短期の総供給曲線がシフトする理由
今回は「なぜ短期の総供給曲線はシフトするのか」について説明していきます。
この文章を読むことで、「短期の総供給曲線のシフト要因の考え方」「物価水準が総供給曲線に及ぼす影響」について学ぶことができます。
短期の総供給曲線のシフト要因の考え方
長期であっても短期であっても、同じ総供給曲線であれば、基本的にはシフトする要因は同じです。
しかし、長期の総供給曲線が垂直なのに対し、短期のそれが右上がりであることを考えれば、そこにはなんらかの差異があってしかるべきでしょう。
以下では両者の共通点と相違点について考えながら、短期の総供給曲線のシフト要因について考えておきましょう。
長期と短期の共通点
両者の共通点は、長期の総供給曲線のシフト要因全てです。
つまり、労働・資本・天然資源・技術知識の4つです。
これらの数値が変化すると、長期でも短期でも同じ方向へシフトします。
例えばある経済が労働力を増やすと、経済の生産性が向上し産出量が増加します。
すると、同じ物価水準でもより多くの財・サービスが生産できるため、総供給曲線は右方へシフトします。
これは長期でも短期でも同じです。資本の投入量が増加しても、天然資源や技術知識で同じことが起きても、長期と短期の曲線は同じ方向にシフトします。
長期と短期の相違点
両者のシフト要因の相違点を考えるために、両者の前提の違いを思い出しましょう。
それは「名目変数と実質変数を分離して考える古典派の二分法が、短期では通用しない」という点です。
つまり、長期では考慮に入れない名目変数の変動にも、短期の総供給曲線は反応するのです。
「人々がどのように物価水準に期待を持つか」によって、短期の総供給曲線はシフトします。
これは「市場の賃金はすぐには変化しない」という硬直賃金理論と、「市場の価格はすぐには変化しない」という硬直価格理論によって説明されます。
これに加えて、「市場全体の物価水準の変動を単一の財・サービスの価格変動と誤認することで起きるシフト」もあります。
物価水準の影響
ではここで、物価水準が総供給曲線に及ぼす影響を、硬直賃金理論を用いて具体的に見ておきましょう。
【例題】
ある国の中央銀行の総裁が「今この国の経済はいい感じです」と極めて曖昧な表現をしました。
しかし、企業や労働者はこの発言を受けて「こんなに偉い人が言うんだからよほどいい感じなんだろう」と考え、「きっとこれから物価が上がり始めて好景気が来るんだ」と期待を膨らませます。
この時、短期の供給曲線には何が起きるでしょうか。
<解説>
企業も労働者も同じように「物価が上がるだろう」と期待すると、かなりの確率で企業の名目賃金水準(物価も上がると「想定している」ので実質賃金ではない)を引き上げる交渉が成立します。
企業の全体の費用は上がるため、同じ財・サービスに関しても価格を引き上げざるを得なくなります。
この時注意したいのは、上昇したのは「期待物価水準」であって「実際の物価水準」ではないという点です。
この時、本当は上昇していない実際の物価水準での企業の生産量は減少し、結果経済の総供給量も減少します。
すると、総供給曲線は左方へとシフトしています。
つまり、短期で見る期待物価水準が上昇すると賃金が上がり、企業の費用も上がり、そして供給量は減少して、実際の物価水準での総供給量が減少し、総供給曲線は左へシフトするという流れを辿ります。
言い換えると、むやみやたらに立場のある人間が「景気が良くなる」と言うと、逆に経済は縮小してしまうのです。
反対に、期待物価水準が低下すると賃金は下がり、企業の費用も下がりますが、供給量は増加して実際の物価水準での総供給量は増加し、総供給曲線は右方へシフトします。
短期的に言えば「今この国の経済はちょっとまずいです」と言う方が、経済の拡大につながるのです。
なぜ短期の総供給曲線はシフトするのか
短期と長期の総供給曲線のシフト要因には、共通点と相違点があります。
共通点は労働・資本・天然資源・技術知識の4つの変数です。
対して相違点は、短期の総供給曲線が名目変数「物価水準」の影響を受けるという点です。
これは硬直賃金理論・硬直価格理論のほか、誤認理論でも説明できます。
まとめ
長期の総供給曲線のシフト要因:労働・資本・天然資源・技術知識
短期の総供給曲線のシフト要因:労働・資本・天然資源・技術知識+物価水準
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