ランチェスター戦略の概要
今回はランチェスター戦略について説明していきます。
この文章を読むことで、特定領域のトップを目指すにはどのような戦略が効果的か学ぶことができます。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略とは、フレデリック・ランチェスター氏が見つけ出した法則をビジネスに応用した戦略で日本においてもよく知られているものです。
元々は軍事理論として用いられており、戦闘時における力関係を示す2つの法則を見つけていました。
第一の法則:一騎打ちの法則
「攻撃力=兵力数×武器の性能」として考えられています。
これは狭い場所で刀や槍などで1対1で戦ったの時の法則になります。
武器の性能が同じ場合は兵力の多い方が勝つという理論です。
兵力が少なくても、局地的に兵力の多い状態を作り出して一騎打ちに持ち込めば勝利することもできるという考え方になります。
第二の法則:集中効果の法則
「攻撃力=兵力数の2乗×武器の性能」になります。
こちらは戦闘機や戦車など近代兵器を使って戦った時の法則になります。
こうした状況では兵力数が多いと圧倒的な差がつくことを意味しています。武器の性能が少し高いぐらいでは追いつけません。
これらの法則は第二次世界大戦でアメリカ軍が軍事作戦に応用し、大きな戦火を挙げます。
さらに戦後は産業界にも広がっていきました。
弱者の戦略
そして「ランチェスター戦略」として、1979年代に体系化したのは、経営コンサルタントの田岡氏になります。
田岡氏は「強者の戦略」と「弱者の戦略」について言及していますが、有名なのは「弱者の戦略」になります。
弱者は自社にとって勝ち目のある状況をつくり出すことが必要となります。そのための考え方は5つです。
(1)一点集中:攻撃目標をひとつに絞って、強者の弱点を重点的に攻める
(2)局地戦:ニッチ市場や隙間市場に特化して、トップ企業と戦う
(3)一騎打ち:特定の場所(市場や地域)に資源を集中し、トップ企業と戦う
(4)接近戦:強者より先に顧客ニーズの把握や顧客へのコミュニケーション強化を図って、商品のヒット率を上げる
(5)陽動作戦:従来のパターン以外の展開をはかり、強者を出し抜く
つまり、「弱者」は、事業領域を細分化することにより、シェアが1位になりやすい「地域・流通・ターゲット顧客・商品」を設定し、そこに経営資源を重点的に投入する戦略を立てることになります。
強者の戦略
一方で強者は弱者の戦略を防ごうとします。
主な考え方は3つです。
基本的に強者は、弱者とは逆に「質より量」で攻め、弱者がとる差別化要素をなくすことに重点を置きます。
(1)広域戦:弱者の局地戦に対応
(2)確率戦:弱者の一騎打ちに対応
(3)遠隔戦:弱者の接近戦に対応
ランチェスター戦略事例:セブンイレブンの一点集中
セブンイレブンも過去にはランチェスター戦略を採用してきました。
現在、コンビニエンスストア業界で圧倒的なシェアを誇るナンバー1企業であり、”弱者”ではありませんが、過去には出店していないエリアもありました。
当時のセブンイレブンが1996年、大阪に初進出するにあたって実践したのが「ドミナント戦略」と言われるものです。
これは特定地域内に高密度集中で出店を続ける方法になります。
当時の大阪は、ローソンの出店数が多い状況でした。
地域内のシェアを逆転することは非常に困難なことと思われていましたが、セブンイレブン出店数が300店舗を超えたあたりから集客力が急激に伸び始めたのです。
おそらく、短期集中型の出店攻勢に、大阪の住民の間で「ここにもセブンイレブン、あそこにもセブンイレブン」といった具合でセブンイレブンに対する認知度が高まったことと、「セブンイレブン=馴染みがない」といった心理的距離がなくなったことが集客力アップにつながったのだと考えられています。
その後、セブンイレブンは関西地域でも1店舗あたり平均日販でトップに立つに至ります。
まさにこの時の「ドミナント戦略」は、セブンイレブンにとって大阪という地域に絞り込んで経営資源の投下を集中的に行い、出店攻勢を掛けることでローソンをはじめとする他のコンビニエンスストアを凌駕したと言えます。
まとめ
ランチェスター戦略の原理原則は、「集中化×差別化」で特定領域のトップ、ナンバー1を目指す戦略でありシンプルなものです。
自社が勝てる一点を見つけ出し、そこに経営資源を集中させ、差別化を図る。
その結果として、ダントツのナンバー1になっていくストーリーです。
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