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外部性とは(厚生経済学)

今回は外部性について説明していきます。

 

この文章を読むことで、市場の機能不全による外部性について学ぶことができます。

 

市場は失敗する

 

経済学の十大原理は「通常、市場は経済活動を組織する良策である」と言っています。

 

つまり、市場の参加者が自分の欲望に従って合理的に行動しさえすれば、「見えざる手」は市場を良い方向へと導いてくれる、というわけです。

 

しかし、世界各国では市場参加者がそのように行動した結果、数多くの公害が発生しています。

 

中国ではあまりにも大気汚染が進みすぎたので、ロケットや小型飛行機を使って人工的に雨を降らし、「空気を洗っている」そうです。

 

また、フィリピンのブラックタイガーを日本が輸入しすぎたために、現地の養殖地を確保するために天然のマングローブ林がどんどん減少しているという話も有名です。

 

このような市場がその原理を追求した結果起きるアクシデントを「市場の失敗」「外部性」と言います。

 

しかし、これはあくまで「市場が機能不全を起こしている」という意味での「失敗」なのであって、何も全てが全て悪いというわけではありません。

 

実例を見ておきましょう。

 

【ケーススタディ】

 

<ケース1>
水俣病のような公害は「負の外部性」と言われます。

 

この公害は、シンナーやラッカーなどの原料となる醋酸エチルの生成に重要なアセトアルデヒドを製造していたチッソ水俣工場から流れ出した有機水銀が原因で発症し、高度経済成長期真っ只中の日本を揺るがした大きな事件です。

 

これは、ものづくり大国として急成長を遂げつつあった日本にとっては、市場の求めるものを作り続けた結果であり、市場の失敗=負の外部性でした。

 

<ケース2>
京都の景観法は「正の外部性」を確保するための施策の一つです。これは、歴史的建造物の多い京都の町並みを保護・推進するための法律です。

 

こういった景観は他の建造物に比べて観光客などを呼びやすく、大きな経済効果が見込めます。

 

しかし、旧式の建物は維持にも費用がかかり、所有者は処分を検討しがちです。

 

所有者からすれば、その建物を保全することで得られる利益はそれを取り壊して得られる利益よりも小さい場合も十分あります。

 

「所有者が市場原理に基づいて行動しないことが、逆に社会全体の便益となっている。」これが「正の外部性」です。

 

この時、市場は原則を逸脱し、ある意味機能不全に陥っているわけです。

 

外部性とは(厚生経済学)1

 

厚生経済学は何をするか

 

厚生経済学は、市場の総余剰を最大化するための学問です。

 

総余剰とは総消費者余剰と総生産者余剰の総和です。

 

前者が大きくなるほど消費者の利益となり、後者が大きくなるほど生産者の利益となります。

 

この総余剰を求めるのは、次の計算式によります。

 

総余剰=買い手にとっての価値−売り手の費用

 

これを踏まえて、先に見た「負の外部性」と「正の外部性」について考えていきましょう。

 

負の外部性を考える

 

負の外部性を考慮する場合、通常の需要曲線と供給曲線の座標平面上に、もうひとつ「社会費用曲線」を想定する必要があります。

 

これは字義通り社会の費用(機会費用)を示します。

 

対して、供給曲線とは特定の財の生産者についてのみ発生する費用(機会費用)を示しています。

 

この場合、これを「私的費用」と言います。

 

また、需要曲線についても「私的価値」と言い換えることができます。

 

これを考慮した上で、市場を最適化することを「外部性の内部化」と呼び、政策はこの外部性の内部化を目的に立案されます。

 

【例題1】
化学薬品Xを生産することによって発生する物質が、近隣の住民の健康被害を起こす危険性があることがわかりました。

 

政府はその生産を抑制するために、化学薬品Xの1単位の生産ごとに課税をします。

 

この時、政府はどれだけ課税をすればいいでしょうか?

