学習する組織とは
今回は学習する組織について説明していきます。
今回の文章を読むことで、学習する組織の理論の概要とフォード車の事例、本来の戦略とは何かについて学ぶことができます。
学習する組織の理論の概要
「学習する組織」という理論は、クリス・アージリスとドナルド・シェーンが最初に提唱し、その後、ピーター・センゲが世に広めた理論となっています。
概要としては、複雑性や変化が加速する世界において、組織はどのように適応しているかを研究した内容となっています。
センゲは「学習する組織」には5つの基本的な構成要素があると提唱しています。
この「学習する組織」の理論を自社に取り入れることによって、ホンダ、インテル、HP(ヒューレット・パッカード)、フォード、ナイキなどの数多くの企業で、飛躍的な成果を生み出してきました。
下記5つの構成要素は、単独でバラバラに使い、成熟させていてもその効果は限定的となってしまいます。
5つの構成要素を総合して取り入れることが「学習する組織」において、もっとも大事なこととなります。
1.システム思考
センゲの組織研究のアプローチの特徴でもありますが、組織を『独自の行動様式と学習パターンを持つ一個の生きた存在』と捉えるシステムアプローチとなっています。
センゲは、問題を頻発させたり成長を抑制したりする反復性のパターンをマネージャーが見抜くのに役立つ「システムの原型」の考え方を提唱しています。
システム原型や様々なシミュレーションなどといったツールや技法を用いることで、いかにシステムを効果的に変化させていくかが重要となります。
2.自己マスタリー
現代のマネージャーは誰でも個人のスキルや強みを開発することの大切さを認識していますが、センゲはこの考えからさらに一歩踏み込んで、学習する組織における個人の心の成長の重要性を強調しています。
真に心が成長すれば、現実をよりはっきりと認識するようになれ、心の成長が現実をさらにハッキリと見据えることを伝達します。
センゲは、「学習する組織」とは「自分が大切だと思うことを達成できるように自分を変える」ことにより「自分の未来を創造する能力を絶えず充実させている人々の集団」であると言っています。
3.メンタルモデル
システムアプローチの次なる要素としてセンゲが強調しているのは、メンタルモデルとなります。
これは、マネージャーたちに組織の価値観や理念を裏で支えるメンタルモデルを構築することを要求しています。
センゲは、組織レベルで培われてきた既成の思考パターンの影響力の大きさに注意をうながし、これらのパターンの性質を検証するオープンな仕組みづくりが必要だと説いています。
私たちが心の内に抱くイメージについて、継続的に内省し、話し、再考することによって、人々は、行動や意思決定において自ら手綱を握る能力を高めることができるようになります。
4.共有されたビジョン
>真の創造性やイノベーションは集団の創造性に基づくという考えになります。
また、集団で共有するビジョンはメンバー個人のビジョンの上に構築されるものとなります。
メンバーが集団のビジョンを自分と切り離すことなく考え始めたときにビジョンの共有が起こるという考え方です。
人々は、集団や組織としてのコミットメントの感覚を育成することを学びます。
5.チーム学習
効果的なチーム学習のためには、「ダイアローグ」と「ディスカッション」という2つの異なる対話方法をうまく使い分けることが必要となります。
ダイアローグ(意見交換)は問題点をどんどん探し出すことであり、可能性を広げるものと考えられます。
一方、ディスカッションは将来の意思決定のために最善の選択肢を絞り込む作業となります。
これらの2つのプロセスは相互補完的となっていますが、別々のものとして考えなければなりません。
しかし、この2つのプロセスを意識して使い分けられる組織は多くありません。
学習する組織の事例:フォード社
センゲが「学習する組織」を提唱し、その理論を導入したのが自動車業界大手のフォード社です。
フォード社は1990年代以前、リンカーン・コンチネンタルという高級車が米国を代表する人気車種として売れていました。
しかし、トヨタが北米市場にレクサスを投入したことで環境は一変します。1990年代には大きな経営危機に陥ってしまいます。
1990年代までは日本車は小型車、大型車は米国製やドイツ製が市場を席巻していました。しかし、レクサスはデザイン面、コスト面でもこれまでの大型車を凌駕するものとなっていました。
これにより、フォード社は”新しいリンカーン・コンチネンタル車”を開発することが大命題となりました。しかし、当時のフォード社の開発はプロジェクトの遅れが常態化し、開発費の予算オーバーにもつながっていました。
そこで、当時のフォード社の経営層はシステム思考を社内ユニバーシティで学んでいたため、そのユニバーシティで教鞭をとっていたMITと共に「学習する組織」の理論を現場に持ち込むことを考えました。
「学習する組織」の導入は、3日間の集合研修において現時点でシステム思考が欠如していることを知り、「学習する組織」の5つの規律についての講義を受け、知識として必要なことを網羅します。
ここから、知識を日々の業務に実際に活用、実践するための訓練が始まります。
新車種開発プロジェクトのマネジメントチームが実際に「学習する組織」を実践するのを支援するため、MITのファシリテーターが毎月1回行われるマネジメント会議に同席し、その後2時間「振り返り」の時間を設けました。この2時間の振り返りの時間で、研修で学んだ概念やツールを活用して実際に浮上している組織課題についてグループで一緒に考えていきました。
議論の結果、問題事象を構造化し、因果関係を究明すると、結局はエンジニアたちのある思い込みと部下の指導習慣が開発の遅れを悪化させているということに気づくことができました。
問題点がハッキリした後は、マネジメントチーム中心に新しいマネジメント施策や開発プロセスのイノベーションが起こっていきました。マネジメントチームの人たちはさらに学習を重ね、オペレーション上も今までを遙かに凌駕するパフォーマンスを発揮しました。
その結果、開発された新世代のリンカーン・コンチネンタルは、フォード社の優れた開発事例となりました。顧客満足と外部のデザイン評価が飛躍的に高まりました。
その開発はフォードとして初めて、開発目標時期よりも前倒しで完成し、開発経費は予算よりも80億円少なく済みました。
「学習する組織」による開発プログラムは、そのコストを遙かに上回る多くの成果を残した事例と言えます。
本来の戦略とは
本来、戦略とはあらかじめ設定した目標と現状とのギャップをどのように埋めるかを具体的に考えた打ち手のことを指します。
これに時間軸を加えた考えを計画(スケジュール)と言います。
例えば、ある企業X社が5年後になりたい姿をまず描きます。
例として、日本国内のチョコレート市場において現在シェアが18%で2位のところ、25%を達成してシェア1位となると定めたとします。ギャップは7%であり、自社よりも上位に1社存在する形となります。
この場合、X社の経営企画部門の人間はM&Aを行って売上高を増やすのか、若者向け、もしくは高齢者向けに新商品を投入してシェアの獲得を目指すのか、などといった施策を検討します。そして、5年間のマイルストーンを設定して5年後にシェア1位を目指して動きます。
仮に、5年後にX社がチョコレート市場で1位になったとします。しかし、5年後に経営企画部門の方に実行してきた戦略を聞いたとしても、当時立案した戦略(施策)とは多くの場合で異なった施策を打っていると思われます。
当初十分に検討された戦略も時間と情勢(他社、市場環境、顧客ニーズの変化など)によって柔軟に変化させていくことが重要となります。
現実的には、当初立案した戦略がすべてうまくいくとは限りません。企業や事業を取り巻く環境は刻々と変化しているためです。
競合他社の動きは正確にとらえることはできませんし、新規参入企業がいつ登場するかは予想することが困難なのです。
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