経済学の重要な恒等式
今回は経済学の重要な恒等式について説明していきます。
金融市場の重要性
経済を考える上で、金融市場についての理解はとても重要なことです。
なぜなら、金融市場は「経済成長やGDPの値の決定要因となり得る」からです。
これについて少しおさらいしておきましょう。
まず、金融システムとは金融市場と金融仲介機関で構成されている点を思い出しましょう。
このうち、金融市場は債券市場と株式市場などで構成されています。
対して金融仲介機関は、銀行や証券会社などで構成されます。
両者はいずれも貯蓄をする人と投資をする人を繋げる役割を担っています。
どうしてこれが必要なのかというと、資本の「希少性」に起因する経済の非効率を是正するためです。
貯蓄=使われていない資本を投資に回すことで、より経済厚生を向上させられるのです。
ところで、経済成長やGDP値の向上には生産性の向上が必須です。
そして、生産性を向上させるためには、貯蓄を増やし投資を増加させる必要があります。
したがって、金融市場をコントロールし、よりよい貯蓄と投資を実現できればその経済の厚生を改善できるのです。
始まりは恒等式から
このように、図や文章で金融市場の役割を理解することも可能ですが、ここでは数学的な理解も深めておきましょう。
式からはより視覚的に経済の構造を読み取ることが可能です。
では、以下の恒等式を追いながら投資・貯蓄・金融市場を含む金融システムの役割について考えていきましょう。
1.Y=C+I+G+NX
2.Y=C+I+G
3.Y?C?G=I
4.S=I
5.S=Y?C?G
6.S=(Y?T?C)ー(T?G)
※
Y:GDP値 C:消費 I :投資 G:政府支出 NX:純輸出 S:貯蓄
1の式はGDP値が消費と投資、政府支出、純輸出から構成されていることを示しています。
このように、国際的な資金の貸し借りや財・サービスのやりとりを加味した実際の経済を「開放経済」と言います。
現実に即して考えるのであればこの開放経済で考える必要がありますが、話が複雑化してしまうので、ここでは純輸出を加味しない2の数式が示す「閉鎖経済」を考えます。
<投資って何?>
この前提に立った上で、2の数式を使って投資について考えてみましょう。
そこで、3のように「投資とは何か」を考えやすいように変形してみます。
この数式は「投資がGDPから消費と政府支出を差し引いた数値である」ということを示しています。
つまり、経済全体の所得から経済全体の消費を差し引いた数値が投資なのです。
所得から消費を差し引いて残る数値は、すなわち貯蓄(国民貯蓄)なので4の数式が導かれます。
<貯蓄って何?>
4は貯蓄は投資と同値であると言います。
この貯蓄が何で構成されているかを調べるために、5と6の数式を見てみましょう。
Tはつまるところ純粋な「税収」と考えて問題ありません。5と6は計算すると同じ式ですが、6は6のまま考えてみましょう。
6の式のうち、(Y?T?C)はGDPから税収と消費を差し引いた数値を示します。
税収というのは国民の所得からすれば「支出」です。
つまり、これは家計における貯蓄=民間貯蓄を示している部分なのです。
対して(T?G)は税収から政府支出を差し引いた数値です。
つまり政府の所得から政府の支出を差し引いているので、これは政府貯蓄を示しています。
この部分が正なら財政黒字、負ならば財政赤字となります。
6の式からは、国民貯蓄が民間貯蓄と政府貯蓄で構成されていることがわかります。
<金融システムは何をしているの?>
恒等式は「常に正しくなければならない式」です。
よって4の数式から考えるに、投資は常に貯蓄と同値でなくてはならないはずです。
しかし、仮にAさんが100万円を貯金していて、B社が100万円の設備投資をしたいと思っていたとしても、二人に何ら繋がりがなければAさんの100万円はB社の設備投資に使われることはないでしょう。
ここで必要となるのが貯蓄と投資を繋ぐ金融システムなのです。
つまり、金融システムはSとIをつないでいる「=」の役割を果たしているのです。
まとめ
経済成長・GDP増大には生産性の向上が必要→生産性の向上のためには貯蓄・投資の増大が必要→貯蓄・投資の増大のためには金融システムが必要
投資とは貯蓄である→S=I
貯蓄とは民間貯蓄と政府貯蓄である→S=(Y-T-C)+(T-G)
金融システムとは「S=I」の「=」である
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