤーの力が強くなります。
<5Forces分析の例>
自動車業界における5Forace分析は、トヨタや日産、ホンダによる国内外の顧客に対して激しい競争があります。
自動車メーカーに部品を供給している自動車部品メーカーは部品によっては、供給企業の数自体が少なく、交渉力が強いために値上げ要請を度々行なっています。
新規参入は従来の自動車業界は、参入障壁が高い状況でしたが、近年は電気自動車といった市場が確立されており、当該分野においては異業種からの参入が増加しており、既存企業にとっては脅威となっています。
具体的には日本国内では、SNS大手のDeNAが電気自動車事業に参入しており、海外に目を向けるとアップル社が電気自動車事業に参入するとのうわさが流れています。
代替品・代替サービスにおいては、既出の電気自動車の登場や自動車を所有するのではなく、カーシェアリングとして自動車を利用する代替サービスが挙げられます。顧客の競争力は比較的穏やかなものとなっています。
まとめ
外部環境分析は、自社ではコントロール不可能な前提条件となります。このコントロール不可の条件を「機会」と「脅威」に分類しながら分析を行います。
外部環境の情報を整理するためのフレームワークとして代表的なものとして、「PEST分析」や「5Forces分析」があり、これらを効果的に使用することが外部環境分析のポイントとなります。
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