貨幣とは
今回は貨幣について説明していきます。
この文章を読むことで、「世界が物々交換にならないわけ」や「経済学における貨幣」について学ぶことができます。
世界が物々交換にならないわけ
買い物をするとき、「どうしてお金を払うんだろう」と思ったことはありませんか?
「そんな当たり前のことにどうして疑問をもつんだ」と思う人が大半かもしれません。しかし、これにはちゃんと訳があるのです。
現在、ほとんどの人類が「貨幣」というものを使って取引をし、物々交換をしないわけ。それは次のような事情があるからです。
【例題1】
貨幣がある国のパン屋は「今夜はカレーが食べたいぞ」と思い、市場に出かけます。
1000円で人参農家から人参を、ジャガイモ農家からジャガイモを、玉ねぎ農家から玉ねぎを、肉屋から牛肉を買ってきました。彼は1日の間にそれらを手に入れ、カレー作りにいそしみます。
対して貨幣がない国のパン屋には、自分が作ったパンしか価値のあるものを持っていません。しかし、彼もまたカレーを食べたかったのです。
近くに住んでいるパン党の人参農家と玉ねぎ農家は、快くパンと野菜を交換してくれました。
しかし、隣村のジャガイモ農家にパンとジャガイモの交換を申し入れると、「うちはコメ党だから要らないよ」と断られてしまいます。
彼はジャガイモを手に入れるため、自家製のパンを持って山向こうのジャガイモ農家まで行くことにします。
<解説>
物々交換が成立するためには「欲求の二重の一致」が必要です。
つまり「私が欲しいものをあなたが持っていて、あなたが欲しいものを私が持っている」という状況です。
確かに、経済規模が小さければこのような関係は成立するかもしれませんが、インドに住んでいる小学生とマンハッタンで働くビジネスマンの欲しいものが一致する可能性は低いでしょう。
貨幣のない国の例のように、趣味趣向で不一致を見ることもあり得ます。
対して、貨幣さえあれば貨幣のある国の例のように簡単に取引は成立します。
これはどうしてなのでしょうか。以下で見ておきましょう。
経済学における貨幣とは
まず理解しておきたいのは、経済学が言う「貨幣」と日常的に私たちが使う「貨幣」の間にある違いです。
私たちが「貨幣=お金」をたくさん持っているというとき、「富」をたくさん持っているという意味で使います。
例えば、雑誌『フォーブス』の長者番付に載っている資産家はお金持ちですし、六本木ヒルズに住んでいる人たちもお金持ちです。
しかし、経済学で言う貨幣はもう少し狭い範囲の「お金」を指します。
それは「人々が経済活動において他の人々から財・サービスを購入する場合に通常使う資産」です。
例えば現金。一万円札や五千円札は、経済学では貨幣の範囲に入ります。
しかし、株券や絵画、不動産などは、取引に使えるようにするまでには多大な時間と労力を必要とします。
したがって「通常使う資産」ではないため、貨幣には数えられません。
貨幣が経済を回している
この「貨幣」についての理解ができたら、次は貨幣が持つ機能について考えていきましょう。
貨幣には「交換手段」「計算単位」「価値貯蔵手段」という3つの機能があります。
交換手段
財・サービスを購入する際に私たちは貨幣を使います。これが交換手段としての貨幣の機能です。
前述したように、物々交換が成立するには「二重の欲求の一致」が必要です。
例えば、宝石を買うためにたこ焼きを100人前持っていっても取引はできません。
これは、たこ焼きに交換手段としての機能が備わっていないためです。
この機能を付与するのは「社会」です。日本国内で買い物をするのに1000円札を出して買い物ができないお店はほぼありません。
これは、貨幣が日本の社会から交換手段としての機能を付与されているからです。
したがって、仮に大阪市民がたこ焼きにその機能を付与すれば、大阪市ではたこ焼きで買い物ができるようになります。
計算単位
2つめの機能、計算単位とは価値を測定するときに用いる尺度を指します。
Tシャツ2400円、たこやき10個300円、日本酒一升3000円などと言うとき、私たちは「円」という尺度でTシャツやたこやき、日本酒の価値を測定しているのです。
確かに、私たちはたこやき80個でTシャツ一枚分、たこやき100個で日本酒一升分という計算をすることができます。
しかし、店頭で「ただいまTシャツ超特価!たこやき30個分!」といった貼り紙をみることはありません。
これはたこやきには計算単位としての機能が備わっていないからなのです。
