金融資源の国際的フロー
今回は金融資源の国際フローについて説明していきます。
この文章を読むことで、「純資本流出の概要」や「純資本流出に影響を与える変数」について学ぶことができます。
純資本流出とは
開放経済の消費者は、財・サービスをやりとりする輸出入や貿易収支の市場に参加しています。
同時に彼ら(私たち)は金融の国際市場にも参加しています。
この際、キーワードとなるのが「純資本流出(NCO)」です。
NCOは次の計算式で求めることができます。
純資本流出=国内居住者による外国資産の購入−非居住者による国内資産の購入
つまり、国内から海外へと出て行った資産から、海外から国内に入ってきた資産を差し引いた数値が純資本流出です。
例えば、日本の居住者がアメリカの毒々しい色のお菓子を買うのではなく、そのお菓子メーカーの株式を購入すると「国内居住者による外国資産の購入」が大きくなります。
対して中国の居住者が日本の衣料品メーカーの株式を購入すれば、「非居住者による国内資産の購入」が大きくなります。
前者が大きければ国内からの資産の流出が多く、後者が大きければ流入が多いということになります。
対外直接投資と対外証券投資
金融資源の国際的なフローは「対外直接投資」と「対外証券投資」の二つの形態をとります。
前者は、例えば日本の衣料品メーカーが中国に工場を建てた場合を指します。
この場合、衣料品メーカーの経営陣は積極的にこの工場の運営に携わることになります。人材管理をしたり、生産ラインの指示を出したりするのは日本国内にいる人間です。
対して、日本の携帯電話会社が中国のEC会社の株を購入した場合を、対外証券投資と呼びます。
このケースでは、携帯電話会社はEC会社に対して比較的受動的な立場にあります。もちろん株主なので経営についての発言権はありますが、対外直接投資に比べるとどうしても受け身にならざるを得ません。
とはいえ、両方に言えるのは「日本の資産が中国に流出している」という点です。
よって「国内居住者による外国資産の購入」は増加し、その結果純資本流出も増加します。
純資本流出に影響を与える変数
純資本流出はどんな変数によって変化するのでしょうか。
すなわち「国内居住者による外国資産の購入」と「非居住者による国内資産の購入」の決定要因は一体なんなのでしょうか。
もちろんこれには色々な要素が絡むわけですが、ここでは次の3つを挙げておきましょう。
外国資産に支払われる実質利子率及び国内資産に支払われる実質利子率
例えば、1000万円分の外国資産と2000万円分の国内資産を持っているとします。
運用する資産としてこれらを見た場合、その魅力の有無は「実質利子率」によって左右されます。
仮に外国資産の利子率が20%として、国内資産の利子率が5%だとすれば、10年後前者は約6200万円で後者は約3300万円となっています。
そのためどちらかの利子率が高くなると純資本流出に影響が出ます。
外国資産を保有することによる経済的・政治的リスク
例えば、今にも財政破綻しそうな国の企業への投資や、クーデターが起きそうな政情不安のある国の企業への投資には、消費者はあまり魅力を感じません。
逆に、国の経営が磐石であったり政情が安定していると、消費者はその国の企業ないし政府への投資意欲がわきます。
外国人による国内資産の所有に影響を与える政府の政策
これは政情や国の財政事情とも関わってきますが、政府が外国人投資家に対して制限を設けていたり、将来的に設ける可能性の如何によっても、投資家の投資意欲は左右されます。
まとめ
純資本流出=国内居住者による外国資産の購入−非居住者による国内資産の購入
対外直接投資→工場を建てる、支店を開くなど。経営に積極的に参加する。
対外証券投資→株式を買う、債券を買うなど。経営には比較的受動的に参加。
<純資本流出の主な決定要因>
外国資産に支払われる実質利子率
国内資産に支払われる実質利子率
外国資産を保有することによる経済的・政治的リスク
外国人による国内資産の所有に影響を与える政府の政策
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