需要とは
今回は需要について説明していきます。
この文章を読むことで、「需要と価格の関係」や「需要に影響を与える変数」について学ぶことができます。
需要と価格は連動している
需要とは買い手が買いたいと思う欲求を指し、その買いたいと思い、かつ買うことのできる量を「需要量」と言います。
需要量は数多くの変数によって変化し、経済を動かします。
例えば、アイスクリームの需要量は気温や天候にも左右されますし、節電運動が盛んな昨今の日本では夏の電力供給量も変数の一つに数えられるかもしれません。
しかし、需要量に対して最も大きい影響力を持つのは「価格」に他なりません。
たとえどんなに暑くても、300円の氷菓子が750円になれば誰もが購入を控えるでしょうし、逆に冷夏であっても300円のアイスクリームが100円になれば需要量は増加するでしょう。
この財の価格と財の需要量の関係性は、ほとんどの市場について当てはまります。
たいていのものは、値段が高くなれば買わなくなりますし、値段が安くなれば買うようになります。
これを「需要法則」と呼びます。
この価格と需要の変動を一覧にしたものを需要表と呼びます。
ラーメンの値段が1杯600円だった場合、ある男子大学生Aは毎月20杯のラーメンを食べますが、1杯が800円になれば12杯に減り、500円になれば25杯に増えます。
これを価格が0円に、ラーメンの需要量が0杯になるまでの変動を記すのです。
市場の需要は個人の需要が構成している
今見た需要表はあくまで「個人の需要」です。市場全体の需要量を考えるにはこれだけでは情報不足です。
ですが、同時に個人の総需要の集合体が市場の需要であるのも事実です。
つまり、4人の市場があったとして、その市場の総需要量は各人の需要量を足し合わせたものになるのです。
では具体的に見ていきましょう。
【例題】
グラフ1は前述の男子大学生Aの需要量を座標に落とし込んだ「需要曲線」です。
グラフ2はAの友人でラーメン研究会メンバーのBの需要曲線、そしてグラフ3はBのガールフレンドCの需要曲線です。
これらの需要量を足し合わせて作ったのがグラフ4です。
<解説>
この時、この3人が形成するラーメンに関する市場の総需要曲線がグラフ4だと言えます。
需要曲線では価格を横軸に取るため、需要法則によって右下がりのグラフを描くようになっています。
需要曲線の大前提は「価格と需要量以外の消費者の需要に影響する要素は全て一定である」です。
このように仮定すれば、現象をより単純化できるので、価格に対してどのように市場が反応するのかを理解しやすくなります。
需要曲線がシフトするとき
とはいえ、「価格と需要量以外の要素が変動しない」という前提はあまりにも現実からかけ離れています。
「気温が変動すれば、あるいは電力供給量が変動すれば、アイスクリームの需要量は変動する。」それが現実です。
需要曲線において価格と需要量以外の要素が変化すると、何が起きるのか。
それは需要曲線のシフトです。
需要曲線のシフトが起きる要因としては、「買い手の所得」「関連する財の価格」「嗜好」「期待」「買い手の数」が挙げられます。
以下でそれぞれのパターンについて具体的に見ていきましょう。
正常財と劣等財
所得が減少すると特定の財の需要量は減少するのが一般的です。
「お金がないから買わない」というのは簡単に理解できる心理です。
このような一般的な性質を持つ財を「正常財」と呼びます。
しかし、それとは逆に「お金がないから買う」という性質を持つ財もあります。
「劣等財」と呼ばれるこの財は所得が減少するほどに需要量が増し、逆に所得が増加すると需要量が減っていくのです。
【例題】
2011年のAさんの年間所得は240万円でした。
彼は一人暮らしで彼女もいなかったので、食事にはかなりお金をかけていました。
肉と言えば国産の牛肉を買い、鶏肉や豚肉は滅多に買いません。
しかし2012年の春、突然勤めていた会社が倒産してしまい、無職になってしまいます。
なんとかアルバイトを見つけて働きましたが、その年の所得は120万円ほどになってしまいます。
