内部環境分析(バリューチェーン分析とVRIO分析)
今回は、内部環境分析について説明していきます。
この文章を読むことで、リソース・ベースド・ビューに基づく内部環境と、主要な分析方法である「VRIO分析」「バリューチェーン分析」について理解することができます。
Resource-based viewの考え方
企業の強み・弱みを分析するモデルを構築するにあたって、リーダーのスキル、経済性、企業の成長などの要素を含めた考え方が”リソース・ベースド・ビュー”(Resource-based view)と呼ばれ、一般的に使われています。
この考え方は、企業毎にリソース(経営資源)に着目し、資源の獲得が競合企業との競争で優位に立てるという考えとなっています。
”Resource-based view”の考えによる経営資源とは、企業がコントロール可能なものであり、企業が立案した戦略を実行することを可能とするものとされています。
例えば、組織内のプロセスや保有しているナレッジなどが該当します。
企業内で保有している経営資源の特定や、それらが競争優位性を保っているのかを分析するための内部環境分析のフレームワークとして、”VRIO分析”や”バリューチェーン分析”が挙げられます。
VRIO分析
VRIO分析とは、企業の経営資源を分析するために使われるフレームワークです。
VRIO分析は4つの区分があり、この区分毎に分析することで自社の経営資源の競争優位性を把握すると共に不足している資源を把握し改善を図ります。
?Value(経済価値)
市場において企業の経営資源が充分に経済的な価値があると顧客に認識されているかどうかを分析します。
誰も欲しがらないようなものには価値はありません。
?Rareness(希少性)
企業の経営資源が市場において希少性を発揮しているかどうかを分析します。
希少性が高ければ当該市場において競争優位性が高いと言えます。
?Imitability(模倣可能性)
企業の経営資源の模倣困難性を分析します。
模倣が安易な場合は、現時点で競争優位を持っていたとしても競合企業に追いつかれることは時間の問題ということになります。
特許を取得している場合は特殊となり、特許取得技術は侵害することなしに模倣することは困難となるが、特許切れとなった途端に模倣が容易となります。
?Organization(組織)
経営資源を有効活用可能な組織体制となっているのか否かを分析します。
<VRIO分析の例:トヨタ自動車のプリウス>
ここでは、トヨタ自動車が生産・販売している「プリウス」を事例にVRIO分析を行います。
前提としてプリウスを簡単に紹介します。プリウスは、ハイブリッド車として生産・販売されており、2009年6月の新車販売台数ランキングで軽自動車を含めた総合ランキングでスズキのワゴンRを上回る22,292台を販売したことで、発売開始以来初めて首位を獲得しています。
その後、2010年12月までの19か月連続で首位を獲得し続け、2010年の年間販売台数が31万5,669台となり、1990年に記録したカローラの30万8台を20年ぶりに更新し、車名別による年間販売台数の歴代首位となっています。
このような大ヒット製品となったプリウスをVRIO分析します。
経済的価値については製品紹介にも記載している通り、トヨタ自動車にとっても社会的・消費者的にも価値のあるものとして認識されています。
それは販売台数が端的に表しているといえるでしょう。
また、プリウスに限らず、トヨタの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を用いた生産方式は経済的価値が非常に高いと世界的に認識されています。
希少性と模倣困難性について、プリウスのハイブリッドシステムは他社の追随を許していない状況と言えます。
さらに、大量生産、大量販売が実現できているため、コスト面においても他社は模倣困難な状況となっています。
組織面についてですが、今後もプリウスの生産で培った技術を他社種に横展開されていくことは容易に想像できますし、ハイブリッド車の販売ノウハウについても他社よりも先行していると言えます。
またトヨタの生産方式は、グローバルで根付いた文化とも言える状態まで定着しており、組織面においても高い完成度と言えます。
バリューチェーン分析
”バリュー・チェーン(価値連鎖)”はマイケル・E・ポーターが提唱した考え方です。
自社や競合企業の分析を行うことで外的要因(市場の変化や消費者ニーズ)から競合他社が次にどのような戦略を打ってくるのかを予測すると共に、自社の強みを整理することが可能な分析フレームワークとなっています。
1つの製品やサービスが顧客のもとに届くまでには、様々な業務活動が行われます。
バリューチェーン分析では、企業の活動を「主活動」と「支援活動」に分けて、それぞれの活動を抽出することから始めます。
同業界内で複数の企業について、バリューチェーン分析を行った場合、同じバリューチェーンになるとは限りません。
書籍販売という事業モデルを考えてみても、大型や小型の書店とAmazonでは構築しているバリューチェーンも、バリューチェーン上のどの機能に強みを持たせるかの考え方も異なっています。
<主活動>
原材料(材料)の調達、製造、出荷・物流、販売・マーケティング、アフターサービスなどの直接的な活動です。
<支援活動>
主活動を支える総務、経理、人事・労務、技術開発などの間接的な活動です。
バリューチェーン分析の次のステップは、各機能の役割、コスト、事業への貢献度を分析し、事業モデルの構築や改善を行うことになります。
例えば、自社にとって他社よりも優れている強み(高付加価値)となっている機能はどこにあるのか、コスト削減が可能となる機能はどこにあるのか、自社の事業にとって付加価値が低くアウトソーシングが可能な機能はどれかということを分析していきます。
ここでは小売業のバリューチェーンを見てみます。
製造業のバリューチェーンに比べて製造の機能がないことや店舗運営が製造業にはなく、小売店側には組み込まれていることが特徴となっています。
<製造・小売業:ファーストリテイリング(ユニクロ)の例>
ユニクロの概要を紹介します。ユニクロは、どんな服とでも組み合わせて着ることができる服を高品質で他社模倣できない低価格で販売するという戦略的ポジショニングを確立しました。
バリューチェーンの特徴は、商品企画、素材の開発、製造、販売・マーケティング、アフターサービスを一貫して自社でコントロールする垂直統合の仕組みを構築したことにあります。
従来の小売業は、既製品の仕入を組み合わせて販売していました。
その中に卸業が介在していたために卸業分の原価が店頭販売価格に上乗せとなるために低価格の実現が困難となっていました。
一方、ユニクロのバリューチェンを見ると、従来の小売業と異なるのは商品を自社開発し、卸業の介在がない点にあります。
製造自体は中国をはじめとする委託先の工場にて行われていますが、QCD(品質、コスト、納期)でユニクロの基準を満たせる工場とのみ契約しており、ユニクロ社員がQCDの観点でモニタリングしており、コントロール下にあると言えます。
ユニクロのバリューチェーン上の強みは、マーケティング機能と販売機能だと言えます。
マーケティング機能を強化することで、商品を売れ筋に絞り込み、それらの商品を大量生産することでコストダウンを進めました。
その結果、低価格で売れる商品を提供することができるようになりました。
これは、商品企画から販売まで全て自社で垂直統合の事業モデルを構築した結果だと言えます。
まとめ
ファーストリテイリング(ユニクロ)の例のように、自社のバリューチェーン上でどこの機能に資源を集中的に配分するのか検討することが戦略策定に繋がります。
VRIO分析、バリューチェーン分析の双方に言えることですが、自社の強みを適切に把握し、それらを最大限活かす戦略立案を最優先で検討します。
また、自社の弱みについても、それらを打ち消す、克服するための戦略を立案することも重要となります。
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