多角化戦略
今回は多角化戦略について説明しています。
この文章を読むことで、事業規模の拡大に効果的な多角化戦略とそのメリット・デメリットについて学ぶことが出来ます。
多角化戦略とは
多角化戦略とは、自社の経営資源を「新しい製品・サービス」「新しい市場」の組み合わせによる新しい分野へ投入することで、事業の拡張を目指す戦略の一つです。
既存事業の技術やマーケティングの関係により、詳細には次の4つに分類することができます。
?水平型、?垂直型、?集中型、?集成型の4つになります。
水平型多角化戦略
既存の市場(顧客)と同じタイプの市場を対象として、新しい製品やサービス領域に進出する戦略になります。
既存の生産技術や流通経路を利用していくため、リスクを比較的低く抑えることが可能となっています。
垂直型多角化戦略
現在の製品やサービスのバリューチェーンの川上や川下に向けて事業を展開する多角化戦略となります。
例えば、製造業において、バリューチェーンの川上側へ事業進出して自社で原材料を生産することが可能となれば、原材料を安価かつ安定的に確保することが可能となります。
一方で、原材料生産の段階で問題が発生してしまった場合、生産、流通にも問題が波及してしまうリスクを伴います。
集中型多角化戦略
既存製品(サービス)と新製品(サービス)の間で、技術とマーケティングのどちらかもしくは両方へ関連性を持たせるように行う多角化となります。
集成型多角化戦略
技術面、マーケティング面の両方に関連性のない全く新しい事業に進出する多角化となります。
この多角化は成長力が高いとみなされる分野で収益性を高めることや、本業とは逆の動向となる分野に進出することで安定性を高めることを目的としています。
多角化戦略のメリット・デメリット
多角化戦略を採用するメリットは、コスト面や付加価値面でのシナジー効果が挙げられます。
また、企業としてリスク分散の効果もあります。
一方、多角化戦略のデメリットは、企業が戦略策定で重要となるドメインの設定が曖昧となってしまう点が挙げられます。
自社ビジネスは何をしているのかを表現しにくくなってしまいます。
<例題>
多角化戦略を採用している企業の代表はキヤノンが挙げられます。
キヤノンは1937年に世界一のカメラメーカーを目指して創業しています。
そこで培った「光学技術」と「メカ技術」という独自技術を事業の核として「多角化」を進めてきました。
1960年代後半にカメラ事業と事務機器事業に進出して多角化戦略を打ち出したことで、その後大きく成長することになりました。
キヤノンがグローバル市場で成功している理由を考えてみてください。
<解説>
カメラ事業のみを推進していた時代に保有していた技術は、光学技術とメカ技術でした。両者の組み合わせでカメラ事業が成立していました。
しかし、1960年代後半からエレクトロニクス技術を導入することで、事務機器事業へ参入していきました。
その上、70年代にトナーやインクなどの化学技術を加えて複写機の事業を推進し始めました。
既存市場に新製品を投入したわけでもなく、既存製品を新市場に投入したわけでもありません。
新市場に新製品を投入しています。これが多角化戦略です。キヤノンの多角化戦略もスムーズに成功したわけではありません。
60年代後半に多角化戦略を打ち出した後、10年ぐらいは成功していたとは言えません。
理由は組織が多角化戦略に向いていなかったためです。
カメラ単一事業を進めていた中では、主力であるカメラ事業に経営資源が集中してしまいます。
そのため新事業には人もお金も投資されず、人も育たないという悪循環でした。
大きな転換点は、1977年に導入した事業部制度になります。
各部門に専門の責任者を配置して、責任分担制を敷いたことが多角化戦略をうまく進めることになりました。
その後も事業を拡大させていくことになりますが、狙った市場に対して徹底的に新製品の開発資源を投入し、新製品を特許で守りながら得られた収益を次の開発に回すという手法を使っています。
この考え方はキヤノンのR&D5原則に示されています。
(1)他社が手掛けない市場に対して先手必勝で攻める
(2)特許で守る
(3)市場ニーズに応える
(4)他社に負けない技術水準(高品質)にする
(5)コストパフォーマンスを重視する
組織設計やR&D戦略などがうまく噛み合って、キヤノンはグローバルで個人市場と法人市場で事業を成功させています。
まとめ
多角化戦略は、事業規模の拡大による生産効率の向上や、研究開発・生産技術等を有効に活用することでシナジー効果を発揮し、収益率を高めることを目指します。
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