貨幣数量説と調整過程の概略
今回は貨幣数量説と調整過程の概略について説明していきます。
この文章を読むことで、「貨幣注入が何を引き起こすか」について学ぶことができます。
貨幣数量説の最も簡単な説明
18世紀前半のヨーロッパに端を発し、現在の経済学にまで大きな影響を及ぼしている貨幣数量説。
これを定義すると「利用可能な貨幣量が物価水準を決定し、利用可能な貨幣量の成長率がインフレ率を決定する」という理論です。
これを簡単に説明するために、次のような例を見ておきましょう。
【例題】
ある国の王様は非常に経済に疎く、一向に自国の経済状況を改善できないでいました。しかし父親の遺産のおかげで、自分の手元には大量のお金があります。
あまりに暇な王様はある日こんなことを言いました。
「なんだか毎日つまらないので今から町に出かけて、民にお金をばら撒きたいと思う」
あまりの暴挙に臣下たちは止めようとします。しかし、「邪魔立てする奴は打ち首だ」という王様の脅しに誰も逆らうことができませんでした。
<解説>
王様が民にお金を与え終わった時、この国の貨幣供給量は短時間のうちに大幅に増加したことになります。
この状況を図で示したものが、次のグラフです。
点Xが毎日の退屈に王様が耐えていた時の均衡点で、点Yがそれに耐えかねてお金をばらまいた後の均衡点です。
貨幣供給が増加し、供給曲線は右側にシフトしています。すると次のような状況が発生します。
・貨幣価値が下がる。
・物価水準が上昇する。
つまり、「貨幣供給量の増加」は貨幣価値の低下と物価水準の上昇を招くのです。
すなわち「利用可能な貨幣量が物価水準を決定し、利用可能な貨幣量の成長率がインフレ率を決定する」というわけです。
貨幣注入は何を引き起こすか
前掲例の王様が行ったような政策を「貨幣注入」と呼びます。
これは、中央銀行が行う買いオペとやっていることだけなら同じです。
では、この貨幣注入が引き起こす経済事象の変化(調整過程 点X→Yへの移動)をもう少し細かく見ていきましょう。
<第1段階>
はじめに貨幣注入が行われると、貨幣市場における超過(貨幣)供給が起きます。
すると、それまでの均衡点(例で言えばX)の状態よりも、人々は余計に貨幣を保有することになります。
余分なお金を持つと人は何かに使います。財・サービスを購入するかもしれないし、投資をするかもしれません。
すると、財・サービスへの需要が増加します。
ここまで見ると、貨幣注入は財・サービスの需要増を引き起こすと言えます。
<第2段階>
しかしよく考えてみれば、貨幣注入だけしてみてもその経済の生産性は向上していません。
ただ受動的にお金を受け取っただけでは、人々はなんら成長していないからです。
つまり財・サービスの生産側のコストは低減できていないことになります。
貨幣注入は物的資本も人的資本も、天然資源や技術・知識も、なんら増加させません。ただただ貨幣量を増加させるだけです。
財・サービス市場の需要量が増加すれば、必然的に供給量も増加します。供給量が増加すると価格は上昇します。
<第3段階>
貨幣注入によって価格が上昇する=物価水準の上昇です。
物価水準が上昇すると、人々が同じものを購入する際に必要な貨幣量が増加します(貨幣需要の増加)。
最初に起きた超過(貨幣)供給にたいして、貨幣需要の増加が起きているため、結果的に需要と供給は均衡するというわけです。
まとめ
貨幣数量説:「利用可能な貨幣量が物価水準を決定し、利用可能な貨幣量の成長率がインフレ率を決定する」
<貨幣注入と調整過程>
貨幣注入→超過供給(貨幣市場)→需要増(財・サービス市場)
→[生産性は向上せず]→価格の上昇(財・サービス市場)
→物価水準の上昇(貨幣市場)→需要の増加(貨幣市場)
→均衡点の移動(貨幣市場)
関連ページ
- 経済学の十大原理
- 経済変動の重要な3事実
- 金融資源の国際的フロー
- 財の国際的フロー
- 国際的フローの貯蓄と投資の関係
- 日本は貿易すべきか
- 均衡変化の分析
- 財政赤字と財政黒字
- 中央銀行とは
- 古典派の二分法と貨幣の中立性
- 閉鎖経済と開放経済
- 会社の形態
- GDPの構成要素
- 消費者物価指数とは
- 消費者余剰
- 総需要曲線と総供給曲線のシフトの影響
- 需要とは
- 経済モデル
- インフレ影響に対する経済変数補正
- 経済成長と公共政策
- 経済の所得と支出(マクロ経済学)
- 経済学の重要な恒等式
- 経済学とは
- 経済学者の意見が一致しない理由
- 効率と公平のトレードオフ
- 弾力性と税の帰着
- 弾力性とは
- 実証的分析と規範的分析
- ITを活用した経営戦略(コピー)
- 失業の測定方法
- 株式市場と債券市場
- 経済学の重要な恒等式
- 総需要曲線
- 短期の総供給曲線が右上がりの理由
- 均衡とは
- 市場均衡の評価
- 外部性に対する公共政策
- 外部性とは(厚生経済学)
- 金融仲介機関とは
- 金融システムとは
- 摩擦的失業と構造的失業
- GDPデフレーターとは
- GDPは経済厚生の尺度として妥当か
- GDP(国内総生産)とは
- GDPデフレーターと消費者物価指数
- 総需要曲線
- 投資インセンティブ
- 職探しと失業保険
- 貸付資金市場
- 市場と競争(ミクロ経済学)
- 市場の効率性
- 生計費測定の3つの問題
- 失業の測定方法
- ミクロ経済とマクロ経済
- 総需要と総供給のモデル
- 貨幣価値と物価水準
- 貨幣の流通速度と数量方程式
- 貨幣とは
- 貨幣市場の均衡
- 貨幣数量説と調整過程の概略
- 純輸出と純資本流出の均等
- 戦後の日本経済の歩み
- 価格規制(政府の政策)
- 価格と資源配分
- 生産者余剰
- 生産可能性と比較優位、および特化・交易
- 生産性とは
- 購買力平価(PPP)とは
- 実質為替相場と名目為替相場(円高と円安)
- 実質GDPと名目GDP
- 実質利子率と名目利子率
- 景気後退と不況
- 貯蓄インセンティブ
- 貯蓄と投資
- 科学的な経済学
- 短期の経済変動
- 株式市場と債券市場
- 株価指数とは(日経平均、TOPIX、ダウ平均、FTSE)
- 供給とは
- 税と公平性
- 税金とは
- 税と効率性
- 経済学の主要学説
- 短期の総供給曲線が右上がりの理由
- 短期の総供給曲線がシフトする理由
- 総供給曲線
- 失業とは
- グラフの用法
- 経済の波
- 世界各国の経済成長