コトラーの競争地位別の戦略類型
今回はコトラーの競争地位別の戦略類型について説明していきます。
この文章を読むことで、業界内の位置による経営戦略の違いについて学ぶことができます。
コトラーの競争地位戦略
フィリップ・コトラーは、「同業界内における競争上の地位によって、とるべき戦略の定石が異なる」という考え方を提唱しています。
コトラーは業界内の地位を4つに分類しました。
(1)リーダー
業界の市場シェアがトップの企業であり、経営資源が豊富にあり、その質も良質な企業を指します。
競合企業が新たに市場に参入してこないように参入障壁を作る戦略をとります。
代表的な企業として挙げられるのは、自動車業界におけるトヨタとなります。
(2)チャレンジャー
市場で2番手のシェアを持つ企業群に位置づけられ、リーダー企業を追い抜こうとシェアの拡大を目標にしている企業です。
リーダーが強化することが難しい分野(新規分野など)で競争力を高めてリーダーの座を狙うことを目標にしています。
同様に自動車業界で考えると、日産やホンダがチャレンジャーの位置づけだと言えます。
(3)ニッチャー
同業界内の市場シェアが上位の企業群(リーダー企業やチャレンジャー企業群)とは一線を画しており、特定領域に絞り込んで事業を推進している企業となります。
リーダーやチャレンジャー企業群が参入してこない(参入できない)規模の市場で独自の立ち位置を構築し、競合の参入障壁を築きます。
同様に自動車業界で考えると、軽自動車で国内トップシェアを誇るスズキが該当します。
(4)フォロワー
リーダーの動向に追随する市場シェア下位の企業となります。
チャレンジャーのような動きもできず、ニッチャーのように特定市場での立ち位置を確保できていない企業群がフォロワーとなります。
リーダーの戦略
リーダー企業の戦略方針は、全方位的に事業を推進することです。
市場の発展にも寄与します。理由は同市場が拡大すれば、シェアトップであるリーダー企業が最も恩恵を受けるためです。
また、競合他社から優れた技術や製品が出てきた場合は、迅速に同様の技術や製品を展開するようにします。
既に市場で獲得しているブランド力や生産力が優位に働くため、後追いでも利益を確保することが可能となります。
一方、価格競争に陥ってしまうと、業界全体が縮小してしまいます。
そうなると、最もシェアの高いリーダー企業は、最も損失が大きくなる可能性があります。
リーダー企業がとる戦略は「需要の拡大」、「同質化」、「非価格競争」が挙げられます。
需要拡大
リーダー企業は市場全体の規模が拡大することで自社が得る利益も増えることになります。
市場全体を成長させていくために新規ユーザーの探索と新用途の開発や使用量(消化)の増加が考えられます。
同質化
同質化競争は経営資源の質・量ともに豊富な方が有利に働くため、リーダー企業は同質化対応することも考えます。
シェア下位の企業が有益な商品を開発した場合、リーダー企業は迅速に模倣して商品を導入することで利益を確保することができます。
非価格対応
リーダー企業が値引きすることで競合他社も追随する可能性があり、結果的に業界全体として低価格かとなって自社が獲得できる利益は減少します。
チャレンジャーの戦略
チャレンジャーはリーダー企業と同じ戦略をとると、経営資源の量・質の差で競争で劣ってしまいます。
チャレンジャーがとる戦略は大きく2つあります。
1つはリーダー企業が未着手な領域で新技術や製品を市場にだしていくことです。
2つ目は自社よりもシェアの小さい企業のシェアを奪うことです。
例えばM&Aによって他社のシェアを自社に取り込むことなどが考えられます。
つまり、チャレンジャー企業の戦略立案のポイントは、差別化戦略をとることになります。
差別化を図る内容は、製品内容や価格面、輸送面など様々あります。
ニッチャーの戦略
ニッチャーは同業界内でリーダーやチャレンジャーを脅かすようなシェアを確保することは、経営資源の量の側面から難しいが、特定領域に経営資源を集中させます。
つまり、集中戦略を取ることになります。
経営資源を特定領域に集中投下することで独自の立ち位置を確保することになります。
フォロワーの戦略
フォロワー企業は量、質ともに経営資源が乏しいため、基本的な戦略として既に成功している上位企業の模倣化が挙げられます。
リーダー企業やチャレンジャー企業と競争するのではなく、模倣しながら効率的に事業を推進します。
よく挙げられる事例として、製薬業界のジェネリック医薬品に特化した企業があります。
新薬開発には莫大な研究費用が掛かる為、そこはリーダー企業に負担させておいてフォロワーは模倣して低価格で同じ成分の薬を提供していくことになります。
【例題】
現在(2014年度のシェア)、PC業界においてシェアNo.1企業は中国Lenovo社となっています。
2位は米国HP社(ヒューレッド・パッカード社)、3位が米DELL社となっています。
現在、3位のDELL社は1984年創業と同業界内では比較的若い企業となります。このDELL社は創業から現在まで、どのようなポジショニングと戦略を採用して現在のシェアを確保するに至ったのでしょうか。
【解説】
DELL社が創業された1980年代は、IBM社(現、Lenovo社)が世界シェアNo.1のリーダー企業でした。
当時のIBM社は過剰な設備、過剰な人員など、オーバースペックとなってしまっており、PCの生産・販売体制で高コスト体質となっていました。
そのIBM社に対してDELL社は、ニッチャーでもフォロワーでもなくチャレンジャーのポジショニングをとります。
DELL社がチャレンジャーとして打った施策は、受注生産・直販型を採用するということです。
それによって、PC生産で従来行われてきた見込み生産による過剰生産、過剰在庫、陳腐化した在庫の廃棄といったことを回避できるようにしました。
直販型についても、従来のPCメーカーは卸業者、小売業者が仲介となるためその分、コストが掛かる仕組みとなっていました。
DELL社はその仲介企業を排除して、自社で生産したPCを直接購入者へ届けられるようにしました。
つまり、生産方式や輸送方式でIBM社との差別化を図ったことになり、それが業務の効率化に大きく貢献しているためにIBM社に比べて安価にPCを販売することができていました。
これによって、DELL社はIBM社やHP社を抜いてPCシェア1位の座を奪取することに成功しました。
しかし、立場がリーダー企業となったDELL社に対して、IBM社やHP社かチャレンジャーのポジショニングをとりました。
チャレンジャー戦略を採用できなかったDELL社は2006年にシェア首位の座をHPに明け渡すことになります。
また、サーバー市場においてシェアが首位ではないDELL社はチャレンジャー戦略を仕掛けることになります。
このように、チャレンジャー戦略は、業界内の2番手以降からリーダーに昇る過程において、非常に効果を発揮する戦略であると言えます。
まとめ
自社が業界内でどの位置にいるのかを把握することで、経営戦略を立てなければなりません。
この位置づけの把握とそれに基づく戦略立案がなければ、闇雲に価格競争に巻き込まれてしまい、企業としての体力を消耗してしまう可能性もあります。
注意すべき点は、中小企業や地場の零細企業においては市場内のシェアを明確に把握することが難しく、自社のポジショニングを定義できない場合があります。
そのような場合はこのコトラーの戦略を採用することが難しい点も考慮しておきたいです。
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