国際的フローの貯蓄と投資の関係
今回は国際フローの貯蓄と投資の関係について説明していきます。
この文章を読むことで、「開放経済における貯蓄と投資」について学ぶことができます。
開放経済における貯蓄と投資
貯蓄が増加すると経済の資本ストックが増加し、投資の増加につながります。
すると、「供給側の生産性が向上し経済成長につながる」というのが閉鎖経済の中での貯蓄と投資の関係でした。
では、これが開放経済になると一体どのような違いが生まれるのでしょうか。数式を中心として解説していきたいと思います。
数式で見る国際フローの貯蓄と投資
1.Y=C+I+G+NX
2.S=Y−C−G
3.Y−C−G=I+NX
4.S=I+NX
5.S=I+NCO
※
Y:産出量、実質GDP / C:消費 / I:投資 /
G:政府支出 / NX:純輸出 / S:貯蓄 / NCO:純資本流出
1番の数式は、産出量が消費・投資・政府支出・純輸出の和で成立していることを示す恒等式です。
ここで挙げている5つの式はすべて恒等式なので、これらの式は常に正しくなります。
2番の数式は貯蓄が産出量から消費と政府支出を差し引いたものであると言っています。これは普段の生活を思い出してもらえば理解できると思います。
20万円の所得があった際に、生活費や水道・光熱費の他に所得税などの税金を支払って残ったお金が「貯金」です。これと同じことがマクロ経済で起こっているだけです。
1番の数式のうち消費と政府支出を左辺へ移項するとY−C−G=I+NX(3番の数式)となります。
2番の数式からこのうちの左辺はSなので4番の数式が導かれます。純輸出と純資本流出は同じ数字を示すのでここから5番の数式が導出されます。
4番と5番の数式が意味しているのは、国民全体の貯蓄は投資と純輸出及び純資本流出の和でできているという事実です。
純資本流出はすなわち海外への投資(対外直接投資・対外証券投資)であり、投資とは国内への投資を指します。
つまり、閉鎖経済から開放経済に移行すると、貯蓄は国内と海外への投資と等しくなるのです。これは理屈としては非常にわかりやすいものだと思います。
以下では、さらにイメージしやすいように具体例を挙げてみておきましょう。
【例題】
それまで結婚や家庭とは無縁だった日本居住者Xさんに大事な妻と子供ができました。独身時代とは違って二人の将来への責任感に燃えるXさんは、これから毎月積立貯金をしようと決心します。
さて、開放経済において、このXさんの決心はどのような影響を及ぼすでしょうか。
<解説>
S(貯蓄)=I(投資)+NX(純輸出)
S(貯蓄)=I(投資)+NCO(純資本流出)
Xさんの積立貯金は、前述の4番と5番の数式で言えば、左辺の国民貯蓄を増加させる要因です。
貯蓄が増えたのであれば、右辺の投資及び純輸出・純資本流出が増加しなければいけません。
例えば、Xさんがこの貯金を手堅い投資の一つである投資信託に預けたとします。
これを受け取った投資信託が、楽天ホールディングスが発行している株の購入代金に充てるとします。
すると、楽天ホールディングスはこの株で調達した資金を利用して、新たな通販サービスを構築するかもしれません。
このとき左辺の国民貯蓄は、右辺の投資に使われたと考えられます。
あるいは、投資信託がApple社の株を購入したとしましょう。アップル社はこの資金を使って新たなiPhoneの設計にとりかかるかもしれません。
このとき左辺の国民貯蓄は、右辺の純資本流出に使われたと考えられます。
ここで重要な事実を再確認しておきましょう。それは「金融システムが貯蓄と投資を結びつける役割を果たす」ということです。
閉鎖経済において、金融市場(債券市場や株式市場)と金融仲介機関(投資信託や銀行)は、国内の貯蓄と国内の投資をつなげるパイプ役でした。
それは開放経済においても健在で、S=I+NX、あるいはS=I+NCOと書くときの「=」とは、すなわち「金融システム」なのです。
このシステムは国内の資本フローだけでなく、国際資本のフローにも大きく関わってきます。
国際フローの貯蓄と投資の関係
閉鎖経済における貯蓄と投資の関係は、「=」で結ばれていました。
この場合の投資は「国内への投資」を指しましたが、これが開放経済になると「海外への投資」も投資に含まれるようになります。
海外への投資とは、すなわち「純輸出」=「純資本流出」です。
そして、貯蓄(国民貯蓄)が投資と純資本流出の和と等しくあるために重要な役割を果たすのが、金融システムなのです。
このシステムは国際経済でも資本フローの要となっています。
まとめ
<閉鎖経済>
S=I
<開放経済>
S=I+NX
S=I+NCO
国民貯蓄=国内投資+海外投資
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