経営戦略の全体最適と個別最適(全社戦略と事業戦略)
今回は経営戦略の全体最適と個別最適について説明していきます。
この文章を読むことで、「全社戦略と事業戦略の詳細」と「全社戦略策定の基本プロセス」について学ぶことができます。
全社戦略と事業戦略
企業の戦略には主にその企業が保有する複数事業をまとめた「全社戦略」と事業単体の「事業戦略」があります。
全社戦略はコーポレート部門(経営層や経営企画部門など)が担当し、経営資源をどの事業に配分すべきかということに主眼を置いて策定します。
これに対して事業戦略は各事業部門が担当し、配分された経営資源を基に事業単体における適切な打ち手は何かということに主眼が置かれます。
例えば、1,000万円を投資して100万円の利益(利益率10%)を得られるA事業部と1,000万円を投資して10万円の利益(利益率1%)が得られるB事業部があることを想定して、全社戦略と個別戦略の考え方について説明します。
企業全体で考えた場合は、利益率が10%と有益なA事業を保有している中で、利益率が1%とA事業に比べて魅力の少ないB事業に同等の1,000万円を投資する可能性は低くなります。
むしろ、極端な考えとはなりますが、A事業に2,000万円投資して200万円の利益を狙った方が企業全体としては効果的かもしれません。
これは極端な例であり、実際はB事業に投資しないということはないと思われますが、この場合、限られた投資額2,000万円の中でA事業とB事業への配分を変更する可能性がある考え方が全社戦略となります。
一方、事業戦略の視点は、各事業部について個別で成長・改善させていくことになります。
つまり、全社戦略の視点でどの事業に、どれだけ投資すべきかの配分を考え、その後、投資された各事業においては想定している利益率を目指してどのような戦術で達成するかを考えていきます。
このように全社戦略と事業戦略が連動することで企業活動は回っています。
全社戦略策定の基本プロセス
全社戦略を考える上で前提となってくるのは、企業の「ビジョン」と「ドメイン」になります。
ビジョンでは企業が5年後、10年後の未来にどのような姿になっていたいのかといった将来像を描きます。
ドメインはそのビジョンを達成するために、どのような事業領域を攻めるのかを検討します。
これらを前提にし、全社戦略は4つのステップで検討します。
?ビジョン/ドメインの設定
ビジョンとは自社が将来的にどこに至っていたいのかというゴールの大きな方向性を指し示す羅針盤となります。
戦略はそのゴールに向かってどのように到達するかという具体的な道順となります。
ビジョンは組織内の全員が共有すべき普遍的な到達点なのに対して、戦略とは自社や市場環境などの状況によって変化させるものとなります。
ドメインの設定については、事業領域を決めます。将来の姿を達成するために、どの領域で何をするかを決めることになります。
?資源配分(=事業ポートフォリオ戦略)
この最初のステップは全社戦略を検討する上で最も重要となります。
保有している事業を自社にとって必要か不必要かを判断し、コア事業とノンコア事業に分類します。
基本的には、ノンコア事業からは経営資源を吸い上げ、コア事業に対して重点的に分配していくことになります。
?機能の最適化
必要と判断された事業間において、機能の重複を防ぐなど機能の最適化を行います。
ただし、戦略的に機能重複をあえて認める場合もありますので、必要に応じてステップ?は省略されることもあります。
?実行
ノンコア事業に分類された事業の売却や撤退(精算)、コア事業への投資、事業間の機能最適化を行う場合は機能の集約など、ステップ?、ステップ?で検討してきたことを実行します。
ここで速やかに実行できないと戦略が絵に描いた餅になってしまいます。
実行力のあるリーダーを配備することが肝要となります。
経営資源配分の優先順位
企業はキャッシュや人材、製造業で有れば工場や設備などの経営資源を有しており、それらを用いて事業を推進しています。
しかし、どのような大企業であろうと、経営資源が無限にあるわけではありません。
経営資源は有限であるため、それを大前提として事業の推進、最大効率化を考えなければならないのです。
そのため、資源配分は重要となります。
<事例>
A社は小売事業、物流事業、金融事業、ゲーム事業の4つの事業を推進していると想定します。
この事業ポートフォリオに対して適切に資源を配分します。
優先順位の考え方は、事業のパフォーマンスに従うことが一般的です。
事業パフォーマンスによるポートフォリオ管理では、「市場の魅力度」と「自社の競争力」の2軸で評価します。
(市場の魅力度)
市場規模、市場の成長率、市場の平均収益率などの定量情報と定性情報によって評価していきます。
(自社の競争力)
自社の売上シェア、競合との相対的な収益性などの定量情報とベンチマークした結果の定性情報を組み合わせて評価します。
A社のポートフォリオをこれらの軸で評価すると、A社の小売事業、金融事業は市場規模・成長性共に大きくなっており、他社に比べても優位性があることが見て取れます。
また、小売事業の物流網を活用した物流事業は他社と比較して同等以上の利益率を保有していますが、市場の魅力が高くない結果となっています。
つまり、小売事業や金融事業に比べて投資の優先度は低くなります。
一方、ゲーム事業は市場の魅力度が低いのみならず、自社の業績も赤字、売上成長もマイナスとなっており、これ以上の投資をせずに撤退を含めた戦略を考える必要があります。
このように市場の魅力度と自社の競争力から各事業のポジショニングを把握し、それらに応じて資源配分の優先順位を決めていきます。
資源配分の考慮ポイント
資源配分を考える際に考慮するポイントとして、シナジー効果があります。
各事業間において、経営資源、顧客が重複していることによって、競争力が強化されるもしくはコストダウンが行えるなど事業単体で推進するよりも価値が高まることがあります。
本事例では、小売事業の顧客に対してクレジット機能付きのカードをサービス提供する金融事業はシナジー効果があると言えます。
これに対して、物流事業やゲーム事業は経営資源をうまく活用し切れてはいません。
最終的にはパフォーマンスとシナジーの双方を組み合わせてポートフォリオ管理することが有効だと考えられます。
A社であれば、小売事業と金融事業はパフォーマンスが高く、シナジー効果も大きいために自社のコア事業と位置付けて投資を優先的に行います。
物流事業はパフォーマンスは高いもののシナジー効果が低いために今後、事業を育成していく領域となります。
一方、ゲーム事業はパフォーマンスが低く、シナジー効果も低いために撤退(精算)を検討となります。
このような考え方を行うことで効率的な資源配分を行います。
ここで重要となるのは、中長期的な視点が抜けていることになります。
現時点でパフォーマンス、シナジー効果が高い事業に投資することは適切であるものの、中長期視点に立って次の事業にも先行投資させることを忘れてはいけません。
現在、主力の事業に依存した経営体質はリスクの大きい経営と言えます。
まとめ
全社戦略策定は「資源配分」と「実行」が特に重要となり、実行してはじめて全体最適が達成されることになります。
その後、資源配分の重要性について事例を通して説明を行いました。
この資源配分を行っていく際には、ビジョンやドメインとの整合性が重要となるのは言うまでもありません。
ビジョンやドメインで設定した売上や利益の目標数字を達成するためのポートフォリオ設計を行う必要があります。
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