意図的戦略と創発的戦略のバランス
今回は意図的戦略と創発的戦略のバランスについて説明していきます。
今回の文章を読むことで、意図的戦略と創発的戦略をどのように使い分けていけばいいのかについて学ぶことができます。
意図的戦略
意図的戦略とは、十分に社内で検討し、作成されてきた戦略のことを指します。
予め意図された計画としての戦略をそのまま実現していく場合、経営者やコントロールする部門が非常に有能で、将来を見越した戦略策定・実行を行ったということになります。
しかし、現実的には実行された戦略は意図された戦略とは異なっていることが多く発生しています。
創発的戦略
創発的戦略とは、当初想定していなかった環境変化に柔軟に対応することで、計画していた戦略を変化させて環境に適応した戦略に見直されたものです。
これは、環境変化を敏感に捉えて、分析した上で目標達成のための判断を随時補う必要があります。
この、企業の置かれている環境下において、その時点での最適な戦略をつくりだすことが創発的戦略となります。
意図的戦略と創発的戦略のバランス
経営戦略論の学者であるヘンリー・ミンツバーグによると、「戦略とは計画的に策定されると同時に創発的に形成されなければならない」と言っており、意図的戦略と創発的戦略のバランスをとっていくことが重要としています。
また、神戸大学教授である三品和広氏は、「経営の現場は混沌としており、絶えず動いている。だから、戦略は事後的に浮かび上がるものであって、事前に鎮座するものではない」と述べています。
経営の現場では、経営者が戦略をじっくりと考える時間の余裕はありません。経営者は日々の業務の中で即座に判断し、意思決定を行っています。
このような予測もつかないあるゆる事象に対する、長い期間にわたるその時々の判断の積み重ねが、戦略を形成しているとも言えます。
近年のような不確実性の高い経営環境において、特に創発的戦略の重要性は高まりつつあります。
しかし、事業の全てが不確実な環境下にあるとも限らず、一定レベルで安定した事業もあると想定されます。
それらの事業については、意図的戦略で推進することが肝要となります。
創発的戦略をコントロールする組織
創発的戦略は、企業内の組織学習プロセスによって「最適」と考えられる戦略に変更されていき、結果的に実現された戦略が創発的戦略となっています。
このような、「最適」な戦略を実現していくためには組織内にどのようなマネジメント機能が必要となるのかを見ていきます。
創発的戦略は、徐々に変化していくもののため、決まったタスクに邁進するようなトップダウン的な指示系統では機能しません。決まった内容を的確に、効率的に実行するような組織ではなく、柔軟に対応できる組織が求められます。
必要な要素として、「学習」が重要となってきます。
学習する組織では、「今、何をすべきか」を自ら考え、行動できるような「仕組み」とその仕組みを円滑に機能させるための理念やビジョンが重要となります。
仕組みとは、組織構造やコミュニケーション活性化の取り組みに関わることです。トップダウン的な指示系統に適しているピラミッド構造ではない、新たな組織構造が求められています。
一例として、トップと現場の2層構造、場合によってはその間にミドルマネジメント層が入るシンプルな組織構造が有効であると想定されています。
まとめ
企業を取り巻く経営環境は、常に変化が生じており、昨今はその変化が突然襲ってくることもあります。
そのため、創発的戦略が重視される傾向にありますが、従来型の意図的戦略が適切に策定されていてこその創発的戦略ということを念頭に置いておくことが重要になります。
また創発的組織を運営するための組織形態は、従来多く見られていたトップダウン型のピラミッド構造ではなく、トップと現場のみを設けた(ときにはミドルマネジメントも必要)シンプルな構造にすることが求められています。
関連ページ
- M&Aとアライアンス
- 総合環境分析(3C分析とSWOT分析)
- 4世代のイノベーションモデル
- 企業の経営成果を測る5つの財務指標
- アンゾフの成長ベクトル(製品×市場マトリックス)とアーカーのマトリックス
- BCGのアドバンテージ・マトリックス
- ITを活用した経営戦略
- 意図的戦略と創発的戦略のバランス
- 日本企業が目指すべき経営戦略とは
- コトラーの競争地位別の戦略類型
- マッキンゼーの「7つのS」
- OEMとは
- PDCAサイクルを回す
- ポーターvsミンツバーグ
- ポーターの3つの基本戦略
- 業界を俯瞰し、分析の全体像をつかむ
- ブルーオーシャン戦略の概要
- ドメイン(事業領域)の設定
- 事業戦略(基本戦略)と機能別戦略(個別戦略)
- 経営資源配分の優先順位
- 自社分析(競争ベンチマークと定量分析)
- 企業変革の条件
- コアコンピタンスとは
- コーポレート・デベロップメント
- コーポレート・ガバナンス
- 全社戦略策定の基本プロセス
- 戦略策定に必要なクリティカルシンキング
- 顧客分析
- フレームワークのカスタマイズと定量ファクト
- 意思決定の2つの方式(トップダウンとボトムアップ)
- BCGのデコンストラクションの概要
- 事業を定義する(事業スキームとバリューチェーン)
- デザイン思考の概要
- 多角化戦略
- 施策・プロセスへの落とし込みと実行
- 創発的戦略とは
- 市場分析
- 顧客分析
- 外部環境分析(PEST分析と5Forces分析)
- フィジビリティスタディ
- 経営戦略策定の3ポイントと3ステップ
- 戦略方向性の策定(戦略方向性マップ)
- フリー戦略の概要
- ゼネラル・マネージャーの役割
- グローバリゼーションと事業戦略
- 業界分析
- イノベーション戦略
- イノベーター理論とキャズムの概要
- 内部環境分析(バリューチェーン分析とVRIO分析)
- ランチェスター戦略の概要
- 学習する組織とは
- 企業価値のマネジメント
- 経営理念・ビジョンと戦略の関係
- 市場分析
- マーケット・ライフサイクルと規模の効果
- マーケットセグメンテーションとポジショニングの重要性
- 経営戦略を動かす仕組み(6W2Hでゴール設定と細分化)
- ベインのネットプロモーター経営(NPS)の概要
- オムニチャネル戦略の概要
- 経営戦略の全体最適と個別最適(全社戦略と事業戦略)
- 戦略実行のための組織形態を考える
- 意図的に計画された戦略論
- プラットフォーム戦略の概要
- ポートフォリオ改善の仕組みづくりと機能最適化の3つの考え方
- プロダクト・ライフサイクルとBCGダイヤモンド
- BCGのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)とGEのビジネス・スクリーン
- 現状成り行き予測
- 競争力の源泉
- 戦略評価のための指標(KPI)の設定とBSCの活用
- ストラテジック・プランニング
- 戦略策定とフレームワークによる環境分析
- 事業戦略策定の5ステップ
- 事業戦略の目的(ゴール)と定量目標の設定
- ストラテジー(経営戦略)とは
- SWOT分析
- 暗黙知と形式知(SECIモデル)の概要
- 孫子の兵法の概要