ポートフォリオ改善の仕組みづくりと機能最適化の3つの考え方
今回は、ポートフォリオ改善の仕組みづくりと機能最適化の3つの考え方について説明していきます。
今回の文章を読むことで、資源配分に必要な仕組みと、各事業が保有する機能の最適化の必要性について学ぶことができます。
資源配分に必要な仕組み
企業にとって経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間)は有限であり、限られた中で効率よく資源配分をしていく必要があります。
逆に経営資源が潤沢にある場合は、俯瞰したうえで、どこに経営資源を配分すればよいか、考える必要があります。
経営層の視点で全体最適を狙った「事業ポートフォリオの最適化」が重要となります。
それらを実行する際は、?ポートフォリオマネジメントシステムと?コーポレート組織の2つの仕組みを整備することが肝要です。
ポートフォリオマネジメントシステム
資源配分を行う際には、パフォーマンスやシナジーを考慮します。
このような評価を行うためのツールやルールなどを取り決めた仕組みのことをポートフォリオマネジメントシステムと言います。
各企業において、評価の軸や各領域の位置づけは異なってきますので、自社内で決めておく必要があります。
ここで大切なことは、このシステムを基準として柔軟に対応していくことになります。
実際、追加投資を行うこともあると思われるので、その際は将来性を鑑みた上で必要・不必要を判断することが求められます。
また、撤退を行う際にも”撤退基準”が明確になっていないと、ズルズルと赤字を垂れ流してしまう事態に陥りかねません。
そのためにも、パフォーマンスやシナジーなどの軸から事業撤退を検討するための基準を定義しておくことが肝要です。
コーポレート組織
コーポレート組織は、全社戦略を推進するような経営企画部門が該当します。
複数の事業を展開する企業においては全社最適視点でものごとを考える組織が必要となります。
資源配分はコーポレート部門の立場から、保有する経営資源をどの事業にどの程度配分していくかを考えることになります。
ただし、この経営資源を配分するだけではポートフォリオを改善したことにはなりません。
コーポレート部門がポートフォリオマネジメントシステムに即して、適正に投資したとしても各事業部門が個別にパフォーマンスを上げていかなければポートフォリオの改善は進みません。
事業の推進とは、各事業部が個別に立案した「事業戦略」を実行していくことが重要となり、コーポレート部門は全社横断的な立場から「業績評価制度」を仕組みとして整備しておく必要があります。
ここでの「業績評価制度」は各事業部の業績パフォーマンスを客観的に評価して、業績に応じてインセンティブ(賞与の配分を決定するなど)を与えていく制度となります。
この評価制度を定義しておくことで事業部門の責任者は自部門で目標としている数値の達成に向けて努力を怠ることなく推進することになります。
機能最適化の3つの考え方
事業への資源配分を行い、ポートフォリオの改善を終えた後は、各事業が保有している機能を最適化します。
企業の成長と共に組織形態は柔軟に変化させていく必要がありますが、上手く変化させることができずに重複した機能を保持していたり、組織として必要な機能が不足していたりすることがあります。
実際、多くの企業でそのような機能の重複や欠損状態に陥っていることがあるため、機能の最適化を考える必要があります。
その場合、個別の事業内の視点で機能を捉えると、最適解が見えてきません。
全社視点と個別の事業視点で整合性を取りながら機能の最適化を推進していく必要があります。
機能の最適化を進める場合は一般的に、?重複の排除、?水平統合の視点、?垂直統合の視点の3つで考えることが多いです。
?重複の排除
異なる部署や異なる子会社が同じ機能を保有している場合、一方に機能を集約することで生産性の向上やコストダウンを狙うことができます。
ここでの留意点は、重複していれば必ず集約するということではなく、非効率であり、コスト増が明らかな場合に検討を行います。
?水平統合
事業間で同じ機能を取りまとめて規模の経済を狙うことが「水平統合」の視点での最適化に当たります。
例えば、A事業とB事業において製造した商品をA事業の営業とB事業部の営業が別々に担当して販売していた場合、どちらの事業部でも各製品を取り扱えるようにするというようなものです。
?垂直統合
バリューチェーンの上流・下流に進出して業界に対する影響力を増大させたり、内製・外注を選択してコスト効率を高めることが「垂直統合」の視点での機能最適になります。
これら、3つの視点での機能最適化は必ず行わなければならないことではありません。
