総需要と総供給のモデル
今回は総需要と総供給のモデルについて説明していきます。
この文章では、「名目変数と実質変数の間にある関係性を分析するためのモデル」について学ぶことができます。
財・サービス産出量と平均物価水準
古典派が経済を分析するときに使う実質変数と名目変数の分離=古典派の二分法は、長期経済を分析するときには役に立ちますが、短期経済の分析には理論上歯が立ちません。
この二分法を乗り越えるためには、名目変数と実質変数の間にある関係性について知らなくてはいけません。
そこで、経済を大きく動かす2つの変数に着目しましょう。
実質変数としては実質GDPで算出する「財・サービスの産出量」を、名目変数としては消費者物価指数及びGDPデフレーターで算出する「平均物価水準」を用います。
この二つの増減を示したグラフが、下図です。
総需要と総供給のモデルとは
縦軸に物価水準、横軸に産出量をとったとき、総需要曲線は右下がりに、そう供給曲線は右上がりになります。
総需要曲線は、経済を構成する「家計」「政府」「企業」、そして「海外顧客」がそれぞれの物価水準においてどれだけ財・サービスを購入したいと思うのかを示します。
総供給曲線は、供給者すなわち企業がそれぞれの物価水準でどれだけ供給したいと思うのかを示しています。
図のように両者が交わる点では、市場の均衡価格・均衡産出量が決定されます。
市場の需給と同じ?
このように書いていると「なんだ、ミクロ経済学でやった市場の需要と供給の関係と同じじゃないか」と思う人もいるでしょう。
しかし、この総需要と総供給のモデルとはあくまで「マクロ経済学」のトピックです。
このことを理解するために一つの例をあげておきましょう。
【例題】
ある国で「バナナの価格が変動した場合に市場で起きる変化」を考えてみましょう。
<解説>
バナナの価格が上昇すると、それに伴って人々はバナナに対する消費行動を控えます。
果物が食べたいときはバナナではなく、リンゴやキウイ、桃などを選ぶでしょう。「バナナに○○円だすくらいなら、△△円のリンゴを買おう」という判断は私たちが日常的に行っているものです。
対してバナナが安くなれば、リンゴやキウイではなく、バナナの消費を増加させるでしょう。
これは消費者=需要側だけでなく、供給側=企業についても同じです。
価格が上昇すれば売れば売るほど儲けは増加するので、企業はリンゴ農家やキウイ農家などから雇用を増やしてでも供給量を増やそうとします。
逆に、価格が下落すれば儲けが減るために雇用を減らさざるを得ず、結果的に供給量を低下させます。
ミクロ経済学とマクロ経済学の違い
さて、この<解説>で見る限り、「バナナが高くなるとリンゴを代わりに買う」ですとか「バナナが安くなるとリンゴを買い控える」とかいう言い方をしています。
これは企業でも同じで、「バナナが高くなるとリンゴ農家から雇用を増やす」「バナナが安くなると雇用を減らす」というふうに表現します。
しかし、マクロ経済学、すなわち「総需要と総供給のモデル」においては、バナナもリンゴもキウイも桃も、あるいは車も電子レンジもエステも野球観戦も、すべて同じ一つの「財・サービス」として考察されます。
リンゴ農家の人材も車工場の人材も、すべて同じ「人材」なのです。
そのため、今までの「他の市場との代替性が成立するミクロ経済の考え方」では、総需要と総供給のモデルの説明はできません。
したがって、私たちはこのモデルを理解するために、新たに「マクロ経済学の視点」を持つ必要があるのです。
総需要と総供給のモデル
古典派の経済学では長期経済を分析することはできても、短期経済を分析することができません。
よって短期経済を理解するためには、名目変数と実質変数の間にある関係性を分析する必要があります。
総需要と総供給のモデルでは、「財・サービスの産出量」=実質変数と「平均物価水準」=名目変数を用いて両者の関係を調べます。
これは、これまで見てきたミクロ経済学の需給関係とは違い、「すべての市場」「すべての企業」「すべての財・サービス」を対象にします。
そのため、このモデルを理解するには新たにマクロ経済学の視点が必要になります。
まとめ
古典派の二分法→長期経済には有効。短期経済には無効。
古典派の二分法を乗り越えるには、名目変数と実質変数の関係性に注目する必要がある。
総需要と総供給のモデル→財・サービスの産出量=実質変数、平均物価水準=名目変数の関係を調べる。
このモデルの理解には「すべての」企業・市場・財・サービスというマクロ経済学の視点が必要。
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