ただし、この場合も社会がたこやきにその機能を認めれば、たこやきを計算単位にすることは可能です。
価値貯蔵手段
3つめの機能は「価値貯蔵手段」。これはいま手に入れた購買力を、一ヶ月後一年後の未来に移すことができるものを指します。
例えば、いくら高級とはいえ、松坂牛のステーキを手に入れた一年後にロードバイクと交換することはできません。
これはステーキが交換手段としては成立しないからとも言えますが、一年も保管した松坂牛ステーキには一年前と同じ価値がないからです。価値を貯蔵できないのです。
対して貨幣は、一ヶ月後にも一年後にもほぼ同じ価値を持っています。
もちろんインフレやデフレの影響で多少価値が変動する場合もありますが、ステーキのような価値の変動はありません。
この意味では株式や不動産、債権や貴金属のようなものも価値貯蔵手段です。
価値の変動はあるものの、一定期間の価値の貯蔵は可能だからです。
つまり「富」という言葉は貨幣という資産と、株式などの貨幣ではない資産(非貨幣資産)の両方の合計を示しているのです。
流動性について
また、貨幣の特筆すべき性質の一つが「流動性」というものです。
経済学における流動性とは、資産がどれだけ簡単に交換手段として使えるようになるかどうかを示す言葉です。
前述のように、貨幣は交換手段そのものなので、流動性は極めて高いといえます。
対して株式や不動産、宝石などの資産は、交換手段として使えるようになるまでには諸々の手続きが必要となるため、流動性が低いということができます。
商品貨幣と不換紙幣
次に紹介しておきたいのが貨幣の種類、すなわち「商品貨幣」と「不換紙幣」という考え方です。
これはどうして「お金」に価値があるのかを考えるために、知っておかなくてはならない知識です。
金銀財宝の価値
例えば「何百年も前に海賊が隠した金銀財宝の在り処がわかった!」といった冒頭で始まるおとぎ話は数多くあります。
何百年も前の金銀財宝に物語の現在の人たちが価値を見いだすのは、何百年たっても金や銀、宝石などの資産には価値があることがわかっているからです。
確かに、金などはこれまでの歴史上幾度となく貨幣として価値を持ってきました。しかし、貨幣でなくともこれらは重要な価値を持ちます。
このように、貨幣でなくとも発揮できる価値を「本源的価値」と言い、このような価値を持つものを「商品貨幣」と呼びます。
かつて世界経済が採用していた「金本位制」は、この金の本源的価値に信頼を置いて運営されたシステムでした。
一万円札の価値
対して本源的な価値を持たない貨幣を「不換紙幣」と呼びます。
英語では「flat money」。flatとは命令や宣言を示します。
つまり不換紙幣とは、「政府や権力者の命令や宣言によって、ようやく貨幣たり得る」という性質を持っているのです。
例えば、高校の学園祭などで購入する金券は、学園祭の中では100円だか300円だかの価値を持っています。
これは「学校」という権力の宣言によって保証されている価値なのです。
しかし、ひとたび学校権力の外に出て校外のコンビニなどに行けば、その金券は単なる紙クズになってしまいます。
これと同じことが「円」「ドル」「ユーロ」にも言うことができます。よく考えれば、1万円札や100ドル札はちょっと質のいい紙切れなのです。
それが本や衣料品、電化製品などと交換できるのは、各国においてその紙切れに一定の価値があると定めた「政府」という権力があるからなのです。
貨幣とは
物々交換の経済が成立するためには、そこに常に「欲求の二重の一致」が必要になります。
このような非効率を克服するために、経済は「貨幣」というシステムを開発しました。
貨幣は「交換手段」「計算単位」「価値貯蔵手段」という三つの機能を持っており、かつ非常に高い「流動性」を有するシステムです。
貨幣には本源的価値を持つ「商品貨幣」と、政府や権力者などの宣言や命令によって初めて貨幣になる「不換紙幣」の二種類があります。
まとめ
世界が物々交換にならないわけ→欲求の二重の一致が必要だから
経済学における「貨幣」→人々が経済活動において他の人々から財・サービスを購入する場合に通常使う資産
貨幣の持つ三つの機能→交換手段、計算単位、価値貯蔵手段
流動性→その資産がどれだけ簡単に交換手段として使えるかどうか
商品貨幣→本源的価値を持つ貨幣
不換紙幣→本源的価値を持たない貨幣
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