 

「負の外部性」「社会費用」「外部性の内部化」という観点から考えてみましょう。

 

<解説>
答えは「外部性の費用」分だけです。下図を見てください。

 

元来の市場機能が正常に働いている場合の均衡点がQ1です。

 

これは外部性が考慮されておらず、「私的費用」と「私的価値」に基づいた取引量・価格です。

 

しかし、外部性を考慮し「社会費用」曲線=「私的費用+外部性の費用」曲線を引くと、外部性の費用分だけ供給曲線が上方にシフトします。

 

こうして生まれた新均衡点Q2が、化学薬品Xにおける社会全体の最適な点です。

 

外部性とは(厚生経済学)2

 

この時「総余剰=買い手にとっての価値?売り手の費用」という式を思い出してください。

 

Q2の時、Q1よりも売り手の費用が大きくかかっているにもかかわらず、買い手が化学薬品Xに認めている価値が費用に対して低くなっています。

 

つまり、総余剰の値はマイナスになってしまうのです。

 

これを均等にするために買い手の需要を減らし、価値を上げる必要があります。

 

これが政府による課税です。

 

Q1とQ2の差は「外部性の費用」分だけです。

 

よって、課税は「外部性の費用」分だけなされるべきなのです(外部性の内部化)。これにより総余剰が最大化されます。

 

正の外部性を考える

 

正の外部性を考える場合、社会における価値が買い手単体の価値(私的価値)を上回るので、新たに「社会的価値」を考える必要があります。

 

これを政策によって市場の総余剰最適化を行う場合も「外部性の内部化」と言います。

 

【例題2】
隣同士で経営している養蜂家Xとりんご農家Yがいます。

 

Xの飼育しているミツバチは、よくYのりんご園に飛んで行って樹の受粉を促進しています。

 

両者の土地のある村の村長は、Xがはちみつの生産を増やすとYのりんごの生産も伸びていくことに気づき、この仕組みをうまく利用できないか考えました。

 

<解説>
村長はXに対して補助金を出すことにしました。以下でこの村長のアイディアについて見ていきましょう。

 

養蜂家Xはただはちみつを作って売っているだけなので、いくらりんごの生産の増加につながっていると言っても自分の利益にならないため、今以上の生産をしようとは思いません。

 

しかし、「社会的価値」という視点から見ると、Xの生産量増加は社会的価値の増大につながるのです。それが下図のQ2です。

 

「社会的価値=私的価値+外部性の便益」を考慮することで、Xが社会全体に及ぼす価値も加味できます。

 

外部性とは(厚生経済学)3

 

村長はこの「外部性の便益」分の補助金を出すことで、村の総余剰を増加させられます。

 

旧均衡点であるQ1では社会が認める価値よりも低いので、その分補助金によって価値を上げるのです。

 

すると、Xの生産量も増加し、新均衡点Q2へと移動します。

 

こうして「総余剰=買い手の価値−売り手の費用」が最大化され、外部性の内部化が成功します。

 

外部性とは(厚生経済学)

 

外部性とは、市場の参加者が各々の欲求に従って合理的に行動した結果、本来市場の機能が成し得るはずの経済の最適化が行われない状況を指します(市場の失敗)。

 

この外部性には「負の外部性」と「正の外部性」があります。

 

負の外部性は社会的に最適な生産量よりも実際の生産量を多くし、正の外部性は社会的に最適な生産量よりも実際の生産量を少なくします。

 

このような外部性を持つ財の市場に対し、課税や補助金などの政策を講じることで外部性を内部化できます。

 

まとめ

 

外部性=市場の失敗(市場の機能不全)

 

負の外部性→社会的適正生産量<私的生産量

 

正の外部性→社会的適正生産量>私的生産量

 

社会的費用=私的費用+外部性の費用

 

社会的価値=私的価値+外部性の便益

 

外部性の内部化=生産量・価格の最適化による総余剰の最大化

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