GDPデフレーターと消費者物価指数
今回はGDPデフレーターと消費者物価指数について説明していきます。
この文章を読むことで、GDPデフレーターと消費者物価指数の違いについて学ぶことができます。
GDPデフレーターと消費者物価指数の違い
GDPデフレーターは「名目GDP(当年のGDPを示す)を実質GDP(基準年の価格で計算したGDPを示す)で割った数字」です。
この数字は、基準年のGDPベースの物価水準と今期のそれとを比較するためのものです。
対して消費者物価指数(以下CPI)は、「適切な財・サービスのバスケットの価格を調査し、それにもとづいて計算するもの」です。
当年の価格と基準年の価格を比較するという点ではGDPデフレーターと同じですが、この両者には把握しておくべき大きな違いがあります。
それは次の二つです。
?数値に反映される要素が違う
?財・サービスの価格にかかるウェイトのかけ方が違う
ここではこの二つについて、少し詳しく見ておきましょう。
反映させる要素の違い
まずは、一つ目の計算に組み込む数字の違いを見ておきましょう。
改めてGDPとは何かを思い出すと、「一定期間において、一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値」でした。
対してCPI(消費者物価指数)というのは、その名の通り「消費者」にとっての「物」の「価」値の数値です。
「消費者が購入するすべての財・サービスの価格」、それがCPIの計算対象なのです。
この二つが、実際に数値を算出する際にどのような違いを生むのかを見ておきましょう。
【例題1】
例えば、某国が国を挙げての事業として、世界で最も高いタワーを建てようとある国内の建築会社に発注をかけました。
総事業費は650億円。毎日のようにメディアは騒ぎ立て、国民は期待感でいっぱいです。
プロジェクトが発表されてから10年後、ようやくタワーが完成し、一般人が入場できるようになってから6ヶ月経ってもほぼ毎日タワーは大盛況でした。
このオープンに合わせて作成したタワーのグッズも大人気で、フランスのワイナリーに別注したタワーを模したボトルを使った記念の輸入ワインは、いくら作っても生産が間に合わないほどです。
そのワインは、6ヶ月後の時点で総額6億円の売り上げを記録しています。
某国の世界最高のタワーをめぐるこの現象について、GDPデフレーターとCPIの観点から考えてみましょう。
<解説>
公共事業に際して某企業に発注をかけた時に生じた650億円という支払いは、「一定期間において一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値」に当てはまります。
従って、仮にこのお金が一括で支払われていれば、この年のGDPは650億円増加します。
しかし、この取引には一般的な消費者は全く関係ありません。
「ちょっと自分の家の庭に世界最高のタワーが欲しい」というような人が一般的な消費者であれば、某国へ旅行した外国人が目の当たりにする光景はさぞかし恐ろしいものになるでしょう。
つまり、この取引はCPIには反映されないものなのです。
対して、その後記念の輸入ワインの販売で生じた6億円の売り上げですが、こちらは消費者による購入に適合するため、CPIには反映される可能性が有ります。
しかし、国内の生産ではないのでGDPデフレーターには反映されません。
価格へのウェイトのかけ方の違い
では、二つ目の違いについて見ておきましょう。
消費者物価指数を求める際には一定のバスケットについての価格を使うわけですが、このバスケットというのは市場の変化に逐一対応できません。
そのため、実際の市場の状況とは異なる分析を行う場合があります。
対してGDPは、その年の財・サービスの生産すべてをまとめて計算するため、市場の変化に対するレスポンスが早いのです。
両者に違いが生まれる時
この二つの要因によりGDPデフレーターとCPIの数値にズレが生まれる具体例としては、1970年代の石油ショックがあげられます。
石油を生産するのはアラブ諸国なので、その市場価値がいくら上昇しても日本のGDPには大きく影響しません。
しかし、これを購入する消費者は日本人です。そのためCPIは大幅に上昇します。
ただ大幅にズレるようなことは稀で、基本的には両者は近似値をとる傾向にあります。
GDPデフレーターと消費者物価指数
GDPデフレーターと消費者物価指数の根本的な違いは、数値に反映される要素の違いと、財・サービスの価格にかかるウェイトのかけ方の違いです。
これにより、両者の数値はズレる時があります。ただし、両者は基本的に近似値をとります。
まとめ
GDPデフレーター→すべての生産活動の付加価値を数値に反映させる/価格へのウェイトは均一。
消費者物価指数→消費者の購買行動のみを数値に反映させる/価格へのウェイトは任意。
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