実質為替相場と名目為替相場(円高と円安)
今回は実質為替相場と名目為替相場について説明していきます。
この文章を読むことで、「国際価格の概要」「名目為替相場と実質為替相場の関係性」について学ぶことができます。
国際価格とは
開放経済、すなわち海外との取引を前提としたマクロ経済においては、一国のみの経済を考えていた場合とは決定的に違う点があります。それは通貨の違いです。
「日本人は日本円で買い物をしますが、アメリカ人はUSドルで買い物をします。」
当たり前のことではありますが、しかし、これは非常に重要な違いなのです。
というのも、例えばアメリカ人が経営するアイスクリーム店があって、そこに日本人が買い物に来たとします。
アメリカ人が「これは2ドルだ」と言っているのに対し、日本人は「え、200円じゃないの?」と言っているとします。
この時、2ドルと200円の価値の上下を決めるのが国際価格です。つまりは違う通貨の価値を比べるための基準です。
以下ではこの国際価格のうち、最重要と言える名目為替相場と実質為替相場の2つについて解説していきます。
名目為替相場
名目為替相場とは、X国の通貨とY国の通貨を取引できる相場を言います。
例えば100円をドルに交換する、ペソに交換する、人民元に交換するといった場合のレートを指します。
先ほどの例を用いて、少し具体的に理解しておきましょう。
【例題1】
アイスクリームを巡って、それが2ドルなのか200円なのかで揉め始めたアメリカ人店主と日本人客。
店主は「さっきからお前は一体何を言っているんだ。アイスクリームは2ドル。200円じゃない。200円では買えない」とついに店の奥に引っ込んでしまいます。アイスクリームが食べたくて仕方がない日本人客は頭を抱えました。
すると、そこに親切な老婆がやってきてこう言いました。
「今の名目為替相場だと200円は1ドルと59セントです。250円出してくれたら2ドルと交換しますが、どうしますか?」
日本人客はとても感謝し、喜んで250円を老婆に手渡しました。
<解説>
2015年6月8日現在の名目為替相場では、1ドルは125円28銭です。それに基づいて計算すると、この老婆の言っている通りになります。
彼女は日本の通貨とアメリカの通貨を交換するレート(名目為替相場)を知っていたのです。
円安と円高
さて、ここで名目為替相場において非常に重要な概念を学んでおきましょう。
それが「増価」と「減価」です。
先ほどの例で言えば、1ドルは125円28銭なので1円は0.0079ドル(約0.8セント)です。
仮に、なんらかの為替相場の変動があって1円が1セントになった場合、日本円のドルに対する価値が上がったという意味で「増価」と言います。
逆に、1円が0.5セントになってしまうと、これを「日本円の減価」と言います。
これは通貨をひっくり返しても言うことができます。つまり、日本円の増価が起きるとドルの減価が起き、減価が起きればドルの増価が起きます。
テレビのニュースなどでは日本円の増価を「円が強くなる」、減価を「円が弱くなる」という表現を使うこともあります。
しかし、最もメジャーな表現は「円安・円高」でしょう。減価が起きれば円安、増価が起きれば円高です。
この概念が重要なのは、のちに触れるように国内のGDPを構成する要素の一つである「純輸出」に大きく関わってくるからです。
実質為替相場
次に見るのは実質為替相場です。これはX国の財・サービスとY国の財・サービスを取引するための相場です。
例えば、日本のビールがアメリカのビールの2倍の価値を持っているとすると、両者を交換する時、日本のビール1本とアメリカのビール2本の取引になります。
この場合の実質為替相場は、「日本のビール1本当たりアメリカのビール2本」であると表現します。
「国内品目1単位当たりの外国品目の単位数」という表現の仕方は、名目為替相場の場合の「国内通貨1単位当たりの外国通貨の単位数」と同じです。
両者の違いは通貨同士を比べるのか、財・サービス同士を比べるのかの差です。
名目為替相場と実質為替相場の関係性
名目為替相場と実質為替相場、この2つの国際価格には強い関係性があります。
というのも、実質為替相場は名目為替相場と比較する2つの国の財の価格によって決定されるからです。
これがどういうことなのか、例をあげて説明しておきましょう。
【例題2】
