BCGのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)とGEのビジネス・スクリーン
今回はBCGのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとGEのビジネス・スクリーンについて説明していきます。
今回の文章を読むことで、経営資源配分の方法としてのプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとビジネス・スクリーンについて理解し、それぞれのメリットとデメリットについて学ぶことができます。
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
企業が多角化戦略を採用し、その戦略で成功をおさめた場合に直面する課題の一つとして、複数事業間で経営資源をいかに配分するかが挙げられます。
経営資源の配分を考えることを「事業ポートフォリオの検討」と言います。
事業ポートフォリオを検討するためのフレームワークとして、PPM(Product Portfolio Management:プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)が一般的に使われています。
このフレームワークの考え方は、キャッシュフローの観点で事業を分類し、企業全体として効率の良い資源配分を検討する上で示唆を与えてくれます。
PPMは、縦軸「市場成長率」、横軸「相対的な市場シェア」の2軸で評価します。
各象限を「花形」、「金のなる木」、「問題児」、「負け犬」に分類します。
花形
市場の成長率が高い状況にあるので、設備投資も必要となりますが、市場シェアも大きいため収益性も高いです。
市場が成長期にあるため、競争環境を勝ち抜くためには多額の設備投資が必要となります。
そのため、その時点において多額のキャッシュ創出にはつながりません。
将来的に市場が成熟期に入ると推察されるので、シェアの維持・拡大がこの象限にある事業の方針となります。
製品ライフサイクルで言うと、成長期に当たります。
金のなる木
相対的な市場のシェアが高く、市場成長率が低い状況にある環境下で自社の競争力が高い場合、多額の設備投資の必要がなく、且つ利益が多くなります。
その時点において、多額のキャッシュを得ることができます。
しかし、市場成長率は低いために将来的には事業の成長はなくなることが予想されます。
この象限にある事業でキャッシュを獲得し、問題児に分類されている事業の資源を確保することが金のなる木の役目です。
製品ライフサイクルで言うと、成熟期に当たります。
問題児
市場シェアは低く、市場成長率が高い事業になります。
この象限にある事業は競争力が低く、収益も低くなります。また市場は成長期にある為、設備投資などの投資も必要となります。
この時点ではキャッシュフローがマイナスとなってしまうため、我慢が必要となります。
相対的な市場シェアを拡大させることができれば、花形となっていく可能性があります。
しかし、シェア獲得に失敗するとキャッシュのマイナスが続いてしまい、負け犬となっていってしまうため、慎重な判断が求められます。
製品ライフサイクルで言うと、導入期〜成長期に当たります。
負け犬
市場シェアが低く、市場成長率も低い事業がこの象限にあたります。
自社の競争力も低く、市場成長率も低いために設備投資なども行われません。
負け犬となってしまった事業については、撤退も検討する必要があります。
製品ライフサイクルにおける衰退期にあたります。
負け犬に属する事業は撤退を検討する必要があるものの、各事業は相互に関連しているため、負け犬だからと言って一概に即撤退と判断するのは間違った意思決定となりかねません。
例えば企業のシンボル的な製品が負け犬の分野に属していた場合、今後の成長率が低くとも事業を継続させなければならない場合もあります。
該当する事業を撤退してしまったが故に企業のアイデンティティが失われてしまうこともあります。
PPMの限界
PPMは優れたフレームワークではあるものの、検討する際に限界があると言われています。
PPMでは経営環境や検討している企業(自社)のコアコンピタンスについては触れられていません。
また、事業間のシナジー効果も分析の対象外となっています。
フレームワークでは、3つの指標(市場成長率、シェア、売上高)での分析だけでは限界があります。
負け犬の象限に当てはまる事業なので、事業を即撤退という判断をすべきではありません。
PPMは現状分析の手法としては優れています。定量的な事実情報に基づいた検討を進めることができます。
PPMを用いることで検討できること、また限界があることを把握した上で活用することが肝要です。
GEのビジネススクリーン
PPMの限界を補うために考案されたのがビジネス・スクリーンです。
提唱したのはアメリカのGE社とマッキンゼー社です。
PPMは4領域に分類して分析を行ったことに対し、ビジネス・スクリーンでは縦軸に「事業の魅力度」、横軸に「事業地位」をとり、それぞれを高・中・低の3段階に分け、全部で9領域に分類しています。
PPMが市場成長率と相対的市場シェアだけで分類していることに対し、ビジネス・スクリーンでは軸に選択肢を設けているため、状況に応じた分析が出来ることが特徴となっています。
例えば、縦軸の「事業の魅力度」の具体的な指標は、「市場の成長率」や「市場規模」、「市場の収益性」などが考えられます。
横軸の「事業地位」は、「自社の市場シェア」、「コスト」や「売上高」などが考えられます。
これらの中から自社の状況に応じて指標を選択します。
ビジネス・スクリーンを用いることによって分析をより精密化し、奥行きのある細やかな資産配分の検討ができるようになります。
一方で、分析がPPMに比べて主観的になる傾向があるため、使い方はPPMと比べ難しくなったと言えます。
ビジネス・スクリーンのメリットは、様々な角度から自社に合った指標を選択し、分析を行うことができることです。
そのため、評価の課程で指標を選択するという議論を加えることができ、最終的な意思決定に検討者を巻き込み、参加型で行うことができます。
一方、デメリットは2点あります。
1点目はビジネス・スクリーンでは評価に内部(社内)データを使うことが多く、競合他社との比較を行いにくい側面があります。
競合他社を含めた意思決定を行うのには不向きと言えます。
2点目は様々な指標を自社に合った形で選択できるため、分析が主観的になってしまうことです。
<事例紹介>
多くの事業や製品群を持つ大企業にとって、資金や人などの経営資源をどのように配分するのかということは最も重要な意思決定であり、経営に決定的な影響を及ぼします。
複数事業への経営資源の配分で悩んでいたのが、1960年代のGE(ゼネラル・エレクトリック)でした。
そこで、GEは、戦略コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)とPPMのフレームワークを開発し、その後、マッキンゼー・コンサルティングと共にビジネス・スクリーンのフレームワークを開発しました。
GEはこれらのフレームワークを用いて1970年代には170以上も抱えていた事業を40近くまで整理統合しました。
そして、経営資源の投資順を合理的に意思決定し、大躍進を果たしました。
さらに1980年代にジャック・ウェルチ氏がCEOに就任すると、この40の事業が「世界No.1もしくはNo.2になれる事業か否か」という考えで再精査し、テレビやエアコンなどの家電部門を売却も行いました。
その結果、GEの株式時価総額は50兆円を超えるまでになり、現在も世界有数の企業として君臨しています。
まとめ
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)とは、多種類の製品やサービスを生産・販売しているような、複数事業を遂行している企業において有効活用できます。
それは戦略的な観点から経営資源を配分するのに最も効率的、効果的となる製品・事業相互の組み合わせを決定するための経営分析・管理手法となっています。
市場の成長性と自社の市場シェアの2軸から製品・サービスなどの事業毎に収益性、成長性、キャッシュフローなどを評価し、該当する事業の拡大、維持、縮小、撤退を決定します。
しかし、ビジネス・スクリーンの方が資源配分を最適化するのには有効であると言えます。
ビジネス・スクリーンでは各事業の未来の状況を指標にすることで現在と未来を鑑みた分析を行うことができます。
一方、PPMでは現時点しか考慮できていないために企業の戦略立案を行う上で重要な将来のことを考えることが難しいところが欠点となっています。
資源配分戦略を検討する際は、PPMとビジネス・スクリーンの良い点を使い分けていくことが肝要です。
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