科学的な経済学
今回は、科学的な経済学について説明していきます。
この文章を読むことで、経済学を科学足らしめるための「科学的な方法」「仮定について」学ぶことができます。
科学的な方法とは何か
「経済学とは科学である」こんな風に言うと人によっては「あれ?経済学って文系だよね?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、科学的かそうでないかは研究する内容の違いには左右されないのです。
学問が科学的であるために必要なのは科学的な方法です。
これは実証的な方法と言い換えることもできます。
実証的な方法とはどういうものかと言えば「観察」「理論構築」の2つの方法を基に、「同じ手順・条件で行えばどこで・誰がやっても同じ結果が得られる方法」を言います。
これは「科学的」というとき、どのような場合にも適用される大原則です。
この実証的な方法を用いて経済を研究するのが経済学です。
しかし、経済学はその性質上物理学や化学、数学などとは違い、「実験」を行うのが極めて困難な学問です。
塩酸と水酸化ナトリウムを混合して食塩を取り出す実験は比較的簡単に行えますが、「国民の50%以上が貧困状態に陥ったら残りの50%の富裕層はどう行動するか」を調べるために、恣意的に国民から富を取り上げることはできないのです。
そこで経済学は多くの場合「歴史」を分析対象として扱います。
バブル崩壊はどのような状況で起きたのか、リーマンショックは?あるいは人類最初のバブルと言われる1720年ごろイギリスで起きた南海泡沫事件は?
そのようにして歴史を分析し、理論を構築していくのが経済学の科学的な方法です。
【例題】
では、ここで実際の出来事を例に科学的か、そうでないかの違いを考えてみましょう。
<問>
1.人口多能性幹細胞=iPS細胞の研究を大幅に進めたとしてノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥氏の論文
2.刺激惹起性多能性獲得細胞=STAP細胞を発見したとして世間を賑わせた小保方晴子氏らが発表した論文
1と2のうちどちらが科学的でどちらが科学的でないかを理由も含めて考えてみましょう。
<解説>
答えは1が科学的、2が非科学的な論文です。
1が科学的な理由としては、2007年11月21日に山中氏の研究チームが発表したのと同じ日に、ウィスコンシン大学教授ジェームズ・トムソン氏が山中氏らの論文を基にヒトiPS細胞の作製に成功したためであると言えます。
つまりは実証可能であったのです。
対して2の小保方氏らの論文はネイチャー誌に発表されて以来、特に日本ではメディアを大きく賑わせました。
しかし、論文の体裁も含め、世界各地で実証ができない点が指摘され、研究論文に関する調査委員会によって「STAP論文はほぼすべて否定された」と結論付けられています。
実証性がない=科学的ではないという判断が下されたのです。
このように研究分野が同じでも、実証性の有無によって科学的/非科学的なのかは大きく変わるのです。
「仮定」がもたらしてくれるもの
また、経済学では度々「仮定」を用いて経済を考えます。
経済は非常に複雑な現象です。
例えば、交易関係がそれぞれの生活をより豊かにすること(経済学の第5原理)を知るためには、2者の市場参加者を仮定して考えます。
しかし、2者だけが参加している市場というのはリアリティに欠けます。
実際には無数の参加者がいるわけですが、経済学の第5原理を理解するためには、無数の参加者の存在する市場を理解する必要はありません。
2者間の取引による効用を理解すればそれで事足りるのです。
「目的のために必要な要素だけを抽出し、理解を容易にする。」これが仮定の役割です。
経済学が科学であるために
経済学を科学足らしめるために、経済学者は「同じ手順・条件で行えばどこで・誰がやっても同じ結果が得られる方法」=実証的な方法を用います。
しかし、経済では他の化学などのように実験ができないため、「歴史」を分析データとして用い、理論構築に役立てるのです。
この理論を理解するために活用するのが「仮定」です。
複雑な現実のうち、理解の妨げになるものを慎重に捨象(しゃしょう)し、シンプルにわかりやすくする役割があります。
まとめ
経済学は科学である。
「科学的な方法」→「同じ手順・条件で行えばどこで・誰がやっても同じ結果が得られる方法」
経済学は実証のために、実験ではなく歴史を使う。
仮定は経済事象を理解しやすくする。
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