人参1キログラムが日本では500円で売られているとします。対して、アメリカに行くと人参は5ドルだとしましょう。
2国間の財・サービスの取引を可能にする実質為替相場は、この場合どのような手続きで求められるでしょうか。
<解説>
実質為替相場は次の計算式によって導かれます。
実質為替相場=名目為替相場×国内価格 / 外国価格
この例の場合の名目為替相場は、1円当たり1/100ドルです。
国内価格は人参1キログラム500円、外国価格は人参1キログラム5ドルです。つまり実質為替相場は、
0.01円/ドル×500円/kg / 5ドル/kg
= 日本の人参1円/kg / アメリカの人参1ドル/kg
= アメリカの人参1kg / 日本の人参1kg
となります。この時、日本の人参とアメリカの人参は等価であると言えます。
これらのことが示すのは、名目為替相場は実質為替相場の重要な決定要素であるということです。
ここに前述した「円高=増価」「円安=減価」への理解が必要になってくるのです。
上記の例の場合、円が二倍に増価したとしましょう。
0.02円/ドル×500円/kg / 5ドル/kg
= 日本の人参2円/kg / アメリカの人参1ドル/kg
= アメリカの人参2kg / 日本の人参1kg
すなわち、日本の人参1kg当たりアメリカの人参2kgの価値があるということになります。
円高になると日本の人参の国際価格は上昇し、円安になれば国際価格が下降するというわけです。
実質為替相場の重要性
ここで実質為替相場と純輸出との関係について考えておきます。純輸出がなぜ実質GDPと密接な関係にあるのかは、次の数式を思い出しましょう。
Y=C+I+G+NX
Yが実質GDP、Cは消費、Iが投資、Gが政府支出でNXが純輸出を示します。
すべての支出は右辺の4つの要素に分類されるため、純輸出が増加するとそのまま実質GDPの成長につながるというわけです。
さて、純輸出と実質為替相場の関係に戻りましょう。実質為替相場が変動すると一国の純輸出はどのように変化するのでしょうか。
例えば、先ほどの例に出した日本の人参とアメリカの人参が、寸分たがわず同じ品質を備えているとしましょう。
そこでなんらかの原因で円高=増価が進み、対ドルの円の価値が2倍になってしまうと(名目為替相場の変動)、日本の人参の国際価格がアメリカの人参の国際価格の2倍になります。
同じ品質であれば値段が安い方に需要が偏るので、日本の人参は売れなくなります。世界各国はアメリカの人参の輸入を増やし、日本の人参の輸入を減らすでしょう。
すると、日本の輸出額が減少し、結果日本の純輸出も減少、実質GDPも減少…となります。
逆に円安=減価が進み、対ドルの円の価値が1/2になってしまった場合は、日本の人参がよく売れるので実質GDPの増加へとつながります。
日本はこれまで「輸出によって経済成長をしてきた」と言われる場合があります。自動車や工業製品は、その立役者として現在も日本経済で大きな役割を持っています。
輸出を増やすには円の減価=円安が必要です。
日本国内でのコストは変わらないのに、海外からしてみれば日本製品の価格が安くなるため、需要が大きくなって輸出が増えるというわけです。
テレビニュースなどで「円安進行で日本経済が上向きに」などと言われるのはこういう仕組みがあるからです。
これは何も日本に限ったことではなく、他の国の経済でも同じです。
例えば海外から安く仕入れて、国内で高く売ることで経済成長をしている国があれば、通貨の減価ではなく、通貨の増加の方が有利に働きます。
なぜなら同じ財・サービスを購入するのに必要な通貨が減るからです。
このように、名目為替相場及び実質為替相場は、開放経済の理解においては必要不可欠な概念なのです。
まとめ
<国際価格>
国際経済の取引を成立させるための変数
<名目為替相場>
国際経済における通貨と通貨の変換を可能にする相場
<実質為替相場>
国際経済における財・サービスと財・サービスの交換を可能にする相場
[実質為替相場=名目為替相場 × 国内価格 / 外国価格]
<増価>
国際市場における国内通貨の価値が増すこと。円高、円が強くなると表現する。輸入を有利にする。
<減価>
国際市場における国内通貨の価値が減ること。円安、円が弱くなると表現する。輸出を有利にする。
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