Aさんは将来への不安もあって節約することにし、それまでは買わなかった鶏肉をメインの生活に変え、牛肉は滅多に買わなくなりました。
<解説>
この場合、所得が減ると需要量の減る牛肉は正常財で、所得が減ると需要量が増えている鶏肉が劣等財ということになります。
劣等財の他の例としては、例えばバスや電車の利用回数が挙げられます。
なぜならば、所得が高くなるとタクシーやマイカーの購入が増えるのに対して、公共交通機関の利用は減少するからです。
逆に所得が減って家計に余裕がなくなれば、公共交通機関の利用は増えるのです。
代替財と補完財
類似する財が二つ存在し、そのうちの一方の価格が低下するとき、私たちは価格が低下した財の需要を増やし、もう一方の財の需要を低下させる傾向にあります。
このような性質を持つ財同士を互いにとって「代替財」と呼びます。
これはより安いもので同じ欲求が満たされるのであれば、より安い方を買うという心理です。
逆に、一方の価格の低下によってその需要が増加すると、同時にもう一方の財も増加する性質を持つ財もあります。
これは一緒に使われるペアの財である場合が多く、「補完財」と呼ばれます。
【例題】
憂鬱な日々を過ごすAさんにある日嬉しいことがありました。
それは、いつもバイト終わりの自分へのご褒美として買っていたコンビニ・スイーツとスーパーのゼリーのうち、コンビニ・スイーツの値段が50円ほど安くなったのです。
それまではどうしてもコンビニ・スイーツは割高だったので我慢していたのですが、これを機に少しだけコンビニ・スイーツを買う回数を増やし、ゼリーを買う回数を減らしました。
ある日「今日は帰ったらコンビニ・スイーツが待っている」と浮かれた気分で次の日の朝食の食パンをスーパーに買いに行くと、なんと食パンが20円安くなっていました。
その結果食パンを買う量が増え、Aさんはジャムも少し多く買うようになりました。
<解説>
この場合、コンビニ・スイーツとゼリーは代替財で、食パンとジャムは補完財ということになります。
代替材の他の例としてはサラダ油とオリーブオイルが挙げられます。
ですが、同じ油でもごま油とサラダ油は使い道が違うため、代替財にはなりません。
対して補完財の他の例は、コンピューターとソフトウェアとか、ガスストーブと灯油などが挙げられます。
嗜好・期待・買い手の数
需要曲線をシフトさせるのはここまで見てきた要因の他にもあります。
一つは嗜好です。
例に挙げたAさんが牛肉よりも豚肉が好きであれば、所得に関わらず豚肉の需要は伸びるでしょう。
確かにこの嗜好の問題は科学の範疇では語りにくい問題ですが、経済学においてはその心理的・歴史的要因によって変化する「結果」を考察します。
また、将来への期待(予想)も大きく需要に影響します。
Aさんのように所得が減り、将来への不安を抱えると概して需要が減少します。
これは社会全体にも同じことが言え、国の経済の先行きが不安になると消費が冷え込むのと同じです。
あるいは買い手の数は市場全体の需要を増やします。
これは単純なことです。Aさんと同じ需要量を持つ人がBさん、Cさんと増えていけばその分需要は伸びます。
第3の変数の存在
ここで理解しておきたいのは「曲線がシフトしているのは第三の変数が変化した時である」という点です。
これまで見てきた所得の増減や関連する財の価格変化、嗜好や期待、買い手の数はどれも曲線に組み込まれていない数字です。
需要は市場を映す鏡
需要は主に価格の変動に対してダイレクトに反応します。
しかし、需要に影響を与えるのはそれだけではありません。
したがって価格以外の「第三の変数」の変化についても考慮する必要があります。
まとめ
需要法則→需要量は価格によって左右される。
市場の需要は個人の需要の総和である。
需要曲線のシフト要因→「買い手の所得」「関連する財の価格」「嗜好」「期待」「買い手の数」の変動
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