貨幣の流通速度と数量方程式
今回は貨幣の流通速度と数量方程式について説明していきます。
この文章を読むことで、経済学における貨幣の流通速度について学ぶことができます。
経済学における速度
「速度」というと日常生活では物理的な意味、つまり走る速度や投げる速度を意味します。
しかし、経済学においては少し意味が違います。
「貨幣の流通速度」というとき、貨幣が経済のなかを財布から財布へ移動する平均的なスピードを意味するのです。
貨幣の流通速度
貨幣の流通速度を示す式はこちらです。
V=(P×Y)/M
Vが速度(Velocity)、Pが物価水準(GDPデフレーター)、Yを生産量(実質GDP)、Mは貨幣量です。
貨幣の流通速度は、物価水準に生産量をかけた数字(名目GDP)を貨幣量で割った数字、ということができます。
これでは今ひとつイメージしにくいと思うので、具体例を見ておきましょう。
【例題】
ある経済はすべての生産をラーメンに注ぎ込んでいます。
1年間に100万杯のラーメンを作るこの経済において、ラーメン一杯は500円です。
この場合の貨幣量を500万円とすると、貨幣の流通速度はどのような値を示すでしょうか。
<解説>
前述の式にこの経済の数値を当てはめると、次のようになります。
V=(500円×100万杯)/500万円=100
年間5億円をラーメンに使うこの経済の人々が500万円の貨幣量で5億円分の消費を行うには、貨幣の持ち主を100回変える必要があるというわけです。
貨幣量が5000万円に変われば10回、1億円なら5回です。
貨幣量が多ければ多いほど、移動する速度が遅くても実現できる経済規模は大きくなります。
貨幣数量方程式
前掲の式の両辺にVをかけて変形すると、次のようになります。
M×V=P×Y
「貨幣量に貨幣流通速度をかけたものは、物価水準に生産量(実質GDP)をかけたものと等しい」という意味です。
この式を「貨幣数量方程式」と呼びます。
貨幣数量、すなわちMが増大するとき(貨幣注入)、この方程式が成立するにはVかPかYのいずれかが変動する必要があることがわかります。
Vは低下する必要がありますし、PかYは増加する必要があります。
このことは簡単な数字を入れればすぐに理解できるでしょう。すべての値を1とすると、貨幣数量方程式は次のようになります。
1×1=1×1
この時、Mだけが2になったとします。
2×1=1×1(不成立)
この式を成立させるためには、左辺の1が1/2になるか(貨幣速度の低下)、右辺のいずれかの1が2になる必要があります(物価水準か生産量の増加)。
実際の経済での貨幣の流通速度
ここまで見てきた貨幣流通速度ですが、実際の経済ではどういった変化をみせるのでしょうか。
日本やアメリカなどの先進諸国は、この数十年間で急速な経済成長を遂げています。
そのため、名目GDPや通貨供給量に関しては何十倍も増加しています。
しかし、統計などを見ると貨幣の流通速度には大きな変化が見られません。
したがって実際の経済において、前掲例のような急速な流通速度の変化は起こらず、概して誤差の範囲内ということができます。
貨幣数量説とは
ここで、改めて貨幣数量説について考えておきましょう。
「利用可能な貨幣量が物価水準を決定し、利用可能な貨幣量の成長率がインフレ率を決定する」が貨幣数量説の定義でした。
貨幣流通速度が一定であると仮定すると、M×V=P×Yより、中央銀行による貨幣供給量(M)が増加するとその分名目GDP=P×Yは増加します。
もちろん、Mが減少すればP×Yも減少します。
ところで、実質GDP(Y)は労働や物的資本、人的資本などの生産要素と生産技術によってほぼ決まります。生産性が高いほどYの値は大きくなります。
しかし、中央銀行による貨幣注入は生産性とは無関係なので、MとYの値には相関関係はありません。
ということは、貨幣供給量の変化はダイレクトに物価水準(P)に影響します。
仮に通貨供給量を急激に増加させると、市場は急激に物価水準を上昇させる、つまり高率のインフレーションを引き起こすのです。
すなわち「利用可能な貨幣量が物価水準を決定し、利用可能な貨幣量の成長率がインフレ率を決定する」というわけです。
まとめ
貨幣の流通速度→貨幣が経済のなかを財布から財布へ移動する平均的なスピード
<貨幣の流通速度>
V=(P×Y)/M
V(Velocity):速度
P(GDPデフレーター):物価水準
Y(実質GDP):生産量
M:貨幣量
<貨幣数量方程式>
M×V=P×Y
実際の経済では貨幣の流通速度はほぼ一定。
貨幣流通速度は一定→貨幣供給量の増加は名目GDPの増加
→貨幣注入は生産性には無関係
→貨幣供給量の変化は物価水準の変化に直結する
→通貨供給量の増加はインフレーションにつながる
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