財の国際的フロー
今回は、財の国際フローについて説明していきます。
この文章を読むことで、「貿易収支の考え方」や「貿易収支の変動要因」について学ぶことができます。
言葉の定義
開放経済を理解する上で重要な要素の一つに、「輸出・輸入・純輸出」の一連の変数があります。
これらについて議論する前に、まずはそれぞれの言葉の定義について見ておきましょう。
「輸出」は、国内で生産され海外で販売される財・サービスを指します。
対して「輸入」は、海外で生産され、国内で販売される財・サービスです。
そして「純輸出」は、この輸出の価値から輸入の価値を差し引いたもので、貿易収支と同義です。
何をそんな当たり前のことを言っているんだと思うかもしれませんが、この三つの言葉は以外と混乱することが多いのです。
例えば、日本のトヨタがアメリカに対して自動車を販売すれば、日本にとっては輸出になりますがアメリカにとっては輸入です。
中国が日本に衣料品を販売すれば、それは日本にとっては輸入ですが中国にとっては輸出です。
ポイントは「主語」。誰が購入しているのか、誰が販売しているのかによって輸出と輸入は入れ替わります。
貿易収支の考え方
さて次は、純輸出、貿易収支について見ておきましょう。
純輸出(貿易収支)=輸出−輸入
どうして輸出から輸入を差し引くのかというと、店舗に例えた場合、輸出は売り上げで輸入は仕入れです。
そのため、店舗の利益を計算しようとするときと同じように、国の貿易での利益を計算するには輸出から輸入を差し引く必要があるのです。
例えば、日本がアメリカに自動車を1000億円分販売していて、アメリカからはトウモロコシを500億円分購入していれば、日本の貿易収支は500億円です。
対してアメリカからしてみれば、1000億円分の自動車を購入し、トウモロコシを500億円分販売しているので、マイナス500億円です。
前者の日本のような状態を「貿易黒字」、後者のアメリカのような状態を「貿易赤字」と言います。
かつて日本とアメリカは貿易収支のバランスが崩れ、「貿易摩擦」を抱えたことがありました。
アメリカは自国があまりにも対日本貿易赤字がかさむので、「日本の経済のあり方にアメリカが口出しをする」という状況にもなっています。
それほど貿易収支は世界のパワーバランスにとっても重要なのです。
また、貿易収支がゼロ、つまり輸出と輸入がまったく同じ場合は「貿易収支均衡」であると言います。
貿易収支の変動要因
この貿易収支の変動は、だいたい次の6つのものが要因となっています。
それぞれの項目に付記しているのは、どのように貿易収支に関係するかのヒントです。
●国内財と外国財に対する消費者の嗜好
→アメリカ国内でアメリカ車よりも日本車の方が人気がある、など
●国内財と外国財の価格
→アメリカ産肉の方が日本産肉よりも圧倒的に安い、など
●国内通貨と交換に外国通貨を買う際の為替相場
→1ドル360円だった1949年に対する2015年の1ドル120円、など
●自国と外国の消費者の所得
→大金持ちの国と最貧国の貿易、など
●国境を越えた財の輸送費
→使う輸送手段や石油価格、など
●国際貿易に対する政府の政策
→輸入関税撤廃、など
日本の経済の国際化
最後に、日本の経済の国際化について議論しておきましょう。
日本の輸出依存度、すなわち対GDPの輸出の比率は、1955年頃の8%程度から上下を繰り返した結果、2013年には14.5%にまで上昇しています。
(より正確に日本経済の国際化を論じる場合は輸入依存度や貿易依存度についても言及する必要がありますが、これらは輸出依存度と似通った数値を示すため、ここでは言及しません。)
さて、この14.5%は高いのか低いのかという点ですが、はっきりと「低い」と言わざるを得ません。
経済学の十大原理「交易はすべての人々をより豊かにする」や「比較優位説」などが正しいとすれば、日本の輸出依存度は不十分なのです。
ヨーロッパの主要国や中国などと比べると、明らかに見劣りのする数字です。(ドイツ40.02%、イギリス21.38%、中国23.7%)
しかし、これは日本の国内消費が極めて高いということでもあるので、一概に悪いとは言えませんが、少子高齢化により人口減が叫ばれる日本にあって、輸出依存度の問題はこれから重要になっていくでしょう。
まとめ
輸出→国内で生産され、海外で販売される財・サービス
輸入→海外で生産され、国内で販売される財・サービス
純輸出→輸出の価値から輸入の価値を差し引いたもの。貿易収支と同義
貿易赤字→輸出より輸入の方が多い
貿易黒字→輸入より輸出の方が多い
貿易収支均衡→輸出と輸入が同額
輸出入、貿易収支を考える際は主語に注意。
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