インフレ影響に対する経済変数補正
今回はインフレ影響に対する経済変数補正について説明していきます。
この文章を読むことで、一般物価指数の使い方や物価スライド制について学ぶことができます。
一般物価指数の使い方
GDPデフレーターや消費者物価指数のような「一般物価指数」は、それぞれGDPや消費者の消費性向などをもとに計算されます。
では、これらが実際に役に立つのはどのような場面でしょうか。
以下で具体例を見ながら考えてみましょう。
異なる時点の金額を調べる
お年寄りなどと会話していると、「最近の品物は高いんだなあ」といった話が出るかもしれません。
日本の近代史はインフレの歴史でもあるため、10年、20年、30年と遡れば、たいていの場合「最近の品物は高いんだなあ」となります。
戦後間もない頃のものの価格と現在のものの価格を比較するには、両方の時代の物価水準を知り、現在の貨幣価値に適合させる必要があります。
【例題1】
1970年の平均大卒初任給は、額面にして39900円でした。
対して2012年の平均大卒初任給は、201800円となっています。
なんと5倍以上の違いがあります。現在の日本で月39900円の給料で生活はできません。
では、当時の日本は1億総中流どころか1億総ブラック企業だったのでしょうか?物価水準の観点から考えてみましょう。
<解説>
2010年の消費者物価指数を基準年とすると(2010年を100とすると)、1970年のそれは32.6、2012年の消費者物価指数は99.7となっています。
これをもとに、1970年の39900円という賃金が現在におけるいくらなのかを求める式は、次の通りです。
[対象の時代の貨幣価値×現在の一般物価水準 / 対象時代の一般物価水準=現在の貨幣価値]
39900円×99.7/32.6=122025円
従って、当時の大卒初任給は2012年の122025円に相当するということになります。
これでも今と比べればかなり少ないですが、生活していけないレベルではなさそうです。
物価スライド制とは
次に考えておきたいのは、多くの政府が採用している「社会保障額の決定方法」についてです。
これを物価スライド制(インデグセーション)と呼びます。
これはインフレーション、すなわち物価変動が生活にもたらす影響を先ほどのような方法で測定し、それに応じて生活保護や各種の手当て、あるいは物の価格などを調整するのです。
あるいは企業などでは「生計費調整手当」と言って「消費者物価指数の上昇に伴って賃金が自動的に上昇する仕組み」を採用しています。
このようなシステムは労働組合と企業との間に交わされます。
では、このインデグセーションが採用されていない社会保障があった場合、どのような事態になるか具体的な数字を見ながら考えておきましょう。
【例題2】
1970年、ある国の政府はその国の歴史で初めて生活保護制度を整備しました。
当時の平均的な消費者が月に支出する金額は5000円程度だったので、最低限の生活を保障するものとして3000円を毎月支給することに決めます。
しかし、その後40年間、その金額は変更されないままでした。
すると、2010年になっても生活保護受給者は毎月3000円の支給しか受けられません。ですが、同じ年の平均支出額は21万円になっていました。
必然的に生活保護受給者たちの生活はすさみ、国の治安は乱れていく一方です。
<解説>
極端な例ですが、インデグセーションの重要性がよくわかるのではないでしょうか?
支出額が42倍になっているので、生活保護支給額も42倍にしなければ理屈に合わないのです。
実際はこのように単純な計算では解決しない問題ですが、「法律も世情に合わせて変えていく必要がある」ということは理解できると思います。
物価スライドすべき?しなくていい?
所得税法や生活保護法、あるいは年金法などではこの物価スライドを適用し、定期的に調整を施しています。
しかし、それがいつでも適切に行われているわけではありません。
「物価変動に対応していない税体系も少なくない」ということに注意しておきましょう。
インフレーションの影響に対する経済変数の補正
一般物価指数が役に立つのは、異なる時代の金額を調べたり時代に応じた給付などを行う時です。
この時、一般物価指数の数字の扱いを適正に行わなければ、本当に必要な金額が支給されずに深刻な社会問題を招きかねません。
そのため企業や政府は、給料や給付金が時代を通じて適正になるように物価スライド(インデグセーション)を行っています。
まとめ
異なる時代の金額を比べるには、物価水準を知る→換算するの手順を行う。
<過去の貨幣価値を現代のものに換算する式>
現在の貨幣価値=対象の時代の貨幣価値×現在の一般物価水準 / 対象時代の一般物価水準
物価スライド制(インデグセーション)→物価水準に応じて対応を変える。生計費調整手当、生活保護制度、年金法などで利用される。
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