日本は貿易すべきか
今回は、日本が貿易すべきかどうかについて説明していきます。
この文章を読むことで、「比較優位と貿易」と「どのような場合において日本は貿易をするべきか」について学ぶことができます。
比較優位と貿易
比較優位は「取引の参加者間で機会費用を比較した場合に優位にあること」を言います。
この理論は18世紀末から19世紀初頭を生きた経済学者デヴィッド・リカードが提唱した貿易の効果を証明するためのものです。
そのため、比較優位の考え方に基づいてA国とB国が貿易した場合には、必ず双方の国家が豊かになるようになっています。
では、日本もそのような国のうちの一つなのでしょうか?
日本の生産構造について
日本は資源の乏しい国だといわれてきました。
特に食料品の生産量は少なく、食料自給率はカロリーベースで4割を切っています。
例えば、アメリカの広大な土地で飛行機から農薬を散布するのと、日本の狭い土地で人の手で農薬を散布するのとでは圧倒的に生産性に差が出てしまうため、市場に出てくる価格も輸入品の方が圧倒的に安くなってしまうのです。
対して日本は加工品の輸出に長けた国でもあります。
特に自動車や自動車部品、半導体などの工業製品は世界でも屈指の実力を誇り、世界各地に輸出しています。
これらを背景として、自動車ととうもろこしについてのアメリカとの関係を例に考えてみましょう。
【例題】
労働者が1万人いたとして、それらを5000人ずつ割り振った場合を考えます。
日本では自動車を10000台作れ、とうもろこしを2000トン作ることができます。
対してアメリカでは自動車は6000台作れ、かつとうもろこしは5000トン作ることができます。
他の生産可能性については下図を参照してください。
この経済での交易の効果を考えましょう。
<解説>
絶対優位
日本は自動車を20000台生産するのに1万人の労働力を必要とし、4000トンのとうもろこしを生産するために1万人の労働力が要ります。
対して同じ労働力をアメリカが自動車に投入すると、20000台生産でき、とうもろこしは10000トン生産できます。
この時アメリカはとうもろこし生産において絶対優位性があります。
対して自動車に関しては、どちらも同じ労働力=投入量で生産している状況です。
比較優位
しかし、比較優位の考え方を導入した場合は、双方にとって利益が生まれます。
日本は自動車を10000台生産するのにとうもろこしを2000トン諦めなくてはなりません。
対してアメリカは、自動車を同じだけ作るためには5000トンも諦める必要があります。
つまり、日本は自動車を作る上での比較優位性を持っているということになります。
例えば、日本が自動車を20000台生産し、アメリカが14000台の自動車ととうもろこし4000トンを生産します。
日本が5000台の自動車と引きかえに1500トンのとうもろこしをアメリカと交換すると、日本は自動車15000台、とうもろこし1500トンの生活が送れるようになります。
対してアメリカは、19000台の自動車と2500トンのとうもろこしのある生活が送れます。
これはどちらも単独で生産していても得られない生産量です。よって2国は貿易をするべきです。
国の豊かさ・国民の豊かさ
しかし、国同士で交易をする場合注意が必要です。
なぜかと言えば、国全体が豊かになっていても、国民それぞれの生活に目を向けると必ずしも全国民が豊かになっていない場合があるからです。
先ほどの例でいえば、完全に生産を打ち切られた日本のとうもろこし農家は、泣く泣く自動車製造業へと転職をしなくてはいけません。
また、アメリカでも生産数を削減された自動車製造業での働き口がなくなり、とうもろこし農家に転職せざるを得ない国民が出てきます。
この問題は、現在争点になっているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)にもつながります。
関税障壁をなくして輸入を活発にした方が、市場としては豊かになると予測されるのですが、海外の安価な食料品などが輸入されれば日本の産業が大打撃を受けることもまた、予想ができるのです。
「国全体の豊かさと国民それぞれの豊かさ」、どちらを選ぶのかは非常に難しい判断です。
日本は貿易をすべきか?
日本の産業構造を考えれば、比較優位性を利用した貿易は積極的に行うべきでしょう。
工業製品などを輸出し、第一次産品を輸入するのがベストの選択です。
ただしTPP協定に関しては、その影響を受ける国民のことも考慮しながら、最もバランスのとれた施策を採るべきでしょう。
まとめ
比較優位の観点から日本は貿易すべきである。
国全体が豊かになることと国民それぞれが豊かになることは別問題である。
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