機能最適化を行ったつもりが、逆に非効率な組織体制になってしまうこともありますので、実行する場合は入念なシミュレーションが必要となります。
機能最適化の事例
【問題】
下図に示すA〜Dの事業を推進している企業があった場合に、どのような機能の最適化の方法があるかを考えてみてください。
ここでは、絶対的な回答はありませんので、?重複の排除、?水平統合、?垂直統合の視点から検討し、その際のメリットを考えてみてください。
【解説】
ここでは、3つの検討ポイントを例示します。
?重複の排除
重複の排除の視点では、非効率な業務がないかを検討します。
図を見ると2つの領域で重複していることが見て取れます。
(1.製造領域の重複)
製造領域において事業部Cと生産子会社Eの双方が事業Cの製品を製造していることが確認できます。
この場合、非効率な設備投資や生産人員構成となっていないかを確認することになります。
例えば、事業Cは国内向けの製品を生産していたとします。
事業Cの工場が大阪にあり、生産子会社Eの工場が兵庫県にあった場合、同じ関西地域で生産するのであれば生産子会社の工場に集約した方が効率的である可能性が高くなります。
一方、事業Cの工場が大阪、生産子会社の工場が神奈川にあった場合、それぞれが西日本向け、東日本向けに生産していると考えられ、効率的な生産体制になっていると言えます。
このような場合は機能の集約は行わない方が得策であると考えられます。
(2.物流領域の重複)
物流領域において、物流子会社Fと物流子会社Gが事業Bの商品を取り扱っています。
こちらも製造領域と同様、非効率な状況に陥っていないかを確認する必要があります。
事業Bの商品群の中で扱うもので切り分けられていたり、配送先の地域、または顧客別など物流子会社FとGがどのように役割分担しているかが鍵になります。
?水平統合
(1.調達領域)
部材の調達領域において、事業部A〜Dでそれぞれに調達していることが見て取れます。
事業A〜Dで取り扱っている部材が全く異なっているモノであれば効率的な観点でも問題はありません。
しかし、同一企業内で全く異なった部材ばかりを取り扱うという可能性は低くなります。事業A〜Dの中で同一の部材をそれぞれで購入している可能性があります。
そして、多くの場合、例えば事業部Aの調達担当は部材Xを100円/個で購入しているとします。
一方、事業部B〜Dの調達担当者はそれぞれ事業部Bは90円/個、Cは120円/個、Dは150円/個といったように価格がバラバラに購入していることが多く見られます。
このような場合、共通部材については全社横断の調達部門を設置し、その部門で調達するようにします。
このメリットは事業部A〜Dの総量を購入することになりますので、ボリュームディスカウントが効くようになします。
元々、最も安かった価格は90円/個でしたので、総量が増えることによって90円/個未満での交渉を行い、安く購入することも可能となります。
(2.販売領域)
販売領域では、販売子会社Hと事業部Cと外注先の3者で販売を担っています。
検討すべき内容は、大きく2つあります。
1つ目は販売領域を自社リソースのみで行うかアウトソースも活用するかということです。
2つ目は3者で分担している販売を1社に集約するか否かです。
例えば、販売に関しては販売子会社Hや外注先はそれを専門で行っているためにノウハウや知見を保有していると考えられます。
そのため、自社で集約する場合は販売子会社Hに集約することが有効だと考えられ、販売領域をアウトソースするのであれば、外注先に全て委託することも検討の余地があります。
これらは自社の置かれている経営環境に依存します。
?垂直統合
事業部Dでは、物流と販売の領域についてアウトソースしています。
ここでは垂直統合を考えてみます。外注先に委託している領域を自社で巻き取るかどうかになります。
事業部Dが自ら物流を担当することや販売も行うことを検討します。
これを検討する上で重要となるのは、他の機能最適化の影響を考えながら、本当に自社(事業部D)のリソースを活用して行う必要があるか否かということです。
検討する観点は、コストの観点で自社リソースを活用した内部コストと外注先に委託する際の流出コストを比較することや事業部Dに物流や販売のノウハウ・知見があるかどうかという点です。
まとめ
これらの3つの機能の最適化は、安易に最適化(排除や統合)を行えばいいわけではありません。
自社にとって重要な機能(コア機能)か否か、コストメリットはあるのか、業務は効率よくなるのかといった複数の観点を考慮して最適化を検討することが肝要です。
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